第357話 最後の戦い
ようやく空から下りてきた魔導王はこれ以上ない程に怒っている様子だった。
砂煙の中で姿は見えないモノの、魔力が荒々しく、彼女の周りの足元がへこんでいる。
街を覆う巨大な鳥が落ちたんだから、クレーターが出来ていてもおかしくない。
けれど落ちた時はあの巨体は紅蓮の命がけの攻撃で消えた。
やはりあれはただの魔力……。
「大きな穴……これ魔力だけでこんなになっちゃったみたい」
「ユウリ、まだあの女の魔力があるってことは生きてるの?」
「うん、しかも超怒ってる……荒々しい魔力を感じるわ」
「ふん……何が怒ってるよ。私はそんなの――怖くないから!!」
「ちょ……!フーリアッ!!」
フーリアは砂煙の中に居る魔導王へ向けて突撃してしまう。
神秘剣を携えて風を纏い、近くにまで行って斬撃をお見舞いする。
三日月形の風の斬撃が砂煙の中央に居る魔導王を捉える――見えて居ないはずだけど、剣士の直感で正確な場所を狙う。
しかし風の斬撃は突然地面に落ちて消えてしまった。
「何が起きて……」
「邪魔……炎帝焔纏い……」
「その魔法……ってやばッ!!」
砂煙から火球が9つ同時に放たれて、フーリアを襲う。
フーリアには風のオートバリアがあるので火球を一発……二発……までかき消すことが出来た。
しかし三発目に差し掛かったところで風のバリアが消えてしまう。
炎纏いで強化された火球二発の攻撃で神秘剣の風のバリアを突破された……このままじゃフーリアが危ない!!
だけど相手の攻撃は炎……私の得意分野だ。
「私が援護に行くから、ユウリ作戦とかもろもろよろしくー!」
「ちょっと……ルークまで!?全くも―ッ!!なんか急に幼くなったわねあの子……」
「あはは、わかるぅ~。私も準備しておくね」
「お願いショナ……後他もね」
後ろで何か言っているけど、それを無視してフーリアを援護に行く。
フーリアはこちらへ逃げるように向かって来ているのでその後ろから飛んでくる火球を狙う。
「焔火ッ!!」
炎と焔はぶつかってお互いに相殺する。
しかしまだあと6つの炎が飛んできていた。
焔火だけしか使っていないけど、これ一個に多くの魔力を消費してしまう。
それだけあの火球一撃の威力がとてつもないということ。
このままじゃ魔力が持たなくなるので私は防ぎ方を変える。
結局の所、炎であれば私にダメージを与える事は出来ない。
この焔巫女の服とバレンタインの身体が炎を防ぐ。
「まあバレンタインじゃないんだけど……」
それでも私は自信をバレンタインだと言い聞かせる。
フーリアの背後に周り、迫りくる炎を受け止める。
火球が一個、二個、三個、四個……連続で飛んでくるとぶつかり、その衝撃で後ろに押し返される。
それだけならまだ何とかなる……だけどこの炎から私はあり得ないモノを感じていた。
「この炎……熱い!!」
「はぁ!?ルークが熱さを感じるの……?大丈夫なのちょっと!!」
炎への完全耐性……それを超えてきた……。
火球はまだ2つ残っている……これを防ぐには魔力を込めた防御魔法を使わないと……。
せっかく魔力を温存するために攻撃をそのまま受け止めたのに、白百合の盾を展開して受け止めようとしたその時――後ろから水の斬撃と雷の槍が火球を捉えた。
直後、サツキとショナが私達を守るように前に立ちはだかる。
2人の頼もしい姿に惚れてしまいそうになりながらも、治癒の炎で身体を癒す。
しかしどういうわけか私の治癒の炎でも火球で追った傷が治らない。
「治癒できない……どうして……」
「それは、これこそが真のバレンタイン……というかフェニックスの炎だからよ」
「魔導王……!?その姿は……見覚えがあるような……?」
「あら?転生直後の記憶は残っているの?ふふ……それはものすごく嬉しいわね!」
狐の耳、綺麗な和服、九つの尻尾を持った水色髪のとても美しい女性が砂煙から姿を表す。
私の見た目をコピーした身体を乗っ取っていたはずだけど、何故か元の神の姿に戻っていた。
「おそらく聖獣フェニックスの力を吸収したせいね。神として作った時の記憶が私を戻してくれた」
「……さっきのこれが真のバレンタインの炎ってどういうこと……!?」
「だって、あなた……本当のバレンタインじゃないでしょ?」
「……っ!!」
「さっきも言ったけどこの魔法は私の作ったフェニックスを食べた馬鹿な女が編み出した魔法……あの馬鹿の血を引かない子は使いこなせない。まああの馬鹿の血筋は全員死んでこれはもう私だけのモノよ」
メイビスとジークは……?。
メイビスは魔法が使えない程、精神的に退化しているから仕方ない。
けどジーク……ヘラクレスはバレンタインのはず、まさか死んだの……?
そういえば全然見ていないような……。
バレンタインの血を分けた者が居なくなったことで食べられた聖獣の力が元に戻ってしまった。
本来の主である魔導王だからこそ、真のバレンタインの炎が使える。
私は最初から最後まで見様見真似だったから……。
「ルーク、あなたはとっても、か弱い一般の女の子。偽物のバレンタインにこの魔法を真に扱うことは不可能よ……たとえ私が与えた全ての魔法が使える権能を持っていてもね!!」
「くっ……」
「か弱い女の子に転生させたのは最後の手段だったけど、英断だったみたいね……ふふ」
今まで何度もあったからそんな気はしていたけど、やっぱりこの見ただけで使えるようになったのは魔法の女神の権能だったらしい。
疑惑が確信に変わったけれど、これを使ってもバレンタインの魔法を完璧にコピーできないという。
レベルの低いバレンタインの魔法では真のバレンタインの魔法から付けられた傷は癒せない。
それなら!!
「治癒魔法エーラ!」
魔力を大量に消費するけど、炎を使わない純粋な治癒魔法を使う。
傷口は徐々に塞がった。
「純粋な治癒の魔法……しかし、それではバレンタインの名が廃る。男らしい貴方ならきっと意地でも使いこなしていたはず、やっぱり今のお前はあの方じゃない!!殺して思い出させてあげる……クフフフフフフフフフフ……アハハハハハハハハハハハハッ!!」
これまで同じような光景を見てきたはずなのに、すごく不安で恐怖を感じる。
前世の記憶を失ったことで精神的な耐性がなくなるから……?
そんな怯えている私に気づいたのかサツキ達が私の近くへ寄ってくる。
「サツキ……皆……」
「友達が仲間が居る。絶対にあいつにルークは渡さない!!」
その言葉を聞いた瞬間、先程までの恐怖は消えて、心が高ぶるのを感じる。
これなら戦える……今までそうだった……前世の記憶を消し去り、もう特別じゃない、バレンタインでもないけど私は独りじゃないんだから!!




