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第354話 救い


 タイヨウの怒りの炎がお城を覆うとムーンの防壁を超えて、お城の壁や天井を溶かし始めた。


 膨大な熱量で無理やり押し切ろうとするがそれはルークを模倣しているルミナが消してしまう。


 この世界においてルーク以上の炎の使い手は存在しません。


 タイヨウですら抗えないほどの炎操作を身に付けている理由はこれが女神から与えられた力の一端でもあるから。


 炎の加護を持っているからこそ、ルークの半身とも言えるルミナなら、このような所業も可能でした。


「チッ!!まさかあいつの力が敵になるとは思わなかった……」

「後少しで私を殺せたのに残念……ねっ!!」

「ぐっ……!あああああ!!」


 ムーンは炎を使えなくなったタイヨウへ容赦なく月魔法を放つ。


 月の形を象った魔法の刃は四方八方から襲い掛かり、タイヨウの肉を裂き、さらに瞬間移動を繰り返すことで無限に攻撃を加えています。


 タイヨウもまた魔導騎士(エーテルナイト)なので剣を使って何とか攻撃を受け止めているものの、月魔法に触れる事で体内の魔力が断ち切られて魔法を封じられる。


 やがて、タイヨウの魔力で日差しが強くなり、対象の味方を強化する魔法も消えていく。


「クソ……魔法が使えねぇ……」

「魔法だけじゃないわぁ!!」

「やべ……回避できな…………ぐっ…………くそっ⁉」

 

 ムーンは身動きできないタイヨウに向かって無慈悲に月魔法の刃を放ち、左腕を斬り落としてしまう。


 タイヨウは叫ぶこと無く、歯を食いしばって意識を保つ。


 そんな満身創痍な状態でもムーンはお構いなく攻撃を加え続ける。


 それを見ていたルミナは何の感情も抱いていない様子でした。


 むしろお城の外へ視線を映して別の事を考えています。


 ルミナはまるで無機物のような冷たい表情で呟く。


「そろそろ妾の主を復活させたいのだけれど」

「えー、私はこの男に恨みがあるの。もう少しズタズタにしてから殺したいんだけど」

「妾はそういうのは好かぬ……。先に儀式の準備をしておいても良いか?」

「早く終わらせて来いって?いやよ。これだけは時間を掛けて楽しまないと……」

「……好きにしなさい。早く殺しておいた方が良かったなんて後悔しても遅いぞ」


 ルミナはそういうとお城から飛び去って行った。


 炎を足から噴き出して、一瞬だけ空を跳んで目的の場所へ一瞬で移動してしまう。


 ルミナが去った後を鬱陶しそうに見つめながらムーンは呟く。


「本当誰に口を聞いているのか……汚い獣なのに……。まあこれが終わればあの臭い獣ともお別れだけど」

「はぁ……はぁ……」

「ルミナは居なくなったけど、魔法は使えないし、炎の剣は使えるけど、片腕じゃその太刀は振るえないでしょ?」

「お前……世界が……どうなっても良いのか!?」

「魔導王様が復活するのなら何でもいいわ。あなたに対する恨みも逆恨みなのか自覚してる……それでも前世の復讐の八つ当たりにしてあげるわ!そして魔導王様を復活させるの……!!!!!」


 ムーンは狂気の笑みを浮かべて天を仰ぐ。


 美しい顔が歪んで見える程の笑みにタイヨウですら尻り込みする。

 

「そんなに……どうして魔導王にこだわる!!」

「あの方が私を救ってくれたからよ」


 ムーンはタイヨウをズタズタにしながら、まるで言い聞かせるように転生する前の話をする。

 

――

 

 ムーンは幼い少女だった。


 何の変哲もないどこにでもいる女の子……ですが、一点だけ彼女ではどうにもならない問題を抱えていた。


 それは父親の暴力……。


 日常的に暴力を受けていた彼女はある時、家を飛び出して、とある神社に逃げた。


 しかし少女一人が生きていくことはできるはずもなく、家を出てもどうせ戻らないといけない事にどうしようもない怒りを感じただ泣くことしかできなかった。


 その涙の奥には当然のように殺意という悪魔が潜んでいる。


 そんな幼いながらに人に対しての殺意をむき出しにしていたムーンは神社の鈴緒(すずお)を力強く鳴らす。


 どうして自分だけこんな目にあわなければいけないのか……。


 どうして誰も助けてくれないのか。


 そんな誰にぶつける事もできない怒りを神にぶつけた。


 しかしそれをある女神が聞いてしまう。


『あなたの願いを叶えましょう』


 そんなどこからともなく聞こえた声に耳を傾ける。


 その声はあっさりと無慈悲な事を告げました……それは、この世界のムーンを助ける事は出来ないとハッキリ伝えました。


 その上でムーンを助ける唯一の方法を提案する。


『死になさい』


 そんな神様からとは思えない無慈悲な言葉を聞いてムーンは底知れない絶望に叩きつけられました。


 しかし、それは自分を諦めるということではなく、そんな自分を迫害する世界なんか捨ててもっといい世界へ案内してあげるという神とは思えない悪魔のささやきでした。


 最初は戸惑っていたムーンですが、女神様のある一言によって決意してしまう。


『少なくともあなたが死ねば、あなたに暴行していた人は裁かれる』


 ムーンの身体にはそこら中に傷跡が残っていたのでここで彼女の遺体が見つかれば確かに暴行が明らかになる。


 相手に復讐しながら自分は良い世界へ行ける……。


 それは今のムーンにとってとてつもなく魅力的な話でした。


 結果ムーンは鈴緒の縄を首に巻き付けてその命を絶ってしまう。


 ――

 

「そしてこの世界に来て、嫌な事から解放された。それならせめてあの神様にお礼をしないといけないじゃない?」

「そんな理由で……」

「そんな理由……?何も知らないくせに……私はあなたが怖かった。また暴力を振るわれるんじゃないかって」

「俺はそんな事したこと無いだろ!!本当に愛して……」

「そういう問題ではないの、アンタが優しく手を差し伸べようと近づけてくるその手がどれだけ怖かったか……何も分からなかったくせに!!」

「……ッ!!」

 

 子供のように怒りながらムーンは月の刃でタイヨウを斬り刻む。


 まるで過去の鬱憤を晴らすかのように……もう既にムーンは加害者と同じ事をしている事に気づいてすらいませんでした。


 そして最後の攻撃がタイヨウの身体を貫くという瞬間――。


 どこからともなく現れた炎が月の魔法を燃やしました。


「この魔法は……ルミナ。説教でもしに来たのかしら?」

「残念だけど……ルミナじゃない」

「……お前はルーク!?…………どうして動ける⁉」


 炎を放ったのはルミナではなくルークだった。


 そしてその後ろには死んだと言われていたフーリア達も居る。


 ルミナの言っている事は嘘で、誰も殺されてなどいませんでした。


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