第34話 ギルドマスター
私達を囮にしてギルマスは一人、怪しい男と対峙する。
ギルマスの戦い方は独特で小さくて細いナイフを使っているんだけど、吸血の魔法を使うからこの人は魔導士だ。ナイフは剣士が使うような魔剣や聖剣ではなく、本当にただのナイフ。
一見、その戦い方は暗器使いを彷彿とさせるもので特殊なものは無いように見える。
だけどその剣術は到底人間では真似できるものじゃなかった。
それは怪しい男も感じていた。
「お前の戦い方はえぐいな」
「そうかい?まあ100年以上生きることになって少し人をやめているからかな?」
「吸血魔法か……アンタは本物の吸血鬼になったのかもしれないな」
「私の吸血魔法を知っていたか……本当に何者だ?」
ギルマスは予備動作無しで怪しい男へ向かって飛ぶ。地面をたった一蹴りで20メートル離れている相手の懐に一瞬で入っていく。
そのままナイフを突きだし心臓を狙う。怪しい男はそれに反応。
ギルマスのナイフを持った腕をつかむ。
ナイフを直接掴むリスクは負わなかった。
「賢いな……というかなぜ知っている?」
「吸血魔法はその名の通り血を吸う魔法だからな。傷口を見せるのは自殺行為だろうと思ってな?」
「戦いによる勘……。それとも……」
ギルマスが何か言おうとした瞬間、最後まで言わせずに怪しい男はなんらかの魔法で強化された紫色のオーラを纏う蹴りをギルマスに放つ。
腕を掴まれた状態で身体からゴキゴキと骨が鳴る音……それはギルマスの身体から聞こえる。
怪しい男の蹴りがヒットしたんじゃなくて身体を捻って無理矢理避けて鳴った骨の軋む音だった。
人間じゃあり得ない角度に曲がって攻撃を避ける。
そして右手に握っていたナイフを自分の方に放り投げて口で掴むと刃を怪しい男に向けて放つ。
男はその攻撃を避けるために掴んでいたギルマスの腕を放す。
「くそ……さっきからイカれた戦い方しやがって……」
「君の言う吸血鬼になった影響だろうね」
ギルマスの曲がった身体はグネグネと元通りに戻る。凄まじい再生力……これは人じゃない。
だけどギルマスはグネグネと曲げた身体が戻ると腰に手を当ててまるで骨を整えるかのようにフリフリと動かせる。
「ふぅ……痛い痛い」
「痛みあんのかよ」
「そりゃあね?だけどどうせ治るから」
「ちッ!!」
その異常な光景に怪しい男ですら不気味に写ったのか後ずさりする。
これがギルドマスターの力!?
ほぼ不死に近い彼女を止めるのは無理だろう。
私たち新人を囮に使っても死なせない自信があるみたいだったけど、自分がほぼ不死なら最悪私たちを庇うことで守ることが出来る。
やり方はめちゃくちゃだけど、ギルマスならではのやり方というわけか。
「俺一人じゃ無理か……」
男は呟くと木の陰に隠れて行った。このまま引いてくれる……とは思えない。
あの男の狙いが私かフーリアかショナか分からないけど、少なくともこの3人のうちの誰かなのはギルマスが想定している。
今この機会を逃すとは思えない。
「来るぞっ!」
ギルマスが叫ぶと同時に怪しい男が隠れた木の陰から複数の人間が出てくる。
仲間を呼びに行っていたのか。だけどまだ周りの木々の上から人の気配を感じる。
それとはまた別の戦力を持ってきたということ?私達のこの状況ではむしろ厄介なのはその周りに居る人達だ。
いつ奇襲が来てもおかしくない状態にあるからこそ、できれば早く出てきて欲しい所……。もしかしたらこの男はそれを理解してわざわざ援軍を別に連れてきた?
だとすれば本当に嫌な相手だ。
「面倒な」
「ククク……せっかくの機会だからな?目的は果たしたいだろ?」
「同感だ」
同じくギルマスもここで決める気だ。お互いに引かない宣言をすると、再び相まみえる。
怪しい男とギルマスがぶつかる。ギルマスは正面からの突進に対して同じように突っ込んでいく。ナイフを構えてそれを怪しい男の心臓に突き刺す。
が、その男から血が出ない。
「これは……幻影の魔法!?まさか!?」
ギルマスは怪しい男が連れてきた援軍も気にせず、私達の方を振り返る。
その瞬間に理解する。その援軍と怪しい男が幻影の魔法であるのなら本体はどこに居るのか……私は背後を振り返る。
しかし時すでに遅かった。
男はフーリアを捕まえて首筋にナイフを突き付けている。
「動くなよ。じゃないとこいつを殺すぜ」
「くっ……!!」
気づけば男が援軍として連れてきた者達は一斉に姿を消していた。
あれもこの人の幻影の魔法の1つだった。最初から戦力はここに居る者だけで援軍なんてなかったわけか。
引いたように見せたのも作戦だったようだ。
いや、もう今はそんなことはどうでもいい。このままじゃフーリアが……!!
「フーリアを放せッ!!」
「動くなって、まあなんだそうすれば殺さないって」
殺す気が無いってことはまさかこいつらの目的って……フーリア!?
怪しい男は不敵な笑みを浮かべる。
コイツ……!!
「ふん、こっちも結構やられてんだ。そろそろ目的を果たさないとな」
「フーリアをどうするつもり!?」
「さぁ?まあ持って帰ってからだな」
あの強気のフーリアでもこの状況では怯えた表情をしている。無理もない……いつも強気で居るけどまだ15歳の少女なんだから。
そしてフーリアをそんな風にしたコイツを私は許せない!!
「炎帝……」
「あ?剣をしまえよ。さすがにその距離で剣を振ったらこの子も真っ二つだぜ?」
「ほむらぁ……!」
「はったりはやめとけよ。俺の勝ちだ」
このまま刀をいつものように振るえばこいつもろともフーリアは真っ二つになる。分かっている……それじゃあダメだ。だから私は魔法もついでに使う。
私の家系、バレンタインの魔法は「不死鳥の炎」。それは任意の選択で治癒にも攻撃魔法にもなる。
私はその性質を利用する。
魔力を剣が放出する炎の内側に組み込み炎の性質を「不死鳥の炎」へ威力はこの剣独自の力を利用する。
「焔薙斬り!!!!」
私は刀を容赦なく振るう。
紅蓮の炎がフーリアと怪しい男を包み込んだ。
「なんだと!?どうしてお前……ぐああああああああああああああああああああっ!?」
「きゃあああああああぁぁぁぁ!?……え?」




