第352話 炎の怒号
ルミナの真意は未だに分からないけど、私達を殺したいと思っていない事は分かった。
話を聞いている限り、自分一人で解決しようとしているようにしか思えない。
何をしようとしているのか、その詳しい内容までは分からないモノの、大切な仲間が1人で戦おうとしているのならそれを止めなきゃいけない。
だって離れたと言っても、私とルミナは――一心同体なんだから……!!
そんな私の想いに負けないくらい仲間達もルミナの事を考えてくれている。
「1人で戦うなんてしちゃいけないよルミナ」
「ショナ……言っておくが、ルーク以外は殺しても妾の計画に問題は無い」
「でも殺そうとはしなかった。あくまで計画だけなら邪魔な私達は消すべきだったんじゃないかな?」
「なら、望み……通りにしてあげよう……!!」
ルミナは怒りの炎を燃え上がらせた。
お城の庭を覆う程の真っ黒な炎……まるで地獄みたい。
「自分の本音がバレたからって怒りすぎでしょ馬鹿!!」
本当は私達のために戦っている事がバレてルミナは暴走しているようにも見える。
自分一人で何とかしなきゃいけないと思っているんだろう。
でも……気持ちは解らなくない。
そりゃ一緒に戦ってくれる仲間が傷つくことは嫌だけど、それでも皆で戦った方が安心感もある。
何より1人で戦って後で怒られると結構面倒なのが分かったからね。
それはルミナも解っているはず、こういう選択を取る場合、仲間に怒られない手段があるとすれば命を賭ける事……。
だんだんルミナのやろうとしている事が見えてきた。
ルミナは私と同じで最後の手段として考えていたみたい……。
だけどルミナにそんなことはさせたくない!!
私達はその黒炎の中で立ち止まることなく向かって行く。
ショナの雷撃は勢いを増し、それに続いてサツキも水の斬撃を加える。
2人ともルミナのためにルミナを倒すと覚悟を決めた事で先ほどのように手を抜くことは無くなっていた。
私がその様子を見て安心していると隣りに居るフーリアが声を掛けてくる。
「ほら、1人でなんでもしようとする代表も手伝いなさいよ」
「そんなこと言われるとは思わなかった……。というかルミナの事あまり好きじゃないみたいだったけど、ちゃんと助けてくれるんだね」
「べ、別にそんなんじゃない。ただ、今はアレの力が必要なだけ!これが終わったら殺してやるんだから……!!」
また恐ろしい事を言ってるけどこれはフーリアが素直じゃないだけ。
仲間を大切にするフーリアがそんな残酷な事はしないだろうけど彼女のプライドのためにもここはそういう事にしておこう。
それに皆の勢いが付いたとはいえ、相手は聖獣9匹分の化け物だし……。
今戦っているサツキとショナの2人だけじゃ絶対に勝てない。
ルミナは私とウリ2つの見た目をしているんだけど、髪の色は白く、魔力は黒い。
さらに尻尾は9本になっているので本来の力を発揮できているはず。
尻尾9本のルミナの威圧感は立っているだけで足が震えるような恐怖を感じる。
これが仲間じゃなかったら立ち向かうのに躊躇ってしまうかもしれない。
ルミナの毛が逆立っていてその毛一本一本から溢れ出る魔力があらぶっている事から怒っているのが分かる。
「このぉ……馬鹿者共がぁ!!」
先ほどからの趣のある言葉遣いはどこへやら……荒々しい口調になっていた。
黒い炎を尻尾に纏わせて、それを使ってショナとサツキの剣を受け止める。
2人を尻尾だけで押さえつけて、そのまま地面に叩きつけた。
「がはっ⁉」
「きゃああああっ⁉」
2人の悲鳴が響き渡っている。
私は付与してある炎で2人を治癒しながら、フーリアと共にルミナに攻撃を加える。
風を纏ったフーリアの剣が私の炎に触れるっと炎が膨張して大きく膨れ上がり、威力が増す。
一度これを撃てば止めるか私達の体力が尽きるまで無限に炎が膨れ上がる。
「くっ……!!」
ようやくルミナが押され始める。
後もう少しで突破できるという所でルミナは9本の尻尾を地面に叩きつけて空高く跳ぶ。
尻尾をバネにしてその場から抜け出した!!
私とフーリアの合わせ技から逃してしまった……これの弱点は風が混ざる事で炎をコントロールする魔法を使えない事、回避されれば追跡は出来ない。
さすがに一筋縄ではいかないか。
と、そんなことを考えていたらルミナが空から下りてこない事に気づく。
浮遊魔法を使ってる……。
ルミナは私が使える魔法と聖獣の力しか使えないはず。
「いや、まさかアレは……」
「そう、これは聖獣アマノの固有魔法、八咫烏よ。しかもこれはただの浮遊。空を飛ぶための魔法には緻密な操作が必要だけど、これにそんな複雑なモノは要らない。想像力で浮かせられる」
私もアマノから力を受け取っているので多分使えるはずだけど……そんな便利な魔法だったのね。
やっぱり固有魔法を覚えてもちゃんとその魔法の概要を理解しないとダメね。
一度見て覚えるのが私の真の戦闘スタイル。
固有魔法で空を飛ぼうとしたその時、ルミナは叫ぶ――。
「もうよい、妾が全てやってやる……お前達はここで寝ていろ!!……妾の全魔力……聖獣の力を束ねる」
「ちょ……なんかやばい攻撃が飛んできそうだけど!?」
ユウリの言う通り聖獣の力がルミナの手のひらに集まっている。
神秘的な白い魔力の塊がルミナの手に収まるほど濃縮される……あんなの食らったら死ぬ。
ルミナもなりふり構っていられないのか……殺すつもりは無いはずだけど、予想以上に私達が食い下がる事で焦っている……?
ムーンを倒す好機でもあるのかな……?
だとしてもそれなら私達に言えばいい!!
それを問いただすためにもここで逃げるわけにはいかない。
ルミナのため、そしてこれからの世界のためにも私は皆の命を預かることを決めた。
「全力で突っ込むよッ!!」
「「「「「おおおおおっ!!!!!!!!!!!!!」」」」」