第345話 裏切りの焔
ルークは魔導王の力により、魔力を全て奪われてしまった。
魔導士は体内の魔力が無くなると死んでしまう。
魔力切れというのは生命をギリギリ維持できる程度だけ残したことを言い、今のルークの状態はそれ以上に深刻でした。
倒れて仮死状態のルークにフーリアは駆け寄る。
目を閉じでいて、どれだけ声をかけても、身体を揺さぶっても……目を覚まさないルークの身体を涙を流しながら抱える。
「ルーク!ルーク!!」
しかしフーリアの言葉はルークには届きません。
意識が飛び掛かっていて声もまともに聞こえない。
ギリギリ意識はそこにありますが、身体を一切動かすことも返事をすることもできません。
一切反応が無いルークを抱える事しかできない、それがフーリアを更なる絶望へ叩き落す。
そしてその様子を魔導王は怒りと喜びを露わにしていた。
「その子に触らないで欲しいんだけど……まあいいわ。ようやくあの人が使っていた完璧な理想な身体が手に入ったんだから」
そんな言葉を口にする魔導王をフーリアは睨みつける。
神秘剣を手に取り、風を纏わせて斬撃を放つ――。
「死ねぇぇぇぇぇぇええええええ!!」
「そんなそよ風……ん?」
するとその後ろから放った風の斬撃よりも大きな水の塊がまるで津波のように魔導王へ襲い掛かった。
風を受けて勢いと範囲が増し、学校の跡地に大きな池ができる程、そんなものをぶつける殺意を持ってサツキは攻撃を放った。
フーリアの怒りをまるで覆うように圧倒的な物量をぶつけるサツキにショナ達は若干引いていた。
その目はフーリア程、怒っていないように見えるのに、何物も近づけさせない程さ遂に満ちていた。
「サツキ……あんた……」
般若のような表情を浮かべながら、なるべく冷静を装うようにフーリアに優しく応える。
「フーリア、ルークを大事に守っておいてくれ」
「は?何言って……まさかアンタ……」
「一人じゃ勝てない……だから、マツバ!ショナ!ユウリ!手を貸してくれ!!」
サツキはそう叫ぶと再び刀を構えて水を纏う。
その様子に待ったをかけるショナ。
しかし、今この場で魔導王を倒さなければルークを奪われてしまう。
ショナはそれを考えて待ったをかけた言葉を取り消した。
大量の水を浴びて池の中に閉じ込められているからそこを畳みかけるべきだと瞬時に判断して、サツキに合わせる事にする。
「もう、こうなっちゃったら焼けよ!」
「ありがとう……行くぞぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!」
サツキが雄たけびを上げると呼ばれた3人が池になった学校へ向かって攻撃を放つ。
しかしサツキと池の間の地面が盛り上がり、そこから爆炎が溢れ出て4人の攻撃を焼き尽くした。
その炎を放ったのはルミナだった。
「……」
「ルミナ……まだ操られて……」
「いいえ、さすがにルークの超魔法を受けたからいくら魔導王様でも私を制御できなくなったみたい」
「それじゃあルミナ!魔導王を倒さなきゃいけない……そこを退いてくれ!!」
サツキは怒気を孕んだ声で叫ぶ。
しかしそれを聞いてもなおルミナは冷静に言葉を紡ぐ。
「ダメ……むしろあなた達こそ退きなさ――」
だが、サツキはそれを最後まで言わせなかった。
彼の怒りはルミナの想像を遥かに超えている。
「……いい加減にしろよ。退くのはお前だルミナ」
「――ッ!!」
穏やかな性格のサツキはルミナを威圧する。
サツキから放たれているとは思えない程の殺気にルミナだけじゃなく、フーリア達も驚いていた。
それだけ意外な人物の怒りは予想外で、ルミナも少し焦り始める。
今のサツキは何をしでかすか分からない。しかしルミナにも引けない理由がありました。
「そ、そうは行かないわ」
「……そうか、君は仲間だから傷つけたくなかった」
「……まるでいつでも妾を倒せるみたいな言い方ね」
「そうは思っていないが……ルークを渡すくらいなら、お前の手足を引きちぎってでも退かせる……」
「――ッ!!」
ルミナは毛を逆立てて、サツキを睨みつける。
今まで余裕のあったルミナがここに来てサツキを警戒し始めた。
いつものサツキであればこういう状況でどんな反応をするのか、それによって何をするのか。
それらを予想していて、自分の計画の邪魔にはならないと確信していた。
しかしここで不確定な要素が現れてルミナは焦る。
額に汗を滲ませて格下のサツキに恐怖すら感じていた――いや、もしかしたら本当はサツキは自分よりも強い。
そんな考えをルミナは抱いていた。
双方睨み合いが続く中、水が盛り上がって中から魔導王が出てきてしまう。
ザバーンッ!!
大きな水が押し寄せる音と共に現れた魔導王はルミナの隣に立つ。
「ちょっと、私の可愛いお狐ちゃんをいじめないで欲しいわ」
「魔導王…………!!」
「怖いわね……そんな顔で睨まれたら女の子は泣いちゃうわよ?」
「黙れよ……俺がお前を止めてやる!!」
「ふふ、やれるものならやってみなさい!!」
倒れたルークを助けるためにサツキは気が気ではありませんでした。
最初から全力で、身体が壊れてでも魔導王を止めるという気持ちで水の剣を構える。
水圧を上げて、技の威力を上げるが、それは身体にも負担が掛かる。
水圧に手が押しつぶされて血が水に混ざってしまう。
しかしサツキは気にせず剣に力を集中させた。
サツキが水を纏った剣を放とうとしたその時――
「うっ!?」
グサッ……。
そんな鈍い音が流れたのは魔導王のお腹からだった。
魔導王のお腹は狐の尻尾に貫かれて貫通していた。
「どういうこと……ルミナ!!!!」




