第56話 冒険者ギルド花園
ハーベスト帝国に着いて早々、トラブルに巻き込まれた私達は何とかそのピンチを乗り越え、本来の目的地であるギルド花園へ向かっていた。
フーリアがショナにギルド花園の場所を聞こうとした時、どこからともなく少女が声を掛けてきた。
声のする方を見るとそこには誰も居ない……いや視界の下、端に髪の毛が見える。私は目線を下におろすとそこには赤い髪の少女が私の事を見上げていた。
「リリィの関係者の人ですか?」
私がそう聞くと何故かショナとユウリは笑っていた。
少女に敬語を使ったからか子供相手でも緊張するのでほとんど無意識だった……死にたい。
「と、年下に敬語使うのなんか可愛い!」
「なっ!?仕方ないでしょ!!人とあんまり話さないんだから!!」
アンタレスでのトラブルの時は相手が荒くれ者で戦う事を視野に入れていたから多少は大丈夫だった。
だけど今回は無邪気な少女に声を掛けられてしまい、私のコミュ障が発動してしまった。これは前世と今の記憶を合わせた経験でも改善しなかった。というか別に年下に敬語だって使うでしょ……!!
そんな事を考えているとは知らずショナはまるで小さい子供に対しての接し方を見せつけるかのように少女の目線まで足を畳んでしゃがんだ。
「君はリリィの冒険者の子供?」
「ううん、私はリリィの冒険者だよ!」
「ぼ、冒険者……?9歳くらいの子に見えるけど」
「凄い!どうしてわかったの?!」
「え……」
まさかこの子は9歳で冒険者をやっている……?
突然の回答に驚いているとまた少し離れたところから女性の声が聞こえる。
「ユリカ~!!ちょっと。勝手に行かないで……」
「あ、リリィお姉ちゃん!遅い~!!」
ユリカとはおそらくこの少女の名前だろう。
じゃあリリィと言うのはまさか……?ギルド花園の支部と同じ名前ってことはきっと偉い人よね?
だけどこんな9歳の少女に冒険者をやらせるギルドってどうなの……?見た目からして凄く優しそうだ。後とってもいい匂いがする。
長い黒髪にパッツンといういかにも清楚系の女性だけどギルドで活動していくのなら見極める必要がある。
これはこのチームでの私の“役目”だからね。
それにしても私は自分でも警戒心の強い人間だと自覚している。
それなのに背後を取られたことに気づけなかったのは私が間抜けなのかそれとも……ユリカという少女の何らかの力なのか、敵対心は無いみたいけど一応頭の片隅に置いておく。
「こ、これを」
私はギリギリのコミュニケーション能力を使い声を発する。
それと同時に手紙を渡した。これはエステリアの冒険者ギルドからのハーベスト帝国の冒険者ギルドへ宛てた手紙だ。
見ただけで何なのか分かるのならとりあえずリリィの関係者と見ていいだろう。
「あら?それは私達のギルドの紋章、手紙ですね。依頼ですか?」
「あ……えっと……」
どうしよ……どう説明すれば……!
知らない人と話すという事に頭が限界を迎え、考えが整理できない。
「はぁ……これは私達がお世話になっていたエステリアのギルドの方からこっちのギルドの人に渡せと言われたものです」
私がオドオドしているとフーリアが横から助けてくれた。
15の少女に助けられるなんて……!!
「ほうほう、私達のギルドの依頼を受けたいと」
「はい、大丈夫ですか?」
「……私達のギルドは年齢等をあまり重視していません。大事なのは実力です」
「なるほど、むしろそっちの方が大歓迎です」
実力主義か……だから9歳の少女でも冒険者として採用しているの……?
だとしたら相当な実力があって、だからこそユリカという少女は私達の背後を取ることができた?
「で、それはどう見せつければいいの」
「貴女、結構自信があるのね」
「まあそれなりに……」
「いいわ。そういう子は大歓迎だから!それじゃあ私達のギルドへいらっしゃい」
私達はリリィと言う私達と同じ位の年頃の子とユリカという少女と共に冒険者ギルド花園へ案内される。
その道中、私は妙な違和感を覚えた。
何というか……街の雰囲気が良くなった気がする。
先ほどとは違い、街の雰囲気が明るくて居心地の良さを感じる。
「なんか雰囲気が変わってない?」
街のど真ん中に今、私達は要る。後ろを振り返ると暗い街の雰囲気が、前を見ると明るい雰囲気の街並みに分かれている。
そこまで来ると街の雰囲気が華々しいように見える。外装や色彩などは変化が無いんだけど……。これは……街の人達の活気がいいのだろうか。
「あら?良く気づいたわね」
「え……あ、すみません」
「え、なんで謝るの?」
私は隣に居るフーリアにだけ話しかけたつもりだった。
だからいつも通りの感じで話していたんだけど、それが他の人に聞かれていた事に気づいて何とも言えない気持ちになった。
私が余計な事を言ったせいで面倒だけど対応してくれたみたいな……そんな中咄嗟に出たのが謝罪の言葉だったわけで……。
「あーまあこの子は人見知りなんですよ。ただ結構頼りになるんですよ!剣じゅ……」
ショナがその先の言葉を言う前に、フーリアがショナの口を押さえつける。
今回、私はこの国では魔導士を貫くことにした。
外国の知らない土地の冒険者で生きていく、そうなるとやっぱり最も得意な分野で戦う方が良いと考える。
私は普通に魔法の方が得意だしね。だからこそ、ここで剣も使える事はバレたくない。
しかしそんなことは知らないリリィ、当然ながら話している相手の口がいきなり他の人に塞がれて疑問に思っているだろう。
「どうしたんです?」
「え、あ……いやぁ……は、話せない事とか色々あるので!!」
「話せない事ですか」
「あ……」
ここは上手く誤魔化す所だった。しかしフーリアはそんな小細工が苦手なのかそれとも純粋なのかそのままストレートに応えてしまう。
そうなると得体のしれない人をギルドへ招き入れる事になるのでもしかしたら来ないで欲しいと言われるかもしれない。
「なるほどまあ色々事情がある人は多いですから冒険者は」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、なので気にしなくていいですよ!」
ひとまずギルドへの立ち入りを拒絶されることは無さそうだ。
そしてついに百合の花の紋章を象った看板とその数歩先に見える大きな建物へ到着する。
リリィ達は私達の前に立ち、手を広げてまるで歓迎してくれているようだ。
「ようこそ、私達のギルドへ!!」




