第60話 ギルドのプライド
ギルド花園で私達は依頼をこなし着実に成果を上げている。
ルエリアでは国の中に暗躍する組織が居るおかげで駆け出しの冒険者は成果を上げづらかった。
だけど学校で一年生のトップレベルの実力はある私達のパーティならある程度の成果を上げるのにそう時間は掛からなかった。
今日も依頼を2つほどこなしてギルドまで戻ってくる。
成果は上げられるようになったけれど依頼の報酬以上の働きをしないと花園の冒険者としては失格だから一日に受けられる依頼が少ない。
そこだけは融通が利かないものの、ここで冒険者として名を上げてルエリアに帰った時に新人として依頼を受けるんじゃなくて実績を持った冒険者として普通に依頼を受けられることになる。
ここでの成果は全てルエリアの冒険者ギルドに伝えてくるとリリィは約束してくれた。おそらくギルマスのあの手紙のおかげだろう。
私達がここでやるべきことは依頼を受け続けること、それだけだ。
私は肩に乗っている狐みたいな魔物ルミナの顎下を撫でる。
暇しているわけじゃない、今は依頼を達成したのでその報酬の確認を受付で待っている。
「スイレンの皆さん~確認が取れました~」
その言葉を聞いて受付の方へ代表してショナが向かう。
諸々話をして問題が無ければ報酬を受け取る。今回の依頼は街の周りの害獣避けと荷馬車の護衛。
このジャスミンの街の近辺では狂暴な猛獣が溢れている。
だから冒険者の依頼など後が絶たない。それも猛獣を相手にするから冒険者としても実力も上がっていく。
私達スイレンの連携は日に日に良くなっている。フーリアがたまに勝手に先行したり、重要な所でユウリが魔法を使えない点は改善しなきゃいけないけど……。
それでも他の3人も自分たちの成長を噛みしめているはず、このままの平和を保ったまま実績を積んでルエリアへ戻りたい所だ。
お金にも余裕ができて受付を待っている間に紅茶を飲んでいる。
すると突然、ドンッ!!と大きな音と共に熱々の紅茶が跳ねる。
唇に紅茶が触れるけど熱さに耐性のある私には何の問題も無かった。
「熱っ!!何なのよ……」
なおフーリアには耐性が無いので普通に唇を火傷していた。
急にギルドの扉を凄い勢いで開くとは何事だろう。ここの人達は比較的真面目で上品な人が多い。
扉を開ける時も静かだからこそ、ただならぬ扉の音にギルドの中に居た人達が一斉に目を向ける。
見たことのある巨体の男がギルドに我が物顔で入ってくる。
「おい!リリィのクソ共!!!!」
大きな声でギルドの事を悪く言いながら受付の方まで向かおうとしている荒くれの男達。
それをユリカが両手を広げて止める。
ユリカが若干9歳の少女……相手は30歳を超えているだろう男性が3人。
あまりにも対格差、迫力が違う。
「何の用でしょうか星の欠片の皆さん」
「あ?ガキかよ。こんな子供を使わなきゃいけない程このギルドの人手は少ないってか?」
見たことある巨体の男が言う。するとその後ろに居る仲間と思われる男達が笑う。
確かにこのギルドには若い人が多い。そして残念ながら舐められている。
ユリカ1人にここを任せるのは流石に可愛そうだし、ここは……フーリアかショナを連れて助けに行くべき!!
と考えていたんだけどそれよりも早く荒くれの男達の前に騎士の恰好をした女性が立つ。
「女子供と笑っているが、貴様らはどうなんだ?」
「……エキナか。お前がギルドに居るなんて珍しいじゃねーか」
「ふーん。私が依頼を受けて忙しい事をお前は知っているんだなダクト」
「……ちっ、まあいい。今はお前に用は無い」
「用が無い?ウチのギルドを笑っておいてか」
「はっ、女子供しか居ない雑魚ギルドだからな」
「雑魚?毎年国を挙げて行われる祭りで一度も私達に勝てていないお前達が言うか」
「あぁ!?」
星の欠片のチンピラを相手に一歩も引かないのがエキナ=バイオレット。
このギルド1の女剣士でS級の冒険者。
この国のギルドの冒険者の位はFからSまであり、エキナその最高峰に居る。このギルドの顔と言ってもいい人だ。
だけどS級と言うこともあり引っ張りダコであまりギルドに居ない。今日はたまたま居たから彼女が対処してくれる。
このギルドの人達はエキナ以外の普通の魔導士、剣士でも相当な実力者ばかりで正直雑魚とは到底思えない。
本当にただただ嫌味を言いに来ただけかもね……。
「さっきも言ったがお前に用は無い」
「ふむ、じゃあなんだ?また告白か?残念だが、私には片思いの人が……」
「ちげーよ!!」
告白したことあるんだ……。
荒くれの冒険者と華の冒険者……正直合わないわね。
「お前のギルドの4人のチームの奴らに仕事を取られたんだよ!!」
「む、それは聞き捨てならないな。もし本当なら謝罪しよう」
「頭下げて許されることじゃねーよ!!」
「ちなみにその4人は?」
「スイレンとかいうチーム名の奴らだ」
「分かった、確認しよう」
まさかの私達だった。
こんなことなら荒くれ冒険者ダクトからの華の冒険者エキナへの告白の方がまだましだ。
だけど妙ね……私達は依頼をちゃんとこなした。無駄に獣を狩りすぎても良くないので規定数以上を狩らず、完璧にこなしたはず。
その証拠に受付の人には確認を取ってもらいちゃんと依頼達成の報酬をもらった。現にエキナは受付に確認を取りに行きその旨をダクトに伝える。
「依頼者からは完璧に依頼をこなしてもらえたと聞いている」
「あぁ?じゃあ俺らの狩るべき獣がどうして一匹足りねーんだよ!!」
「国から認められている依頼を受けている私達とは違い、お前達のは有象無象の依頼が多い。そのせいだろう。それに獣なんてこの国にはそこら中に居るだろう」
「んな事は関係ない。お前も分かってるんだろう?」
「はぁ……そう言う事か」
エキナはその状況に何か身に覚えがある様子。
そのままダクトを連れて私達スイレンの居る方へ近づいてくる。
「お前達、時間はあるか?」
「ありますけど……私達普通に依頼をこなしただけなんですが……」
「分かっている。我がギルド花園のリリィはお前達を疑っていない。だが、ギルドとギルドの争いは解決する必要がある。それは国を巻き込まずギルド間でな」
「それを私達にやれと?」
「そう言う事だ。まあ気負う必要はない。万が一負けても私が責任を持つ」
「負ける……?」
「百聞は一見に如かず、まずは来るといい」
「……分かりました」
到底納得できるわけがない。
だけどそう言われては付いて行かないわけにもいかず、黙って従う。
そこはジャスミンの街の中央にある闘技場だった。
エステリア学校のより大きい……。その闘技場を見上げている私達に対してエキナは衝撃の言葉を放つ。
「ギルド間の喧嘩は力でねじ伏せる。今から闘技場でこの馬鹿共と戦え」
「「「「ええええぇぇ……!?」」」」




