第358話 咆哮
ここまで何度も独りじゃないと教えられてきた。
少し前の私は1人でこの戦いを終わらせようとしていたけど、それが間違えだったのは今なら良く分かる。
むしろ記憶がある状態の私はよく1人で死ぬことを選んだよね……。
今の私はそうじゃないけど、弱くなったわけじゃないむしろ強くなった。
「皆と一緒に生きるよ私……!!」
「ようやくね……やっとみんなが1つになった……。作戦を伝えるよ!ショナ、サツキ、フーリア!!三人で同時に聖剣の力を使って魔導王へ攻撃して!」
「ユウリ?!相手は私のコピー体じゃない、完全な魔法の女神だよ!下手に動かない方が……」
「私に考えがあるの、ルークは3人の後に魔導王が攻撃してきたらそれを防いで!」
ユウリに考えがあるというのなら私はそれに従って動く……それが仲間を信じるという事だもんね。
私は魔導王の動きを見逃さないように凝視した。
そしてそれと同時にユウリの指示を受けた三人は既に走り出していて、同時に聖剣を解放した。
水、風、雷属性の剣は共鳴し合い嵐を巻き起こす。
どうやらユウリの狙いはこれだったみたい。
「「「三位一体!竜巻!!!」」」
空をも貫く竜巻が空から降ってくる。
さらに目を開けていられない程、雷の光が竜巻を覆っていた。
ショナが真の剣を解放したことにより、合体技の威力がとんでもない事になっている。
3人の聖剣を超える剣の力もあるけど、一度にそれほどの技を扱えるには鍛錬が必要。
私が居ない間にこんな事までできるようになっていたのね……。
魔導王は空を見上げ、空から降ってくる竜巻に手を翳す。
「神に厄災が効くとでも?炎帝焔火!!」
炎帝魔法焔火……私が使う魔法で人を簡単に飲み込むほどの火球を生み出す。
だけど魔導王の魔法は規模が違う……学校の敷地内に匹敵している竜巻をさらに覆う程の炎が放たれた。
「上はこれで大丈夫……さて…………」
魔導王は左手を空へ掲げて魔法を使ったまま右手を私達の方へ翳す。
「まさか上から降ってくれる私達の合体技を防ぎながら、もう片方の手で魔法を……⁉」
「焼け尽きなさい不死鳥の炎!!」
魔導王が唱えるともう片方の手から炎の鳥が現れて、竜巻を起こしている3人に向かって行く。
こうなることを予想して私を攻撃じゃなくて、防御のために置いておいたのね。
それじゃあ結局無意味に思えるけど……ユウリの考えを信じるしかない。
向かってくる魔法は炎……だけど私のよりも遥かにレベルが高い。
ただの炎で受けても無駄に魔力を消費するだけ、それなら……!!
「秘儀、焔巫女の舞!!」
私は焔を纏いながらその場で回転する。
すると向かってくる炎が私の動きに釣られて周囲を回転する。
炎は私の舞に惑わされ、やがて消えていく。
それを魔導王はものすごい形相で睨みつけていた。
「その舞にその服……この世で私が最も憎む女の力……そんなものまで使えるなんてやはり今の貴方はわたしの大切な人じゃない!!殺す殺す殺してやる!!!!!」
激しい怒りを爆発させて私へ向けて魔法を放ってくる。
炎ではなく、その魔法は空間を崩壊させる見た事も無い魔法。
目には見えにくいけど、その魔法の通り道は崩壊して空間も地面も全てが歪んでいた。
「焔巫女の舞を使える以上、炎では倒せない。それなら炎以外で倒せばいいだけ!!」
魔法の神様なんだし、炎帝に匹敵する魔法を使えてもおかしくない。
私は魔法を見ただけで真似ることはできるけど、それにはある程度魔法の概要を知らなくてはならない。
目にはほとんど見えないし、魔力に触れたものを崩壊させているだけなので概要が全く掴めない。
どうやって防ごうか考えていると後ろで合体技を維持している三人が大声で叫ぶ。
「片手で適当に使った魔法で」
「俺達の全力を」
「止められると思わないでよね!!!」
空から降ってきている竜巻が勢いを増し、炎を逆に飲み込んだ!!
「何ッ!?」
そして竜巻は魔導王を包み込み、それと同時に私に向かってきていた魔法も消えた。
3人にまた助けられてしまったけれど、果たしてあの嵐でどこまで魔力を削れるか。
私の魔法には炎の治癒魔法がある。
それを私以上に扱える魔法の神が使えばその治癒能力は異次元のものになる。
私でさえ、欠損した手足を元に戻せるほどの治癒ができるんだから、どれだけ傷付けてもすぐに癒す。
けれど3人が発生させた竜巻もとんでもない威力で、それを防ぎ続けるには炎を周囲に纏い続けるしかない。
嵐の中で炎が魔導王を守って光っているのが見える。
嵐が収まるまでの間、その場に留まっているつもりだ。
「ヤバイ……もう維持出来ないって!!」
「くそ、傷どころか魔力を少し削るだけだと……⁉」
おそらく今の私たちが使える最強の技をぶつけているはず。
それでも魔力を少し削る程度……ものすごく絶望的な戦いなんだと改めて再確認する。
だけど魔力があまり削れない理由はわかっている。
それは淀んだ大地の魔力が魔導王に力を貸しているから、聖獣を取り込んだことで大地の魔力から力を得ることが出来る。
しかも私たちには魔力を回復できないようにしているみたい……。
魔法の神はそんなことまで出来てしまう……だから私は魔力を極力温存していた。
ルミナが作ってくれた魔力の回復にはどうしてもこの世界の魔力を変換する必要があるからね……。
だからせめて大地の魔力をどうにかできれば……。
そんなことを考えていた次の瞬間、魔導王の纏う炎が徐々に小さくなっていくが見えた。
「これは……」
大地の魔力が……私とルミナの作った新しい魔力と融合して魔導王の支配を逃れようとしている。
明らかに何かの意思を感じる――一体だれがこんなことを……。
そんなことを考えていると地面がグラグラを揺れて、大樹がうねり空を覆った。
この魔法はユウリの大樹魔法、しかも空を覆うほどの最高規模。
そんな魔法を使えばあの子の寿命が完全になくなってしまう!!
まさか考えがあるって言うのは寿命を全て使った最大規模の魔法……!!
「ユウリ!!!!!!!!!」
私は咄嗟に叫んで後ろを振り返った。
しかしそこで私は想像だにしていない光景を目にする。
この戦いは私たち6人だけで、この最前線の後ろにはユウリとマツバしかいないはずだった。
だけどその背後には……数えきれないほどの人影が現れた!!
アナ、ルーン、ギルマス、ギルドの人達……戦争に参加していた人々、ルエリア国民。
その一番前で膨大な魔法を使っているユウリが叫ぶ。
「ルークみたいな事しないわよ!!大陸中の人達の力を借りるために時間稼ぎをしてもらっただけ……ここまで積上げてきた人の意地、それを見せるよ!!!!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
大地が揺れるほどの雄叫びがエステリアの街に響き渡る……。
それはこの世界の終わりを告げる合図なのかあるいは――始まりの咆哮か。




