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第348話 元凶


 ――頭の中がフワフワとまるで雲の上でボーッとしているような妙な感覚を味わう。


 まるで風邪の時に布団から目を覚ました時のような、身体のだるさと、酷い頭痛が襲ってくる。


 私は確か、魔法の神に魔力を全て取られて気を失ったはず……。


 魔力を失った魔導士に訪れるのは死……多分死ぬ直前かあるいは既にあの世か……。


「私は死んだの……?」


 いや、それにしては頭がフワフワする感覚や、頭痛を感じている。


 これはまだギリギリ私が生きているという証拠じゃないかな?


 死んでいないのならここはどこだろう……そんなことを考えていると急に視界が移り変わる。


 先ほどまでの真っ白な空間から見た事のない神社と鳥居が現れる。


 アマノで見た物とは少し違う。


 凄く古くて、誰も手入れしていないようなどこか悲しい空気を纏っている山奥に神社がある。


「山奥ってなんでわかったんだろう……?」


 急に頭の中に浮かんだ単語に疑問を感じていると鳥居の外から一人の男性がやってきた。


 私は今、鳥居の真下にいてこのままでは男性に当たってしまう。


 避けようとするも急だったので間に合わず、目を閉じる。


 ぶつかったと思ったんだけど、衝撃は一切来ていない。


 恐る恐る目を開けると男性は居なくなっていた。


 と、思ったら後ろから足音が聞こえる。


 振り返ってみるとそこには先ほどの男性が居て、神社の方へ歩いて行く。


 まるで私の事が見えていないようだ。


「というかすり抜けた……?それにこの場所どこかで……いや、そんなはずはないけど……何だろうこの感じ……」


 こんな場所へ足を踏み入れた記憶は無い。


 ルークとして転生してからすぐに物心が付いたと同時に前世の記憶を持ってすぐ、引きこもっていた私に外での思い出はほとんどない。


 昔来た事がある……という経験は今の私にはあり得ないモノだった。


 それじゃあこれは恐らく……。


『過去……』


 頭の中で全く同じことを考えていると、先に男性がその言葉を口に出した。


 驚いて男性を見てみるけど、その人は私の方を見ていなかった。


 神社のお賽銭の前で手を合わせ、目を閉じながらそんなことを呟いている。


『過去のこの神社は人が一杯いたのか。と言っても俺もここまで追い詰められていなければ神頼みにこんな所へは来なかったが……』


 追い詰められている……?


 そんな風には見えないけど、確かに彼には生気を感じられなかった。


 病気か何かだろうか……私の治癒の炎なら治せるけど……。


「ほいッ!」

 

 炎を使ってみるけど、男性を燃やすことはできない。それどころか炎で燃やしても反応なし……。


 治癒の炎も見えていないのなら、治すこともできないか……。


 それにしても炎を浴びても平然としているし、やっぱり私の事は見えていないのかもね。


 どうすればいいか分からないし、とりあえず彼の行動を見守る事にする。


 目を閉じて手を合わせて何か願っているんだろう――それが終わるとゆっくり顔を上げた。

 

『ここの神様も俺と同じで一人ぼっちなのかな……まあ人いないしなぁ』


 同じという事はこの人も一人ぼっちなのだろう。


 病気で一人ぼっちなんてそれは確かに追い詰められている。


 しかし、私の思っている1人とはまた少し違うみたい。


『家では俺だけ居ても居なくても何も変わらない……存在意義を認められることも否定されもしない。俺は居る意味があるのか?』


 ……


『まあどうせ、病気で死ぬからいいけど……。でももし過去の後悔をやり直せれば……いや、新しい人生で今世で出来なかった理想の人生を送れたらな……』


 それは男の最期の叫びだったのかもしれない。


 何も無く、唐突に迎える死を待つだけの悲しい人生が終わる。


 でもそれは自分にとって苦痛で、後悔しかない終わりだった。


 しかし、そこで()はふとある言葉が頭の中に浮かんだ。


 確かどこかでこういう神頼みは本来するものではなく、今年平穏に過ごせたことを感謝するために参拝にくるものだと。


 つまりお礼を言うため……でも、俺は病気で死ぬわけだし別にいいよな。


 でも……。

 

『俺だけ、こういう事を願うのもなんか自分勝手すぎるよな……。そうだな……もしここの神様も1人なら次の世界で一緒に遊べたら楽しいかもな!……なんてな』


「……やっぱりこれは…………」


 彼の言葉を聞く度に、知らない記憶が頭の中に流れ込んでくる。


 そして確信した。


 これは前の世界の私の最期。


 何も無い人生を受け入れていたけど、急に来た人生の終わりを知って、今までの後悔と悲しい人生を悔やむ愚かな男の話。


 もう生きる事すら諦めて、来世に期待する方がまだ可能性があると考えて出た悲痛な叫びだった。


 そして男が神社から離れた時、神社の奥からとても美しい女性が現れる。


 男性にはそれが見えていない……というか、何も気づくことなくそのまま帰って行ってしまう。


 しかしその後ろ姿をまるで愛おしそうに見つめる女性……見たことは無いけどこの気配を私は知っている。


 魔法の女神様……!!

 

『まさか……私の事を気にかけてくれる人がいるなんて……何百年ぶりだろう。あの恋愛馬鹿の言う事を信じて良かった。さて女神としてあの子を救わなくちゃ……………………ふふっ』

 

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