第355話 絶望の袋小路
植物の根を操る魔法を使って私達を上まで運んでくれるというユウリ。
しかしそれには今までに使ったこともない程の膨大な魔力が必要になり、魔体症の力を使う事になる。
余分な脂肪を魔力へ変換するのはともかく、寿命を削らせるわけにはいかないのに……。
だけどこれしか無いのも事実だから、私達はユウリを止める事はできない。
むしろ私達のやるべきことは寿命が尽きる前にあの鳥を落とすこと!!
私達はその期待に応えるため、剣を抜いた。
大樹創造の魔法の乗って、4人で駆け登って行く!!!!
すると根の上で待って居た炎で出来た狼の魔物が襲い掛かってくる。
焔で散らそうとしたその時、後ろに居たサツキが私の前に出て水の剣で炎の狼を斬り伏せた。
その後、私達の方を振り返って叫ぶ――
「止まらず行くぞ!!」
あの炎の魔物は決して弱くない、斬り伏せるだけに使ったたった一線の剣激でも私の与えた魔力と剣の力を相当使ったはず。
それを表情に出さず余裕を見せてくれた。
それを見て私はとても頼もしいと感じる。
私の中で力が湧いてくるのを感じた。
「チッ……本当は指揮を下げないために強がってるくせに!!!ルーク、私を見ていてッ!!!!」
「う、うん……」
こんな時でも競争している2人にどこか安心感を覚える。
剣を持つ手が少し和らぎ、塚を軽く握った。
今まで無意識に手に跡ができる程、強く握っていたことに気づく。
魔導王まで掛け上げる足は速く、だけど気持ちは急ぎ過ぎず確実に鳥を落とすように心がける。
冷静になったことで、迫りくる炎の魔物を無駄な体力を使わずにさばいていく。
しかしそこへ巨大な炎の竜が3匹迫ってくる。
「くっ……やばいのが出て来たな……」
「ふん、この程度で弱気になってるのサツキ。ルーク!私は全然怖くないわよ」
「なっ……それは俺だって!!」
2人はまたも競う合うように同時に炎の竜へ斬りかかる。
炎の竜は2人の攻撃を受け止めた。
サツキとフーリアの攻撃を受けて消えないなんて……おそらくこいつは魔導王が作った中で最強の魔物。
だけどこれが魔導王への最後の砦ということ。
「これを超えれば……!!」
「待って!そうもいかないかも!!」
「どうしてショナ?」
「後ろ後ろ!!」
後ろを振り返ると炎の魔物達が私達の所まで走ってくる。
この竜を倒しても、あの魔物の大群に埋め尽くされてしまう。
2人の攻撃を持ってしても突破できないとなると、時間は掛かる……。
どうにかしてこの場を切り抜ける作戦を考えているとサツキとフーリアが私とショナの前に立ち、綺麗に並んで剣を構えた。
「こいつは私達がやるから」
「ルーク、ショナであの鳥を落としてくれ」
2人ならいずれこの竜を倒せるだろうけど、下の魔物が上がってくるのに5分も掛からない。
5分では竜を倒せず、炎の魔物達に呑まれてしまう。
それは2人とも解っていた。
「だから私達が炎に包まれる前にあの鳥を落として!もうそれしかないから早く行って!!」
「で、でも……」
「私達にだって命を賭けさせてよ!!ルーク1人命を使って勝とうとして……。今度は皆で勝ちたいの!!」
「これはあの時、勝手に命を賭けた君への罰だよ。救いたいなら考えずに早く行け!!」
「フーリア、サツキ……ッ!!」
2人の信じてくれる想いに応えるため私とショナは魔導王の居る空を目指す。
それと同時に鳥を落とすまでのタイムリミットが始まる。
隣を走るショナは雷の剣を強く握りしめた。
「行くよルーク!早くしないとユウリどころか皆死んじゃう!!」
「わかってる……けど、二人で落とせるのかな……」
「ユウリは私にならできるって言ってた。だからその期待に応えたい!!」
「ショナ……まさか!?」
「この雷の剣は身体に電気を流すことで身体能力を底上げできるけど、身体への負担が凄いからいつも抑えてた。だけど身体が壊れてもいいから本気でやるよ!!」
「ちょ、無茶な――」
「無茶しなきゃあれは落とせないし、何よりルークにだけは言われたくない」
「うっ……」
意外にもそこで私を睨みつけながらそんなことを言われて何も言い返せなくなる。
止めても無駄みたいだし、これをミスればサツキ達が死ぬ。
もう迷っている暇は無い……。
ちょうど魔導王は目と鼻の先。
ユウリが作ってくれた足場が砕け散るほど思いっきり蹴り飛ばし、魔導王の懐に飛びかかる。
魔導王はそんな私達を寄せつけまいと抵抗するかのように、炎を吐いて邪魔してくる。
「あわわ、足場ないよ!!」
「私を信じて、そのまま炎に突っ込むよ!!」
「うげっ……これで焼き鳥みたいになったら恨むからねルーク!!」
ショナの恨みが一番恐ろしいのはもう知っているので何がなんでもこの迫り来る炎からショナを守らないといけない。
炎が私たちに触れる瞬間、魔法を使って身体を覆うことで炎の影響を無力化した。
「炎の中を通り抜けちゃった!?」
「ルミナの魔力で強化された焔纏いだよ。あの子の最後の置き土産……」
「そっか、寂しいけど……ルミナも一緒に戦ってくれてる。そんな気がするねっ!」
実際ここまで来るのにルミナの力は必要不可欠だった。
あの子のせいで魔導王が復活してしまったけど、それについては目を瞑るしかない。
今は目と鼻の先にいる魔導王を倒すことを考えるべき、せっかくここまで来たんだ……。
そのまま魔導王の体に突っ込んでいこうとするとショナがまたも慌てる。
このままだと炎の身体に触れて焼け死ぬ、でもそれは焔纏いでカバーするとしてその先が重要だ。
「これ、このまま剣で攻撃するの?」
「私が合図したら、下の方へ剣を突き刺して」
「下!?上じゃないの?」
「説明している時間は無いから、来るよ!!」
「もーっ!記憶がある時の方がまだちゃんと指示してくれたのにーっ!!」
そんな悪態を着きながら私たちは魔導王の身体に突っ込んで行くのだった。




