第346話 メイビス=バレンタイン
調子を取り戻したアカツキは先ほどよりも勢いを増して魔法を放つ。
供給され続ける魔力を月魔法で断ち切る事で、魔力の大半を失ったのに……そのせいで余分な魔力が無くなり本来の力を発揮できるようになってしまった。
炎の魔法は私には効かない、そのはずなのに……触れた髪の先が焼けてしまう。
急いで火を払って止めたけど、前の戦いで短くなった髪がさらに短くなるところだった……。
「どうして私の髪が燃えて……」
「これが本物のバレンタインの魔法だからよ!!」
「本物の……?」
まさか薬の影響を少なからず受けていたアカツキの身体では今まで完璧に「不死鳥の炎」を操れなかったというの……?
少し前でも私よりも使いこなしているのに……この魔法にはまだ先があるという……。
私の戦闘スタイルはルーフェとの修行で相手の魔法を理解し模倣する技術を使っている。
今まで「不死鳥の炎」を使える人に合わなかっただけでここに本物がいるんだ。
この戦いの中で真の「不死鳥の炎」を見て、完璧に自分のモノにする。
今はピンチでもこれはチャンスでもある……!!
お互いに炎の魔法が効かないと思っていたから使わなかったけど、私に炎が通じたってことは……アカツキ相手でも本来のバレンタインの炎が使えれば何とかなるかもしれない。
「フェニックスフレア!!」
「ふふ、あなたの炎は私には効かない!!」
「くっ……」
アカツキを燃やす想像と魔法に自分の理解したことを詰め込んだ。
だけどまだ魔法への理解が足りていないというの……?
ここまで観察して、まだ足りない……。
私に何が足りないんだろう……アカツキにはあるけど私には無いモノ。
それはやっぱりバレンタインの正統な血……。
私はあの人達の子供じゃないから……。
そんなことを勝手に考えて勝手に落ち込んでいるとその一瞬の隙をアカツキは逃してくれなかった。
勢いよく炎の魔法をこちらに放ってきた!!
本来なら炎で反撃するけど……相手には効かない…………。
「この……月魔法…………っ!!」
「結局それに頼るんだぁ!情けないなぁ!!」
「くっ……」
私の月魔法もまた理解が低くて、調子を取り戻したアカツキの炎に包まれ燃やされる。
魔法を壊す月魔法が炎の魔法に焼かれて消失する。
馬鹿げている……どういう原理でそんなことになっているのか全く理解できない。
これじゃあ完璧な模倣なんてできない……!!
頭の中でそんな考えを巡らせていたその時だった。
「焦るなっ!!」
「ミツキ……⁉」
後ろで戦っているミツキが戦闘中にも関わらずこちらに声を掛けてきた。
相手は魔導騎士だからそんな余裕は無いはずなのに……。
その嫌な予感は的中してしまい、ミツキの顔が魔導騎士の剣によって斬りつけられる。
左目に縦一直線の傷が付いてしまった。
しかしミツキはそんなことを気にせず、私に言葉を届けようとしてくれる。
「うぐっ……よく見なさい!!目の前の相手を!!!!」
ミツキの言葉に耳を傾ける。
相手とはアカツキの事……だよね。彼女の様子を見る……魔法ではなく、アカツキ自身に意識を向ける。
さっきから焦っていてよく見ていなかったんだけど、今までのアカツキと様子が少し変わっていた。
なんというか少し小さくなった……?
薬の影響が月魔法によって乱されたことで、アカツキは本来の魔力を一時的に取り戻した。
しかし薬の影響が消えたことで、無理やり身体を大きくしていた作用も中和されているのかもしれない。
さらにそれを物語るようにアカツキの魔力が極端に少なくなっている。
本来9歳くらいのアカツキ……幼児の魔力量はどれだけ特別な才能を持っていてもそれほど多くない。
魔力を高めるためには日々の修行が必要不可欠だから。こればかりは才能でも限界がある。
おそらくアカツキはそれを欠かしていない、けれど薬の影響で魔力が上がっていたのも事実。
9歳にしては膨大な魔力を有しているけど、これなら私に及ばない。
まさかミツキはそれに気づかせるために無理をしてでも私に伝えてくれたの……?
あの子は私のことは嫌いだと思っていた。
もしかしたら案外嫌われていなかったのかもしれない?
それかこんな状況だからこそ、死なれたら困ると考えているか……。
フーリアっぽい所があるから後者もありえるのよね。
しかしここはミツキの助言を素直に聞いておいて正解だった。
これなら魔法を避けて、魔力を使わせれば勝てる。
戦い方の方針を切り替える。
時間稼ぎなんて大人気ないかもしれないけど、これは遊びじゃない。
私はみんなの為に負ける訳には行かないし、それに魔力切れを狙うならアカツキを死なせてしまうことも無くなる。
父上と母上の本当の子を死なせたくない。
そのためにもここは心を鬼にして、持久戦に持ち込む。
炎の魔法はあまり効かないけど、下手をしたら火傷する。
ちゃんと見て避けて、無理そうならルーフェ師匠の使っていた最大の防御魔法を使い防ぐ。
完全に守りの姿勢に入った私を見てアカツキは嘲笑う。
「はぁ……はぁ……この程度ですか、お姉ちゃん!!わ、私はまだまだ……余裕が……ありますよ…………!!」
全然そうは見えないけど、魔力は徐々に失われて魔法の威力も落ちている。
これならもう長い時間は耐えられないはず。
もうそろそろアカツキが倒れるという瞬間――地面に倒れそうになった身体を無理やり引っ張るように踏ん張る。
倒れると思っていたからもう限界のはずなのに……また急激に魔力が上がった!?
「どうなって!!」
「言ったでしょ……はぁはぁ……まだやれるって!!」
薬の影響はもう受けていない。
だけど、魔力が異常なまでに上がっていた。
魔力の器に似つかわしくない膨大な魔力を使っている……これはまさか!!
「魔体症!?」