第62話 チームワーク
この街のギルド間の洗礼のようなモノを浴びる事になった私達は星の欠片の荒くれ冒険者達と対峙する。
今更ながら相手も4人でわざと数を合わされているようにしか思えない。
だって私達のギルドに乗り込んできた時は3人だったし……それでも喧嘩しなきゃいけないんだから納得がいかない。
「だけどこれはチームワークを高めるチャンスだよ!」
「チームワーク……大事だけど、私の魔法は向かないの……ショナは知ってるでしょ」
「ユウリはまあ……」
ユウリの魔法は常の高火力で高出力、故にコントロールが難しくてチームで戦うのにあまり向かない。
それはまた別にチームでの戦いに不安を覚えている子が居る。
「私もできれば1人で戦いたいんだけど……連携は多分できないし」
「フーリアまで!?」
ユウリの魔法は大地を操るから仲間を巻き込む可能性がある。
フーリアもずっと一人で戦って来ているから戦術自体はタイマンのモノが多い。
ショナは目に涙を浮かべた状態で私の事を見て助けを求めている。
まあ私の魔法はサポート向けだからその期待には応えられると思うけど……果たして経験の浅いこのチームをうまくサポートできるだろうか……。
そんな不安を抱きながらも闘技場の試合……という名の喧嘩が始まる。
それと同時にダクトが大きなアーティファクトの太刀を構える。
試合が始まると早々、ダクトは太刀を振るい、フーリアへ襲い掛かる。
それをフーリアは黒く細い刀身の剣で受け止める。
「なんだその弱そうな剣は!!」
「この剣が弱そう?見る目無いんじゃないの?」
「じゃあどっちが強いか勝負だア!!」
「望む所よ!!」
フーリアは全力で剣を握り、ダクトを確実に仕留めようと動く。
太刀の間合いは広く、懐に入るのは難しい、それでもダインスレイブの剣とフーリアの鍛え抜かれた剣術なら相手を捉えるまでそう時間は掛からなかった。
相手が相当な実力者ならこう簡単にはいかないはず、やっぱりダクトにB級冒険者ほどの実力は無い。
しかしそこへ……。
シュパッ――!
風を切る矢の音がダクトの背後から聞こえ、その矢はフーリアを捉える。
私はそれを炎の魔法で消し炭にする事を考えて魔法発動と照準を合わせるために手を翳す。
翳した先の物を燃やす。しかしそこへショナが飛び出してきてしまう。
矢に私よりも早く気づいたショナは真っ先にフーリアを守るために動いていた。そのフーリアは弓矢が飛んでくるのが分かって一旦引こうとする。その結果、矢はショナが落としたけど、私の炎の魔法をショナは受けてしまい、フーリアは後ろに無理やり移動したことで隙ができてしまう。
「やば……!!」
「熱い熱い!!」
「ショ、ショナ!私の炎は味方には効かないよ!!」
「え……あ、そっか……むしろなんか気持ちいような……」
「そんなこと言ってる場合じゃない!!フーリアが危ない!!!!」
剣と剣を交えている状況でありながら自分に飛んでくる矢を避けるのはさすがだけど、さすがにその先は厳しい。
ダクトが太刀のリーチを活かして距離を取ったフーリアへ突きの攻撃を放つ。
これは避けられない……早くも一人脱落かと言うところでフーリアの前に巨体の何かが現れる。
それはぽよよんとしたふっくらなお腹を使い、なんと太刀の突き攻撃を押さえた。そのお腹の持ち主はユウリだった。
その光景に思わずダクトは驚きの声を上げる。
「はぁ!?醜い腹で俺の攻撃を受け止めた!?」
「は……?」
ユウリは自分のお腹が醜いと言われた事でぶちギレる。
するとみるみるお腹が萎んでいくとユウリの回りには膨大な魔力が溢れ出す。
まさかこの子は大地を操る魔法を使おうとしている!?強力な魔法だけどチームワークが必要なこの戦いにおいては仲間を危険に晒す可能性がある。
先程も言った通りユウリはチーム戦に向かない。
今のユウリは怒りで我を忘れている状態……何をしでかすかわからない!!
そしてその不安は悲しくも当たってしまう。
「大自然の怒りを受けろ!!アースブレイク!!!!」
ユウリが吼える。
それと同時に闘技場の地面が割れる。これは……上級の地属性魔法!
「フーリア!ショナ!!ユウリの所に集まって!!」
こういう大地を割る魔法というのは強力だけど単純な弱点がある。それは術者の一定範囲内は魔法に巻き込まれないというところ。
大地を割るなんて魔法だからこそ絶対に自分にも影響を及ぼすわけにはいかない。
私たちはユウリの周りに集まる。一方で相手チームは割れて蠢く大地に足を取られてまともに動けない。
これは、チャンスね。
「色々ミスったけど攻撃に切り替えるよ!だからユウリ一旦魔法を止めて!!」
私はユウリにそうお願いしたけど、声は届いていない。
彼女の瞳は完全にダクトを睨んで放さない。するとそこへショナが声を掛ける。
「ユウリのお腹は可愛いし美しいよ!!」
「……え、本当?」
「当たり前でしょ!ユウリのお腹はいつも枕にして寝てるくらい心地いいんだから!!」
いつも枕にしているって……それは誉め言葉じゃない……。
むしろそれは太っていると言っているようなもの……今ダクトに向いている怒りがショナに向く可能性すらあった。
しかしこの誉め言葉?でユウリはどんな反応をするのか、私は固唾を飲んだ。
「えへへ、まあ自慢のお腹だからね!」
普段はあまり喋られなくて、大人しい子で表情もそこまで豊かじゃないユウリ。だけどお腹を褒められて私は初めて満面の笑みを浮かべるユウリを見ることができた。
ユウリの感情は少し薄いだけでちゃんとある。当然怒りも感じる。
「わかった……一旦攻撃を止めるね」
ユウリは大地を揺らす魔法を止めてくれた。
これでようやく攻撃することができる。
「今がチャンスね……直ぐに態勢を戻される前に私の速度で切り裂く!!」
フーリアがそういうと再び剣を構え直し、敵陣へ乗り込む。
しかしそこで……闘技場の審判をしている人が止めにはいる。
「そこまでー!!」
「なっ……どうして……!!」
「貴女達の相手をしているチームが降参すると先ほど連絡がありました」
「なっ誰がそんな……?」
確かにダクトはまるでお子さまランチについているような小さな白い旗を振っていた。
どうやらこれが降参の合図みたいだけど……なんだかすごく煽られている感じがして不愉快だ。
ダクトは負けて悔しんでいると言うよりは笑っている。
しかし、降参されてしまえば戦う理由はなくなる。
試合には勝ったけれど、なんだか納得のいかない終わりに私達は不満を感じていた。