第344話 夏の終わり
夏のような暑さを凝縮した空間を作り出す魔法「清夏」。
私にとって有利な空間の中で白い焔が魔導王を包み込み焼き尽くす空間創造の超魔法。
全ての炎を掛け合わせた空間に魔導王を閉じ込めた後、私はその空間から出た。
中で魔導王と戦おうとしたものの、自分で作ったのにあまりの暑さに長居できない。
「あっつ……この服が無かったら身体が溶けてたかも……」
タイヨウから貰ったこの焔巫女の服が無ければおそらく裸で炎の舞を踊ることになっていた。
それでも顔の半分が焼けているのか左目が見えなくなっている。
左腕も大やけどで真っ黒に染まっていた。
「逆に私でもこれだけのダメージを負う炎なんだ……いくら魔法の神でも耐えられないはず……!!」
私は学校の校舎があった場所に座り込んで魔導王が焼き尽くされている空間を見守る。
出てきたらもう一度焼きつくす……まだ少しだけ私の命は残ってるからね。
すると突然地面がボコッと膨れ上がる。
まるで火山が噴火したような勢いで炎が溢れ出るとそこからフーリア達が出てきた!!
ルミナに吹き飛ばされて地上へ出て来てしまったみたい。
皆ルミナの炎を受けてもそこまでダメージを負っていない。
やっぱり手を抜いてくれているのかな……?
それどころか私を見つけてフーリア達は驚いた様子で駆けつけてこようとする。
「ルーク!!」
フーリアが心配そうに私の方まで駆け寄ってくる。
本来嬉しい場面ではあるものの、私はそれを制止するしかなかった。
「来ないでフーリア!!」
「な、なんでよ……」
「今の私の身体は溶岩どころの熱量じゃない……皆が見えてから炎を抑えてるけど、あまり近づくと焼けちゃうよ」
「そんなに怪我してる……た、大切な人を見過ごせないわよ!!」
「フーリア……!…………ごめんね。もう遅いんだ……この炎は消せない」
「どうして!!」
私は皆が見えてから炎を抑えていると言った。
抑えるのが限界でもうこの焔を解くことが出来なくなっていたから。
皆には悪いけど、魔導王を倒した後の事は任せる事にする。
皆の悲しそうな表情を見て少しだけ後悔している自分がいるけど、その仲間達を救えるのならこれくらい耐えてやる……!!
「それよりルミナは?」
「それよりって……!!分かってるの?死ぬんだよルーク!!」
「皆には悪いと思ってるよ……それでもこれは私の問題!!不確定要素は排除しなきゃいけないの」
「ルーク……あなたの命は私にとって……」
私は今、どんな目で、表情でフーリアにその言葉を投げかけたのか分からない。
けれどフーリアは……いつも強気で逆の立場だったはずなのに彼女は恐怖の表情を浮かべていた。
それは私の顔を見てそんな顔をしてしまったのか……。
あるいは私が死んでしまうから恐怖に駆られているのか……。
それはフーリアにしか分からない。
あの子のそんな顔を見て自分のやってしまった事への後悔が強くなるのを感じた。
それでももう後戻りはできないから……。
私はその目のままフーリアを見つめ返していた。
すると彼女は観念して応えてくる。
「……あの女狐は多分下……私達を思いっきり吹き飛ばして来たのよ。こうして無事なんだし、多分操られてるけど、ギリギリ手加減もしてくれてるんだと思う。むかつくけど」
「てことは出て来るかもね」
「そうね……魔導王に加勢されるとその状態のルークでもきついんじゃない?」
「大丈夫、ルミナはそんなことしないよ。だからもうみんなは戦わないで……後は私が終わらせてあげるから」
ルミナが出てくる気配はない。
あの子が何を考えているか分からないけど、裏切ったりはしない。
少なくとも私達を傷つけるようなことはしないはずだ。
それなら私は魔導王を倒すことに全力を注ぐ。
最期の魔力を「清夏」に込めようとしたその時――
「ルーク!それでいいのか?」
「サツキ……もう決めた事だから……それに引き返せないから」
「……だとしても俺は…………辛いよ。君が居ない世界は」
一瞬、魔力を込める手を止めてしまう。
そんなこと言われたって……。
あの魔導王は私のせいでこんな沢山の人を傷つける行為を行った。
ムーンを利用して魔王教団を作り、タイヨウやルーフェなど偉大な人達が犠牲になった。
これ以上は何も失いたくなかった……だから私を引き換えに何も失ない選択肢を選んだ。
「俺達は失うよ……大切な仲間を」
「……ッ!!だから……もう無理なんだって……!!!!そんなに言わないでよ……後悔するじゃない……」
「なら……後悔しない方法を選べよ……馬鹿が……!!」
既に後悔の二文字に足を踏み入れているくらいには苦しんでいる。
炎のせいで涙は一瞬で枯れて滴り落ちることは無いし、目の前も涙で視界が薄れる事もない。
なのに皆の顔がよく見えない。
いや、見たくなくて目を逸らしていた。
そんな悲しそうな顔で私を見ないで欲しい。
そんな苦しそうな想いを言葉にしないで欲しい。
そんな……。
「そんなくだらないもの……ルークには必要ないわ!!」
その声は確かに私の声だった。
だけど私が紡いだ言葉じゃない、皆から伝わる悲しみをそんな言葉で否定なんてしない!!
寒気がして私の作り出した空間を見やる。
するとそこには……私の作った魔法の結界は崩れ落ちて、中から魔導王が出てきた。
私の身体を模倣しているから声も同じ……だけど身体中に大やけどを負っていて痛々しい跡がそこら中に付いていた。
アレを受けてこの程度で済んだ……?
いや、まだ魔力はある……もう一度同じ魔法で……!!
「だーめ、同じこと禁止~!」
「え……?あれ…………」
身体から力が抜けていく……。
最後の魔力が宙へ消えていく妙な感覚に襲われた。
魔導王のその言葉の後、私の魔力は完全に無くなった。
おそらく魔導王によって魔力が奪われた……!!
一瞬で魔力を失い、命を燃やす魔法の影響で私はすぐに倒れる。
最後に仲間達の方を見やる。
皆の悲しそうな怒りの表情を最後に見えた気がした。
そんな中でも口を動かすことはできず、頭の中で想いを呟くことしかできない。
『倒せなかった……ごめん皆……………………』