第348話 ミツキの苦悩
私の魔法でメイビスを無理やり押しこんで勝利を捥ぎ取る事が出来た。
妹を相手に大人気ないかもしれないけど、この子は私が手を抜いて勝てるあいてじゃない。
それにどれだけ全力でも炎魔法でバレンタインを焼くことはできないから、強力な魔法を使っても殺してしまう心配は無かった。
それでも一歩遅かったみたい……。
命こそ失われなかったけれどメイビスは魔体症の影響で記憶を失ってしまった。
まるで赤子のようで、先ほどまでの大人な雰囲気や振る舞いがどこへ行ったのか……。
その行先は先程の魔力にに変換された。
中身は9歳だけど、それより精神年齢が低くなっている。
自分で立つこともできないのか、横たわっていて私は地面に腰を下ろしながら膝の上にメイビスの頭を乗せる。
彼女の目からは先程までの憎悪は一切感じられない……むしろ怖すぎる程、無垢な瞳を向けてくる。
しかし先ほどまで戦っていたミツキはその様子を見るなり……怒りを露わにした。
「ちょっと!早くそいつを始末しなさいよ!!」
「そっちは終わったの?」
「よ、余裕よ……この程度の子供達に負けるわけ無いでしょ」
「さ、さっきの話聞いていたでしょ?メイビスにもう記憶が……」
「嘘かもしれないじゃない!!それに……こいつが連れてきた魔王教団のせいで仲間が…………」
ミツキは何とか生き残ったものの他の人達は地面に横になっている。
一部動ける者も居るけど、重傷を負っていた。
相手はエステリア学校に編入してきた魔導騎士……一般の人達では勝つことすら難しい相手。
同じ魔導騎士でも魔王教団に協力していたのなら薬を飲んで力を得ていたはず。
むしろミツキはここまで無事だったことの方が奇跡だろう……見ていなかったけど、ルーンも戦っていたから役に立ったのかもね。
それでも2人とも満身創痍だ。
だからこそ、この戦場を持ってきたメイビスを野放しには出来ない――その考えは分かるし、怒りだって伝わってくる。
それでも私はこの子を殺すことはできない。
だってこの子はあの人達が最後に残したもの、それを殺すなんて絶対にしたくない!!
「そんなに嫌なら……私が…………!!」
「触れるなッ!!!!!!!!」
私はメイビスに手を伸ばそうとするミツキを睨みつけていた。
自分でも驚くほど感情的で……メイビスに触れられることへの怒りが炎のように燃え上がる。
確かにこの子のやったことは記憶を失ったからと言って許されるものではない。
だからこそ、ちゃんと償ってもらわなきゃいけない。おそらくそれを手助けするのが私の役目だ。
「前に賭けてた奴……確か私達が雪山を最初に攻略したら、私の勝ちだったよね?」
「……それが何?」
「欲しい物をミツキは一方的に言っていたけど、私はちゃんと言ってなかったよね」
「まさかアンタ……」
「メイビスを殺さない……それが私の望む報酬だよ」
この場で言っていい事じゃないのは分かっている。
それでも私はここでこの卑怯な手を行使する。
ミツキと争わずメイビスに手を出させない……この場を終わらせる方法はこれしか無い。
私しかメイビスを守れるのは居ないんだ。
今のこの赤子のような表情を見て、強くそう思った。
ミツキは私の事をゴミでも見るような目で睨みつけてくる。けれど私は動じない……。
だってこれだけは譲れないから!!
「ダメよ!!そいつのせいでルイも……アンタの義理の妹だって!!大きな怪我を負った……せめて同じ位苦しめないと……!!」
「――ッ!!」
「熱っ!?」
ミツキがメイビスに触れようとした瞬間、私は「不死鳥の炎」を使った。
タイヨウの炎強化魔法を受けているおかげで私の炎はどこまでも広がっていき、街全体を覆う。
そこまで言うのなら私にも考えがある……。
私は街を燃やす――のではなく、街を治癒の炎で直す!!
壊れた家も、植物も人々の傷さえも……そして今、死に絶える寸前の人々から魔王教団も全員。
魔王教団はこの炎で癒されれば薬の影響が消える。
魔法の対象は薬の影響下にない魔王教団意外の全てを癒す……バレンタインの魔法を受けて、直接見た私なら可能なはず……いややらなきゃいけない!!
炎が収まるとミツキは先程まで重傷で動けなくなっていた仲間達が急に立ち上がったことで驚いていた。
ルイとルーンも怪我が完治して、完全に回復している。
「死んでた人も生き返った……?いや、死んでしまうギリギリで癒して動けるまで治したの……?それも人だけじゃなくて街も全部……」
「ミツキ、これはメイビスが教えてくれた……この炎の本当の使い方」
「……」
「この炎なら何でも燃やせるし、何でも癒せる。物でさえも……それが分かったからこそ、ようやく本来のフェニックスフレアが使えたの」
「だからそいつを見逃せと……?」
「ええ、何か文句でもある?」
「……」
こんな状況にしたのはメイビスだから自業自得だけど、この魔法が強化されたのも事実だ。
ミツキの怒りは仲間が倒れた事、しかし倒れた仲間達はみんな息を吹き返したように立ち上がった。
自分でもここまでの事が出来るのかと驚いてしまう。
本来のバレンタインの炎はここまで凄いのか……私は力の一端しか使いこなせていなかった。
ようやく私も真の炎の魔法使いになれた……そんな気がする。
だからこそ、私にはやらなきゃいけないことがあるんだよね……だから今は面倒を見られない……ごめんねメイビス!!
「ミツキ、私はあなたを信頼してる。だからメイビスをお願い」
「は?は?はぁ~?!自分で見逃せと言っておいて面倒は私に押し付ける気!?」
「今だけ……やらなきゃいけないことがあるから」
「身勝手すぎるわよ……」
「仕方ないでしょ……後ルーンの事もお願い」
「……アンタまさか……ムーンを……」
「最後のケリを付けに行くよ。その後はちゃんとこの子と向き合う。だからお願い!!」
私は全身全霊で頭を下げた。
ミツキは一度考え込む。
後ろにいる仲間達の無事な顔を見る事で先ほどまでの怒りが引いているのか、表情は柔らかかった。
そしてため息を付きながらも今回だけは見逃してくれると言ってくれる。
ただその代わり、ムーンを絶対に倒せと念を押されたので……。
「分かった。ありがと、ミツキ!」