第346話 フェニックス
ルミナは魔導王の不意を突いた。
魔導王に警戒されず、隣にたつことが出来た。これこそがルミナが狙っていた作戦でした。
ルミナの狙いは……後ろから魔導王を刺し殺す事でした。
ルミナの表情はここまでの計画を練ってきた黒幕のような笑み――を浮かべるわけではなく、とても悲し気なものだった。
そうなってでも魔導王の背後に周って刺殺したのには理由がある。
「あなたは放置してもいずれルークを手に入れようとする。あの子を助けるには貴女を殺すしかなかった……」
「裏切ったのねルミナ…………」
「ルーク達を騙して最初は監視していましたが……妾はこちら側に付きますわ!!」
「警戒はしていたのだけれど……予想よりも早い段階で驚いちゃったわ」
ルミナはただ魔導王の復活を阻止するだけでは今後ルークを守り通すことはできない、そう考えていました。
この世界にはまだ見ぬ転生者が数多く存在し、その人達が魔導王を復活させるために暗躍している。
それはルーク達は知りませんが、魔導王から情報を得ているルミナは解っていた。
ここでムーンの計画を退けたとしても第二第三のムーンが魔導王復活のために動くだろう。
魔導王復活を阻止してもまた魔王教団のやってきたことが何回行われるのか、それを想像した時……元を絶つしかないという判断に至る。
世界に神が居なくなるまで後80年ほど、そんな長い間ルークを守れる確信は無かった。
それにそんな状態ではルークも幸せを手にして穏やかに過ごせない。
だからここでケリを付ける事を選んだ。
大切な仲間のために裏切り者のレッテルを張られてでも……。
しかし刺されて今にも消えかかっている魔導王は不敵に笑っていた。
「あなたを作ったのは私……神がこの世界から居なくなれば聖獣も消えるわよ……」
「いいですよ。あの子が幸せなら……」
「どうして? あなたはずっと私のために動いていたはずだけれど……」
「最初はそうでした……ですが妾はルークに自由に幸せに生きて欲しいと願うようになりました。こんな私でも仲間だと言ってくれる仲間のため!!」
「というよりは、あの子の中に入っていたのが原因なようだけど……少しだけあの子に染まっているわ」
「……」
冷酷で目的のために仲間を裏切る……そんな仮面を被っていたルミナの目的は仲間を守るためのものだった。
魔導王を相手に正面で戦って勝つことは不可能だと考えて、この不意打ちを選んだ。
ルークを模倣した身体はこの世界で活動するために魔導王が用意させたものですが、それは同時に人の身体を手に入れたということであり……。
人になった神なら殺せると考えてルミナはこの隙を狙っていました。
全てはルークや仲間のために……残る8本の尻尾も使って魔導王の身体を刺し、勢いよく引き裂いた!!
人なら即死のダメージですが、魔導王は有り余る膨大な魔力を使って何とか命を取り留めています。
と言っても、炎となってその場に停滞しているだけですが……。
「はぁ……はぁ……」
「ルミナ……」
「悪かったフーリア……」
「え?」
「今まで貴女の態度を見ていて私の事を嫌っているのは知っていた。気に入らないのも分かるけど、これでもう私も消える」
「は……?どういうこと!?」
「私を作った神様を殺してしまったから……でもこれでいいのですわ」
ルミナもフーリアの事を最初はあまり気に入っていなかった。
2人ともよく喧嘩していて、ルークの知らない所でルークを取り合っていましたが……。
最初の頃は主の魔導王の愛しい人が他の女に狙われている事が気に入らなかった。
しかしその考えは徐々に変わって行く。
「でも本当に最初は私の創造主である魔法の女神様の復活を望んでた」
「……」
「だから最初の時は我が主の最愛の子に手を出すなと……いやまあ今でもあの子に手を出そうとしているのは許さないけど」
「は、はぁ!?べ、べべべべべ別にそんな事考えて無いんだけどぉ!?」
図星を付かれたフーリアは慌てて否定しますが、もはやここに眠っているルーク以外の誰もがそれは分かっていたので意味がありませんでした。
しかし隠し通していたと思っていたフーリアは顔を真っ赤にして否定し続ける。
そんな中、カツカツカツ――ッ
地下の階段から急いで上がってきた紅蓮がフーリア達の様子を見て状況を確認する。
倒した魔導王の身体は炎になっていた。
「まだ燃えてるけど、多分時期に消える」
「分かるのルミナ?」
「えぇ、ルークを模倣したのは炎の魔法の一種で、身体を焔で構成させていた」
ルークの形を焔に覚えさせて造形する高度な魔法を使い、それを再現するのがこの魔法。
そのため、魔力を失い、形を維持できなくなった焔は自然と消えてしまう。
しかし紅蓮はその炎をじっと凝視して焦ったように叫ぶ――
「それが魔導王……?ん、これはまさか……おい、まだ終わってないぞ!!」
炎について詳しい紅蓮はまだ生きていると考えた。
理由は微かに魔力を感じるのと……それが大地の魔力であること。
世界を作るために神様達が注いだ魔力……その力が大地から流れているという。
まだ戦いは終わっていない……それを理解したルークの仲間達は一斉に炎を消すために攻撃を仕掛けるが――しかし。
「この程度で魔法の神は倒れませんよ」
炎から冷たい声が響き渡る。