第67話 魔体症の謎
エキナに鍛えてもらい、個人の実力こそ上がったんだけど、チームワークは未だに上達しない。
何度も何度もエキナは私たちと戦ってくれてダメ出しをしてくれる。
そんな中で少しわかったことがある。それは意外にもフーリアは私の指示なら聞いてくれるということ。
ショナも瞬時に状況を判断してフーリアに手を貸して貰おうと要求するんけど、それは大体聞いてくれない。
だからフーリアの行動は私がどうにか指示すればある程度ちゃんと動いてくれる、まあたまに勝手に行動されるんだけどね。
ユウリは体質のせいか魔法の威力をセーブするのが苦手みたい。ほとんどの魔法の威力を制御できないのでなかなかチームでの戦いでは活かせない。
そんな私たちを見てエキナは呆れたような表情を浮かべる。
「お前達……ここまでチームという言葉が似合わないとはな」
「チームなんて頼らなくても私が一人ですべてを終わらせます」
「4人合わせて私一人に勝てないのに無理だろう。というかフーリア、お前はルークの言うことは聞くのにショナの言うことは聞かないのか?」
「それは……!ルークが指示をすると決めたので……」
「それならショナも同じような立場において必要に応じて聞くべきだ。それとお前はその程度のことすらできないのか?」
「……」
フーリアはあまり納得のいっていないようだ。
何が不満なのか……若い子の気持ちは分からない。
本当に昔は素直だった……。
未だに4人がかりでエキナを倒すことができず特訓は続く。しかしユウリの体力が限界に達すると命の危険があるのでそんなにたくさん特訓できない。
そのため、お昼頃には切り上げてご飯を食べる。
エキナは面倒を見てくれている間は食費を出してくれた!
「チームとして強くなるならその魔体症をなんとかしないとな」
「でもこれ生まれつきなんですよ?」
「魔体症は私も聞いたことがある魔法のコントロールが難しい症状だったな。魔力というのは腕に力を込めるのと同じで手加減したりできる。しかしお前の魔体症は脂肪や寿命を使う。さすがの私も自分の脂肪を好きなタイミングで燃やすことはできない。故に感覚的な部分をうまく伝えられない」
まあそんなことできたら肥満体質の人はこの世に存在しないだろう。
その症状の人に会ったのはユウリが初めてだし、どう扱えばいいのかも全く分からない。
本に詳しい事はほとんど乗っていない、それだけ魔体症というのが珍しすぎる。
「しかしそれ故に扱う事ができれば大量の魔力を手にできる」
「と言っても脂肪を使うんですが……後、毎日勝手にその脂肪を消費してしまって……」
「ふむ、ならまずはその消費を抑える方法を知る必要があるか……。お前達が強くなるのは原則として、ユウリ。お前がその身体を扱えるようにならなくてはいけない」
「そんな方法あるんですか?」
「心当たりがある。魔体症だと思うが、魔法に関する特殊な体質の奴がギルドに居る」
私達が強くなるためにはユウリの力は当然必須。
何よりその魔体症を何とか出来ればユウリは今後、生きるために他の人よりも遥かに多い食事を摂らなくて済むようになるかもしれない。
そうなれば……私達チームのお金が浮く!!
「ユウリ、まずはあなたの体質をどうにかしましょう。気にしないで、私は親友であるあなたがこれ以上苦しまないようになるなら喜んで協力するから」
「……絶対お金を浮かせたいだけだよね?」
「……リーダーでお金の管理をしている身からすれば当然の事でしょ」
「何が親友よ。せめて少しくらいは本音を避けなさいよ」
ショナは幼馴染で大切な親友であるユウリの事を想っているのは確かだろう。
だけどショナはユウリのふっくらとしたお腹が好きだからなぁ……。
本心と野心は違う方向を向いていそうだ。
しかし私達の戦力の向上だけじゃなく、金銭面の負担も軽減される。
案外、私達スズランにとっては大切な事なのかもしれない。
ちょうどお昼時なのでエキナの特訓は少し休憩にして、その魔法に関する魔体症と思われる人の所へ向かう。
その人に話を聞こうとしていたんだけど、それよりも先に闘技場の近くである男性に出会う。
エキナは足を止めてその男性に声を掛ける。
「アザミ、ちょうどお前に会いたかったぞ」
「え……エキナさんが俺なんかに何か用っすか?」
「いや、私ではないんだが……お前と似た体質の娘を見つけてな。それでお前に聞きたいことがあるんだが時間はあるか?」
「あー……どうしよ。やっぱり予定あるかもしれません」
凄く嘘っぽい言葉をアザミと呼ばれる男は躊躇いも無く言う。
紫色のとげとげしたようなぼさぼさな髪に気だるそうな瞳と声、髪色はともかく前世の自分にそっくりな男がそこに居た。
なんか……嫌だな……。
「そうか……ふむ、仕方あるまい。ならばアザミの用事を待つことにする」
「え……いや、時間掛るんで」
「私は新人に色々と教えている最中でお前が居ない間はそっちを優先する。だから気にする必要はないぞ!」
「……」
ひたすら面倒ごとに首を突っ込みたくない様子を見せるアザミに対して、エキナは本当に素直な笑顔を向ける。
心からの気にするなという言葉は時に中途半端に人を騙そうとする者の心を意図せず抉ることがある。
面倒ごとを避けるために嘘を付いたアザミは純粋な笑顔を向けるエキナに対して心苦しそうな顔をしていた。
そしてさらに残酷なのはそれにエキナが気づいていないという事。
「……わ、分かりましたよ。何を教えればいいんすか」
「ん?いや、アザミが忙しいのなら後で良いんだぞ?」
「あ……その、予定は……そう言えば明日でした。今思い出しました」
「アザミ……そうか、新人のために今日の予定を明日に……いい奴だなお前は」
「……ちょ、マジでやめてください!俺が悪かったっすから!!」
2人のそんな会話をただただ見ていて少しほっこりした。
ギルドのメンバーの関係性というのは重要で、メンバーの仲が良いという事はそれだけギルドの雰囲気も良いはず。
2人からは私達のような信頼関係と同じものを感じた。
ならきっとユウリの魔体症についても何かいい解決方法が見つかるかもしれない。
私達は一筋の光を見て希望に満ち溢れていた。