第59話 スイレン
試験である狼退治の依頼を難なくこなした私達はハーベスト帝国のジャスミンの街で冒険者ギルド花園の支部リリィで認められた。数多くの魔物と戦って来たんだからこれくらい余裕だった。
というのも狼は魔物ではなく、本当にただの狼。ジャスミンの街から出る馬車を襲うから対峙して欲しいというシンプルな依頼だった。
依頼達成で冒険者として依頼を受けられるんだけどそこで私達は大きな壁にぶち当たっていた。
「ん~じゃあフェアリーガールズSYHLは?」
「……」
「……」
「……」
私達というか私は皆に任されて色んなチーム名を提案した。
10個くらいさっきと似たようなチーム名を提案した所、皆はこの世の終わりのような顔をしていた。
最初の頃は「無理」「お腹空いた」?「は?なめてんの?」と即答で否定されたんだけど、8回目以降から無言で聞き流された。
割と皆に合うチーム名を考えたはずなんだけど……何か悪い点があるんだろうか。
「えーじゃあ……」
「待って待って」
「どうしたのユウリ?」
「いやいや、確かにチーム名を考えて欲しいとは言った。それで正直頼んでおいて即否定しているのは自分でもどうかと思ってるけど……」
「けど?」
「なんか聞いててダサい上に恥ずかしい……後なんでそんなセンス無い言葉がそんなにスラスラ出てくるの!?」
「ダサい!?」
年齢的に女子高生の子達にダサいと言われるのは何というか凄まじいほどショック……これが若い子との感性の差か……。
初めてこの世界で泣きたいと感じたほどにその言葉は私の……いや俺の心に響いた。センスや感性は前世の記憶があるせいかほとんど一緒だからね。
前世の自分を否定された気分になった。
そこへ黙って居たショナがチームの名前を提案する。
「もういっその事ショナ&ユウリ&ルー……」
「却下」
「……即否定ね。フーリアじゃあ何か言いのある?」
「ん~炎帝とかは!?」
「あれ?確かそれってルークの使う魔……」
「やっぱなしで」
「……」
このようにどれだけ案を提出しても誰かが拒絶する。
グループで行動する以上このギルドではそのチームでの名前が必須。責任感の強いギルドだからか、自分達がこの依頼を受けると言う重圧をあえて与えるためにチームでの名前を出すように言われる。
確かにチームに名前があればモチベーションが上がるし、そのチームで戦っているという責任を感じ取れる。
意外にも大事な事だったりする。それは良いんだけど……こうも相性の悪い私達がお互いに納得いくような案が出るはずもなく……。
こうして苦楽を共にしているが好きなモノ、魔法や使う剣の属性、センスなどはホントに合わない。
良くそれで仲良く過ごせていると思う。
そんな中に一筋の光をリリィは投入してくれる。
「それではスイレンなどはいかがでしょう」
「どうしてスイレン……?多分花の名前ですよね?」
「ええ、可愛らしく白いお花で皆さんにピッタリかと」
個人的にはただ普通に花の名前を使うって言うのは微妙だ。
スイレンなんて可愛い花の名前だからその次にドラゴンを付けて皆の頭文字を合わせて……スイレンドラゴンSYHL……。
「却下よルーク」
「私まだ何も言ってないんだけど!?」
「クソださい名前考えてたでしょ?聞いてるこっちが恥ずかしいからやめて」
「……はい」
結局チーム名はスイレンで決まった。
私が口を出そうとすると本当に嫌悪した顔でこちらを睨むフーリアを見て諦めた。
チーム名が決まるとリリィは再び穏やかな表情で――
「ようこそギルド花園へ。スイレンの皆さん」
おぉ……本格的に冒険者になった気がする。
いやまあ一応ルエリアでは冒険者だったんだけどね?だけど向こうではどちらかというと学生がメインだった。
しばらく期間が空くことになっちゃったから学校が再開するまでは一般人と同じ。
そんな色々な事が重なり凄く新鮮な気持ちになる。
冒険者として認められた私達は早速依頼を……受ける事はなく、今日の所はショナの家へ戻る事にした。もう外は夕暮れ時だからね。
受ける依頼が一個一個丁寧にやっていかないといけない。
それが花園の方針で一個の依頼で何時間も持って行かれる。
依頼の報酬以上の働きをしないと花園の冒険者を名乗れないときつく言われた。狼退治もただ退治するだけじゃなくて、馬車が通りやすいように石を退けたり、草刈りまでやらされた。
これがセットで討伐依頼。
報酬はルエリアより増えたけれど、労力が半端ない……。
その上、魔物はこの国にはほとんど生息しておらず、ただただ害獣になる生き物をかるくらい。
果たしてこんなことをしていて強くなれるのだろうか?