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第3話 学校へ

 

 どうして学校へ行けと言われて、私が見捨てられると考えたのか、それにはフーリアが居なくなってからの数々の出来事が原因だった。

 母が亡くなった2年後、現在15歳だから13の時かな。


――

 突然フーリアが引っ越したと聞いて暗い気持ちに……その時は少しの間だけ引きこもっていた。


「はぁ……」

「お嬢様、今日はお勉強はありません。どこへでも付き合えますが……」

「ううん、大丈夫。気にしないで」

「そうですか……それでは何かあれば呼んでください」


 そう告げてメイドのアナは私の部屋のベッドの小さなテーブルに置いてある呼び鈴を見る。

 呼ぶときはそれを鳴らしてと言う事だ。


 この呼び鈴はとっても小さな音だから毎度鳴らしても一度も聞き逃さずにアナは来てくれる。

 アナにこんな小さな音で良く聞こえるねと尋ねたら「メイドですから」と言われた。


 メイドになるための学校もあるみたいだからそういう所で学んだのかもしれない。

 

「メイドすご」


 確かにアナの言う通りこのまま何もせずにしているのも良くない。フーリアは王都へ行ってしまった。だけど会えなくなったわけじゃない。

 

 まだ子供だから無理だけどいずれ王都へ行ける日が来るはず、その時フーリアに笑われないようにしないと!

 魔法と剣術は両方学んでいるけど、剣術に関してはもう少し自分流にアレンジしたかった。

 

 やっぱり前世の記憶があるからか日本人ぽい剣術に憧れる。やり方は知らないけど映像で見たような動きを再現する。

 この身体ならそれができるはずだ。

 

 女の子の身体だが、おそらくもう前世の自分を超えている。もしかしたらこれは女神から貰った力なのかもしれない。

 確信を持って言えないのは自覚が無いから、もう少し女神から聞いておくべきだった。

 

 しかし私の最も褒められるものは魔法。先生は魔法を専門に学んだ方が良いと言っていた。

 だけど剣術に憧れる……前世は日本人だったからこそ、刀を使った剣術に魅了されるのは日本男児なら当然じゃないだろうか。

 

 まあ今は女の子なんだけどね……。


 だから魔法はもう大丈夫、これから学んでいくことで充分だし、唯一前世のモノで役に立つ知恵も魔法を相手じゃ限界があるからね。

 やっぱり剣術だ!


 部屋でずっと考え込んでいても仕方ない。私は呼び鈴を鳴らそうとテーブルに手を置いた、その時――


「お嬢様!」

「うわぁ!?何!?ア、アナ!?ノックを……」

「それどころではありません至急、旦那様のお部屋へ!!」

「父上に何かあったの?まさか……嫌でも今日は家に居るはず……」

「旦那様は居ます」


 何が何だか分からず部屋を出て父の部屋へ向かおうとした時、アナに止められる。


「身だしなみを整えてください」

「別に父上に合うのならいいんじゃ……それに至急でしょ?」

「……あなた様はバレンタイン家のお嬢様です。そこは至急の用があっても変わらないので」

「……」

「手伝います。はぁ、もう少し身だしなみに気を使ってください。私ならこの年頃には気にしましたよ?」

「……は、早くしなきゃでしょ!」

「用意します」


 アナは私をどこへ出しても喜ばれるような女性にするため身だしなみを気にしてくる。それは結婚のためにもなるからと……正直結婚はちょっと……。

 でももうバレンタインの血を引いているのは私しか居ないから、結婚を望まれる日が来るんだろうけど……。

 

 不謹慎だけど、父が別の女性を連れて来てその間の子に継がせて欲しいなぁなんて……。

 それは亡くなった母に失礼だ。この考えは改めよう。

 

 そんな風に自分を改めてから父の部屋へ向かう。

 身体がまだ小さいせいか父の部屋の扉が大きく見える。自分の部屋の扉とサイズは一緒なのにね。


 私は深呼吸して扉を叩いた。


 コンコンッーー。


 とノックすると「入れ」と聞き覚えのある声が聞こえる。

 扉を開けるとそこには知っている人が一人、後は知らない人が3人居た。

 

 母親と……子供かなぁ?


 いい歳の女性が一人と子供2人、何の用だろう……。


「来たかルーちゃ……ルークよ」


 普段父からはルーちゃんと愛称で呼ばれている。

 だけどたまにルークと呼び捨てすることがある。それは真剣な席の場合で多分今はそれなんだろう。

 

 私は口には出さずにその女性と子供を見る。


「あー……君の新しいお母さんになる人だよ」

「え……じゃあ……」

「2人の子供、アーミアとルーンだ」

「……」


 マジかぁー。

 

 父はまだこの家の家督を継いで5年程度で若い。

 亡くなった母との会話でこれからゆっくり子供を作って行こうと言っているのを聞いたのを覚えている。

 

 赤ん坊の時から前世の記憶があるせいか物心は転生して少しした時からついている。

 その時に聞いた話だったんだけど……まさかこんなに早く姉妹ができるとは……。

 とりあえずここはよろしくの意味も込めて握手をするべきだろうか。


 とりあえず私は義姉になるアーミアへ手を差し伸べた。

 他の子供に対して警戒もしているだろうしすぐに握手を持ち込むのはまずかっただろうか?普通の子なら気にしないだろうけどここは貴族の世界だ。

 

 ミスったか?


 そんなことを考えつつ差し出してしまった手を引っ込めるのも失礼だからそのままで居ると突然――。

 

 バシーンッ!


 と、高く重厚感のある音が響く。

 それと同時に私の差し出した右手が少し揺れた。痛みは大してない。


「うちの子に手を出さないで!」

「え……握手をしようと……」

「嘘よ!あなたの目は私の大事な子供たちを狙っていたわ!その証拠に何その手?子供とは思えない程硬いんですけど?」


 何も証拠になっていないし、言いがかりもいいとこだ。

 一応子供に対してこの態度って何なんだ……私の愛刀で切り刻んでやろうか。


 いや落ち着けルーク。

 私は今は子供だけど中身は大人、多少の事で怒りを露わにするほど子供じゃない。

 

 それに我が子がこんなことをされて黙って居るような父ではない。


「お前!何をして……ルークは握手を求めただけだぞ?」

「はぁ……ここは有名なバレンタイン家のお家ですよ?子供はとても不安で怖がっているのに手を差し出されてそれが握手だと考えられるでしょうか?」

「いやそれは……」


 そんなことはないだろう。見た感じアーミアは私より年上っぽいし、もしそう言う事なら教育がなっていないと言わざるを得ない。

 握手を求められてそれを弾くなんて相手に対しての辱めに他ならない。

 

 言ってやってくれこの世界の父よ。


「そ、そうだな……こ、子供だから仕方ない」

「でしょ~?」


 あれ?もしかして風向きが怪しい?

 

 いつもの父ならここでガツンと言うんだけど、その覇気を感じられない。

 

 どうしよう。


 このままだと私が悪者みたいになる。握手を拒否したのはあくまでこの母親だからアーミアやルーンには何にも悪い事はない。

 だからこそ、ここで悪い印象を持たれるのは避けたかった。


「ご、ごめんなさい!そ、その……姉妹ができて嬉しくてつい……」


 と、咄嗟に嘘を付いてしまった。

 

 しかし別に嫌では無い。だけど早すぎるというか……中身は大人だと自負しているけど少しだけ幼児退行している部分はある。

 母が無くなって一年足らずで別の女性を連れて来てしかも連れ子が居るなんて普通なら困惑するだろう。

 

 貴族社会だからすぐに片方の親が居なくなったら別の人が来るというのはあり得る話だけど……。

 それでも私は子供であることに変わりはない。嫌とまでは行かないもののもう少し時間が欲しかったなと感じた。

 

 でもこっちが何も悪くないのに謝ったんだしまともな子ならここで許してくれるだろう。そう思っていたのだけど……。


「まったく……礼儀がなっていませんことね」

「え……」

「ですが次、手を出そうとすれば容赦しませんわ」

「……」


 まともじゃない親の子供がまともだと考えたのは浅はかだったか。

 そんなまともじゃない部分を見てきているからこそ、こうならないようにしないと!となるにはもう少し掛かるのかそれとも潜在的にそういう人間なのか。

 

 ともかくここから長く苦しい生活が始まる悲しい音が聞こえてくる。

 その予感は的中していて義母は私に家督を継がせないためにあれやこれやと手を回してくる。


 それが捨てられるかもしれないと考えた一番の理由。

 父が助けてくれなかったからこそ、あり得る可能性として不安がよぎる。

 

 異世界転生も楽じゃないわね。


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