第349話 白狐の黒焔
ムーンを倒すためにルエリア城を目指す。
学校に行こうか悩んでいたんだけど、凄まじい魔力のぶつかり合いをしているお城に行くことを決意する。
学校の方から耳を覆いたくなるほどの雷の爆雷音がしたから、気になっていたけど……それはもう落ち着いていた。
もしかしたらそこでの戦いは終わっているのかもしれない。
それなら他の皆もお城の異様な魔力に集まっているはず!!
それに……お城からはあの子の魔力を感じていた。
「ルミナ!!」
自分に魔法を掛けて人とは思えない程の速度で街を駆け巡る。
大地の魔力が酷く淀んでいる学校よりもお城の方がおそらく危険……。
それはお城が見えてきた事ではっきりわかる。
突然お城の中、高い場所に位置する部屋から月を象った魔力が放たれる。
私の使う月魔法とは比べ物にならない程、巨大な魔力の塊が上空を通過していく――おそらく月魔法だ。
あの魔力に触れたらその部分が切り離され、魔力が消失する。
だけどどこか他の力も働いているようで、まだあの魔法には隠された概要がありそうね……。
しかも魔法は消えることなく街の外まで出て行った。
大丈夫だと思うけど、あの方向はハーベスト帝国の首都がある。
ルエリア城よりも大きなハーベストのお城にアレが届いたら大変なことになるかも……。
いや、もう飛んで行ってしまった魔法を止める事は出来ないので少しでも早くムーンを倒せばあの魔法も消えるはずだ。
「急がないと……!!」
お城は周りの大きな塀に囲まれている。
鉄格子の門から入れるのでそこまで周ってみると、開いていた。
もう既に誰かが侵入しているみたい、この魔力で考えるとタイヨウだろう。
私が力になれるか分からないけど、多分ルミナも戦いに参加しているはず。
せめてルミナくらいは私が抑え込めれば有利に立てるはずだよね。
空いていた門をくぐり抜けてお城の大きな庭に足を踏み入れる。バレンタイン邸よりも遥かに広い庭を横切る。
しかし私は庭の中央で足を止めてしまった。
急がなければいけないのは分かっている……だけど、目の前の光景に私は動けなくなってしまう。
お城の庭の中央には噴水があったのか、戦いの跡で壊れている。そしてその噴水の周りには……。
「皆ッ!!」
フーリア達が倒れていた……!!
咄嗟に近くに居たユウリの所まで駆け寄り、生きているか確認する。
大きな胸に手を当てると少しだけ動いているのが分かった。一応死んでいないみたい。
安堵しつつも結構危ない状態かも……身体はやせ細っていて魔体症の力を使っている。
他の皆も息はあるみたいで荒い呼吸が聞こえてくる。
とりあえずここは治癒魔法が得意な私が皆を癒してあげないとね。
何があったのか気になるし、早く治さないと!
手を翳して先の戦いで強化された治癒の炎を使う…………。
「フェニックスフレア!!」
炎の治癒魔法で皆を癒そうとしたその時だった。
突然、黒い炎が飛んできて、私の炎を弾いてしまう。
強化された治癒の炎が一瞬で焼かれた……メイビスとは違う。圧倒的な魔力の差で無理やり捻じ伏せれた!?
「誰!?」
「妾の魔力を忘れてしまったのか、半年も身体を共有した仲というのに」
「その声……私、いやルミナ⁉」
黒い炎が飛んできた先に居たのは、前までの私。
狐の耳に尻尾を生やした少女。ただし髪の色は白くて、話し方も違う。
私の力の6割を奪ったルミナが立ちはだかる。
だけど私は出来れば戦いたくない。
「ルミナ!ちゃんと話合わない?私はあなたと……」
「……甘いっ!!」
「ルミナ!!」
ルミナは黒い炎を使って側に倒れていたフーリアへ向けた。
急いでフーリアの前に立ち、炎を払う。
この禍々しい炎はダメだ……多分、私以外触れたら大変な事になる。
おそらくフェニックスフレアの対象を選んで治癒したりできる魔法を応用している。
私に魔法が効かないのは炎への耐性が強いのとフェニックスフレアなら中和できるから。
魔法を無傷で中和して、フーリアを守る事が出来た。
「少し強くなったか……しかしルークよ。そなたでは妾に勝てぬ」
「どういうこと?」
「妾はお前の魔力の6割を奪った」
私に残っているのは残りの4割の魔力……。さっきの私の炎が燃やされたのは魔力量の差が向こうに負けていたから。
確かに数字だけ見れば私の方が不利かもしれない。
だけどこっちは修行をしてきた。
魔力を回復させるんじゃなくて魔力を増やして来た。
ルミナと一緒に居た時より魔力は少ないかもしれないけど、それでも6割程度なら勝てるはず……なのに!!
私の炎は圧倒的な差でかき消された。
「妾の魔力は聖獣9匹分にまで膨れ上がった」
「は……?」
「もはやお前達人間の魔力など虫けら以下だ」
9匹の聖獣の魔力が今のルミナの中にある……?
本来の6割程度の私にサツキ達が負けるわけがないと思っていたけど、それならこんなあっさり皆がやられたのも納得できる。
まだ皆生きているけど、長くこの状況が続くと危険だ。
「ルミナ!退いてくれないかな?皆を治癒したい」
「無理なの分かっているであろう?」
「そう……それなら私が1人であなたを……!!」
そう決意を言葉にしようとした時だった。
倒れていたサツキ達が急に起き上がる。
ルミナにやられて立っているのもやっとなのに……。
「君1人に背負わせないよ……全員でルミナを止めよう!!」
「サツキ……大丈夫なの?」
「仲が良かったかと言われれば分からないけど、俺もルミナの事は仲間だと思ってる。一緒に止めるぞ!!」
「うん……分かった!!」
ムーンとの戦いの前に私達7人の喧嘩を済ませないといけない。
それにタイヨウとの戦いでルミナが居ないのなら、この戦の勝利が見えてきた。
私はこれが最後の戦いになると思って全力で挑む……相手は聖獣9匹分の最強生物!!
それでも……。
「負けないから!!」