第353話 太陽剣
タイヨウとムーンの戦いはまさに異次元のモノだった。
お城の壁はタイヨウの魔法と剣の熱で溶けて溶岩と化し、その溶岩は月魔法によって傷を付けられ、流れないようにせき止められている。
しかしそんな2人の激闘は庭で戦っているルーク達に伝わることなく、お城の王座の中だけで繰り広げられていた。
お城が倒壊してもおかしくない戦いを1つの部屋で行っているのに、その部屋を破壊するどころか庭に音すら漏れません。
この2人が戦えばこの街が吹き飛んでしまいますが、ムーンはそれを防ぐためにこの部屋を月魔法で覆っていたのです。
外から来る魔法も遮断し、中に誰も入れないように反対方向へ重力を操作する。
中に誰も入れないようになっているのでルーク達がここへたどり着いてもこの戦いに参戦出来ませんでした。
しかし今の所その必要はないでしょう。
肩で息をするムーンをタイヨウは余裕を持って見下ろしているからです。
そんなタイヨウの様子にムーンは悪態を付く。
「はぁ……はぁ……化け物め…………」
「酷い事を言うな。娘に言われると傷付くんだがな」
「娘をここまでボコボコにする?普通……」
「……お前のやったことがどれだけの事か、分かっているのかムーン!!」
「ルーフェの事?アレは殺さないといけなかったのよ」
「何だと?ルーフェが何をしたって言うんだ!!」
「さぁ……それは魔導王様に聞いてよ」
ムーンのここまでの行動にはある思惑がありました。
それは魔導王の意思。
ルーフェを執拗に狙った理由は魔導王のみが知っている。
「つまりお前は……魔導王の意思で動いているのか?」
「そういうことになるわ……。まあこうなったら復活は難しいかもだけど」
「どうしてそんなことを……自分で言うのもなんだが、俺はお前に愛情を注いでいたと思うんだがな……」
「分かっているでしょう?私にも前世の記憶ってのがあるのよ」
「……まるで俺のガキじゃないって言い方だが俺はそんなの――」
「違うわよ。誰がアンタなんか父親だと思ってたと?」
「だが俺の血は引いている。だからお前のやったことの償いは俺がやらせないといけない」
「……殺すの?」
タイヨウはムーンのその言葉を聞いて躊躇してしまう。
ムーンに認めてもらっていなくても自分の子供であることに変わりはない。
それでもルーフェを殺したこと――。
そして|ルーク(親友)を売るような行為をしているムーンをタイヨウはどうしても許せなかった。
それにこのまま悪い女神が復活すれば世界が終わるかもしれません。
ここまで沢山の神がその悪い女神の復活を阻止するため、タイヨウやルークに接触しています。
それを考えるだけでもあまりいい存在ではない事は明確でした。
「この責任は俺が取る……太陽剣ラー解放ッ!!」
「……アマノの秘宝太陽剣……」
「本来の秘宝は炎神刀アマテラスだが、アレはルークのだからな……。まあこれでも十分強力だが……」
「ふふ、娘を殺すの?」
「それがアマノの国民……いや俺の親友との約束だ!!」
「今の弱っている状態でそれを受け止めるのは無理そうね……」
黄金に輝く炎を纏う太刀を前にムーンは観念した。
そもそも彼女はタイヨウを相手にして勝てるとは微塵たりとも思っていません。
それではどうしてこんな所で戦っているのか、それはただの時間稼ぎで、ルミナがここに来てくれればこの不利な状態も回避できる。
しかしルミナは間に合わなかった。
「まあいいわ。私が居なくても魔導王様は復活するのだから!!」
「させねーよ!」
タイヨウは太陽のような爆炎を纏った太刀をムーンに向かって振り下ろした。
ムーンはそれを避ける仕草もせず、諦めて目を閉じて受け入れている。
タイヨウはその様子を見て、思考を巡らせる――その様に見せる事で自分の精神を揺さぶろうとしていると考えた。
だから頭の中で大切な人や亡くなったルーフェの無念を想像することで躊躇いを捨てる。
そのまま手加減無しの炎の刃がムーンに振り下ろされるという瞬間――突然炎が消えてしまいました。
炎が無いと威力が落ちてしまい、ムーンの魔法に弾かれる。
タイヨウは自ら炎を消したわけではありません。
きちんと殺すつもりで振り下ろした太刀の炎が消えた……。
「いや、誰かに消された!?俺の炎を消すなんて芸当ルークくらいしか……誰だ!!」
「妾よ」
「マジでルークじゃねーか……いや、髪の色が違う……?」
タイヨウの炎を消したのはルークに似ているルミナでした。
彼女にはルークと同じ力が宿っていて、炎を操るのに長けています。
魔力も聖獣9匹分という化け物並であり、圧倒的な魔力で炎を掌握してしまいました。
それでもタイヨウの炎を消すのに聖獣7匹分の魔力を一気に使っています。
「私はルミナ。ルークの現身と思ってもらって良いわ」
「ちっ……アイツの力使える奴が敵かよ。つーかお前ら下で戦ってただろ?」
「ルークは倒した。他の奴らは殺したわ」
「なっ……⁉てめーら命を何だと思ってやがるッ!!!!」
タイヨウは怒りのまま炎を放出する。
戦えるのはもう自分だけ、絶対にここで負けられないという想いと仲間達の無念を晴らすためにタイヨウの最後の戦いが始まった。