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第36話 これからのこと


 頭が痛い……まるで貧血の時のように視界がぼやぼやする。

 

 白い靄のようなモノがかかっていて周りが良く見えない、私はどうなったの……?


「まさか死んだ……?いやなんか違う気がする……」


 なんとなく自分はまだ死んでいないと確信を持てている奇妙な感覚……。しかし夢にしてはとてもリアルだ。

 普通に手の感覚があった、だけど足の先まで意識を集中させるとあまり感覚を感じない。

 

 おそらく私の身体は気絶している。

 だから起きない限り目を覚まさないかもしれない。だけどここから現実世界へ戻る方法が分からない。


「どうしよ……」


 と、一言そう呟いた時だった。

 白い靄が少しだけ晴れると同時にどこかで聞いたことのある声が聞こえてきた。


「あ、この子の転生先……座標がズレた?まさかこんなミスをしてしまうなんて……」


 その声は私をこの世界へ転生させてくれた狐の女神だった。

 姿は良く見えないけど、声は覚えているだけどなんだか雰囲気があの時に比べて暗い……?


「この家のお腹の子……女の子だ……」


 この女神はまさかそんな適当な感じで私を転生させたのか……?

 

 見た目はドストライクなのであまり文句は言いたくないが少しムカついた。


「辺境の地なら面倒ごとも少ないと思ったんだけど……面倒な組織に目を付けられてる……転生してこの子の意識がはっきりする前に何とかしてあげようかな」


 その瞬間、女神様の居た場所からとてつもない光が放たれた。

 そしてその光で女神様の姿が見えた。転生する前に見た狐巫女のような美しい女神だった。

 女神様は見るモノによって姿を変えるという。この清楚で真面目そうな見た目からは想像できないがどうやら結構適当でお転婆らしい。


「私の力を……よし!さて君、どうかこれから生まれてくる私が転生させて上げた子……ルークになるのかな。その子を導きなさい」

「……」


 そう狐の女神は炎の様に赤く燃え上がる何かに声を掛けた。

 そして狐の女神様は苦しそうな表情をして横たわる。


「さすがに人の転生とここまでの準備に時間を掛けすぎちゃった……本当に長い長い時間……だけどこれで!!」

「……」

「あの人、いやルークのためなら……ふふ」

「……」

「しかし転移を転生に変えるのは骨が折れる……少し……眠るとしよう。どうか私が目を覚ました時、あの人が目の前に居ますように……」


 掠れた今にも消えてしまいそうな声で狐の女神様は少し長い眠りに付いた。

 

 その瞬間、靄が完全に晴れて眩い光に包まれる。

 

 ”目を覚ます”とそこは見知らぬ場所だった。

 いやどこかで見たことあるような作りの内装……もしかしたら私が行った事のある建物の寝室かな……?

 

 私はベッドから身体を起こす。

 しかし辺りがぐにゃあと揺れる感覚……。貧血っぽい感じ?そういえばあのギルマスに血を吸われちゃったんだ。それで気を失っていたという事?

 

 まだ意識が朦朧としている。周りに人は居ない。

 だけどこの部屋の扉の先、おそらく廊下かから声が聞こえる。


「ちょっと!!そのクソガキを渡せ!!」

「ちょちょ、フーリア!!一応その……お偉いさんだから……」

「はぁ!?私の……私達の仲間の首にかぶり付いたんだよ!!私だってあんまりルークに触れてな……!!ぶっ殺してやるッ!!!!」

「怖い怖い怖い怖い!ちゃんと生きてるんだから……ね?」

「はぁ……?……ん?まさか!!」


 フーリアが廊下越しに何かに気づいたのか突然扉が大きな音を立てて開く。

 バーンッ!!と扉の開く音は貧血の頭に響く、フーリアはそんなことを気にしてくれず、叫ぶ。

 

 それがまた頭に響く。

 

「ルークッ!!目が覚めたのねッ!!」

「あれ……フーリア?」


 目の前に居たのは昔のような無邪気な笑顔のフーリアだった。

 そしてフーリアはあの頃の無邪気なキラキラした瞳を私に向けて抱きついて……は来なかった。

 

 抱きついてきそうな勢いだったんだけどその直前で立ち止まる。


「ようやく目が覚めたのね。血を吸われたくらいで情けないわ」

「え……えぇ……」


 私が今見た少女は別人だったんじゃないかと思わせてしまうような急激な変化だった。

 とりあえず私に何が起ったのか詳しい話を聞いてみる。


「ギルドマスターに血を吸われたのは覚えてる?」

「覚えてる。というかここはどこ?」

「ここはギルドの医務室よ」


 何となく見たことのある内装だと思ったけどギルドだったか。

 医務室は初めてだからわからなかった。

 フーリアは話を続ける。


「あのクソガキ……ギルドマスターがあなたの血を吸ったのは自分が死なないためみたいよ」

「まあ心臓刺されてたもんね。むしろ血を吸えばそこから復活出来るのならしてもおかしくないんじゃ無い?」


 急に血を吸われたのは正直良く思えないところもある。だけど私は死んでいないし、なんなら夢の中で重要なモノを見ることが出来た。

 吸血魔法は血を吸えばその吸った人の記憶を見られるという。

 もしかしたら私の中に眠る狐の女神様から頂いた力にあった記憶を読み取ってあの夢を見させてくれたのかもしれない。

 

 フーリア達に言ってもわからないだろうけど、個人的には感謝したいくらいだ。

 ただ、私が転生者だと知られちゃっただろうし……どうにかして黙って居てもらわないと。

 

「ギルマスは?」

「……それなんだけど……」

「どうしたの?まさか助からなかった?」

「いいえ、ムカつくけど助かったわ。だけど……」


 私が首を傾げるとこの医務室の扉の奥、つまり廊下の方から妙な鳴き声が聞こえる。


「オギャーオギャー!」

「ちょっと待ってくださいね……ど、どうしよ私、赤ん坊の面倒みたことないよ!!」

「オギャアアアアアア!!!!」

「アアアア?!ごめんなさい!フーリア助けて!!私、こういうの苦手……あ」


 何やら苦労している人の声が聞こえた。扉を足で強引に開いたのはショナだった。 ショナは両手の中に赤ん坊を抱いていた。


「起きたのねルーク!フーリアが急に入って行ってビックリしたよぉ~」

「ショナ……子供居たの?」

「なわけないでしょ!!恋人だってできたことないから!!」

「あ……ごめん」

「哀れまないで……色々忙しくてそういう機会がなかっただけでモテるから!多分……」


 両手に抱いている赤ん坊は一体……?なんだかすっごく嫌な予感がするんだけど……。

 たしかギルマスの吸血魔法は血を吸って体力回復、血を吸ったものの記憶を辿る。そして……吸った分だけ若返る……。

 

 私が見た女神様の記憶はおそらく15年前のもの……それを私も見たと言うことはつまりギルマスも見ていた可能性が高く、それだけ遡れるほど血を吸った。

 ということはその分若返る……。


 赤ん坊に巻かれている布もギルマスが来ていた服に似ている。

 

「その子は……?」

「……ギルドマスター」


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