第347話 代償
6人が全力の総攻撃を放つ、小さい火種しか残っていなかった魔導王を完全に消し去るために……。
しかし魔導王は消えていませんでした。
それどころか溢れ出る炎の量が先程もより大きく、熱くなっていた。
その炎から魔導王の声が聞こえてくる。
「まさか、私が作った眷属に裏切られるとは……」
「不意を突いて心臓を狙ったのに……倒せないの……」
「ふふ……そうでもないわよ」
魔導王は不適な笑みを浮かべる。
魔導王の身体は魔導士がある行動を取った際に起きる現象を起こしていました。
そしてユウリは魔導王の身体に起きた変化に気づく。
「いや、多分魔法で復活したんだと思う」
「な……!!どうしてそんなことが……」
「魔法の神様だからじゃないかな?死者蘇生の魔法を自分にかけたとか……」
「な……そんなの倒せないじゃない!」
自分ですら蘇生する魔法を使える者を倒すのは不可能。
確かにその通りですが、ユウリが感じた魔導王の身体の変化である可能性を考えていました。
「……そうでもないかもしれないよ」
魔体症で命を使う魔法に詳しいからこそ、相手の変化にも気づき、さらにその弱点も解っていた。
ユウリがその弱点を仲間達に伝えようとした時、それを遮るように魔導王は口を開いた。
「命に関わる魔法はその者の人生で一度しか使えない。この身体は人間を模倣した人間のモノ、神の魂が入っていてもそれは変わりませんよ」
「自分からそれを言ってしまうの……?」
「それくらいのリスクは負うつもりでルークを手に入れるためにここまできたもの。という事でさすがに次、貫かれたら死んじゃうわよ?まあでももう不可能よ」
魔導王の心臓部分には常に固有魔法「白百合の盾」が展開された。
これにより、不意打ちで心臓を狙う事すら困難になってしまう。
その不意打ちもルミナという裏切りがあってようやく成立した。
その言葉通り魔導王の心臓を貫くのは不可能でしょう。
次倒せば蘇生することがないだけは唯一の救いでもあった。
ただし、先程のルミナの言う通り魔法の神様を相手にするのに不意打ち以外で倒すのは不可能に近い。
なぜなら、既にユウリ、サツキ、マツバ、紅蓮の4人は魔法を使えない状態にされていたから。
そのため、有効なのは剣による攻撃のみ。
魔法しか使えないユウリは殆ど足手まといでした。
魔法を使えないユウリを前に立たせないために、ショナは少し厳しめの言葉を伝える。
「ユウリは魔法使えないのなら下がってて!!」
「一応ルークみたいに命を代償にすれば使えると思うけど……」
「思うでしょ?確信がないのならやっちゃダメだからね!!」
「わかった……」
戦力が減ってしまった状況ですが、ユウリの命を使ってまで増やそうとはしない。
それはやはりルークがその手段を使ってしまったから……。
ショナもまた、ルークが勝手にそんなことをしてしまったことに怒りと悲しみを覚えていた。
ただ単にそれを消化する時間がなかったから、必死に戦いに集中することで仲間の死から目を背けている。
それに魔導王はずっとその大切な仲間であるルークを狙っています。
もう死んでしまったかもしれない……だけど、まだそこに魂があるのなら……魔導王には渡せない。
だからショナ達は動かなくなったルークの身体を守るように立ちはだかる。
それを魔導王はあまりよく思っていませんでした。
「私の目的はその子で果たされる!!あなた達なんてどうでもいいのよ!!」
「どういう意味?」
「この世界を作ったのは私の力がほとんど……だからその供給を絶てばすぐにでも世界は滅ぶのよ」
この世界はあくまでもルークに干渉するために作ったもの。
魔法の神だからこそ、魔法の力で作られた世界に干渉できる。
といっても干渉できるのは……転生者を選ぶこととその供給を絶つことで世界に滅びを与える。
自由に選んだ転生者は自分の思いどおりに利用できるものばかりで、それらを使い、魔王教団を立ち上げさせました。
そして聖獣を集めさせたのはこの世界を作るために使った別の神の力を持っていたから、全ての神の力が集約された力は世界の理を変える。
魔法の神が転生者を選べるだけというルールを変えるために、魔法の神であり、魔導王をこの世界に召喚するこの日のために。
「おかげでここまで辿り着けた」
「それなのに、協力してくれた魔王教団の奴らを見殺しにするのか!」
「ええ、もう不要だから――でもね。もっとも不要なのはお前よサツキ!!」
魔導王はサツキに対して明確な殺意を見せる。
フーリア達には興味がないような、どうでもいいみたいですが……。
しかしサツキにだけは怒りに近い感情を見せていた。
その理由は至極簡単なもの。
「あの子は私のもの……お前に渡してたまるかァ!ここで殺して魂事、燃やし尽くして上げるわぁ!!」
魔導王は一刻も早くサツキからルークを遠ざけるため、炎を使って焼き付くそうとする。
ルークを同じ魔法を使いますが、威力や熱量は彼女を越えていた。
突然の攻撃にサツキは一瞬反応が遅れる。
しかしその攻撃はルミナが盾になることで防ぐ。
「うぐ……これは……」
「ルミナ!どうして……」
「な、仲間」
「え?」
「あのとき、お城で戦ったときにそういってくれて嬉しかった」
ルミナは唯一サツキ達を襲ったことを後悔していた。
魔導王を復活させて殺すことで完全に干渉できないように計画していましたが、それでも仲間を傷つけたことが許せなかった。
どこかで罪滅ぼしをしなければいけない。
それは自分の命を使って魔導王ごと、消えてなくなること。
しかしそれももう叶わない。
ならせめて、仲間の身代わりになろうとした。
「後は……任せますわ……!!」
「ルミナ!!」
サツキは消え行くルミナをどうにか留めようと手を押さえますが……しかし、消え行く身体はサツキのお腹を突き抜けて、光の粒子になって散っていく。
サツキは嘆きながら、地面に剣を突き刺した。
嘆くサツキの声を掻き消すようにどこからともなく声が響き渡る――
「でも……ただでは死なないよ。さあ目を冷ましてルークッ!!」
光になったルミナはルークの身体の中に入っていきました。
そしてルークの身体がとてつもない光に包まれる!!




