第345話 焔と炎
魔法と剣を使える特異体質魔導騎士の私とアカツキの魔法と魔法のみの合戦。
私は自分では認めていないけど魔導騎士と同じ力を持っているので剣も使える。
そしてそれはアカツキも同じ。
しかし魔法と剣を使える者同士の魔法のみでの意地の戦いはお互いに貫き通す。
私の月魔法をアカツキは防御魔法で防ぐ、この月魔法は魔法を傷付ける性質を持っていて、防御魔法は徐々に傷が付いて脆くなる。
アカツキはその防いだ防御魔法に傷が付けば治癒の炎で癒す。
そして向こうの攻撃魔法は炎がほとんどで、それでは私にダメージは与えられない。
案外こちらが有利に思われるかもしれないけど、月魔法は異常なほどに魔力を使う。
ただ月の形を象った魔力の塊をぶつけているだけなのに……。
そもそも魔法に傷を付けるという性質が加えられているから、それが無駄に魔力を消費しているみたい。
見た目は手のひらサイズの月の形を象った魔法。
そんな小さな物を維持しながら、魔力で操作するだけで4割りの魔力を消費する。
私の魔力はルミナに奪われて本来の4割しか使えない、その4割を今の10と見た4割りの魔力消費はあまりに痛すぎた。
一方のアカツキはまだまだ余裕がある様子。
おそらく今の私の魔力の倍以上の魔力量を保有している。
魔王教団の四屑でもないけど、ムーンに似た雰囲気を纏っていた。
おそらくこの子は他とは違う。
学生の域を超えているはずの私でも勝つのが難しいかもしれない。
少なくともこのままの状況が続けば魔力切れで負ける。
そうならないようにするには……短期決戦を狙うしかない!!
月の魔法を操るのをやめ、戦い方を切り替える。
操作を離れた月の魔法は地面に落ちて、突き刺さる。
切れ味はとてつもなく抜群だけど、何度も魔法障壁を治癒してくるのでアカツキには届かない。
それならもっと威力のある魔法を使って早期決着させてやる!!
「炎帝焔纏い!!」
「特殊な魔法ね……バレンタインとは違った。異質の……そう異世界の炎……!!」
妙な事を口にするアカツキ……一体何の話をしているのか気になるけれど、こっち話している時間も惜しいの……。
私はルーフェに教えてもらったことが沢山ある。
それはルーフェとは違って本当に全ての魔法を扱う事が出来るかもしれない――ということ。
最初はそれを聞いてあり得ないと思っていたんだけど、ここまで魔王教団の話を聞いてあることに気づいた。
それは私を転生させた神様が魔法の神ということ。
これは私の憶測だけど、魔法の神から与えられた祝福は全ての魔法を使えるというものじゃないかな……?
もしかしたら他にも何かあるかもしれないけど、少なくともこれだけはほぼ確定だと思う。
転生前に合った時に力を与えてくれたことは覚えているし。
でも今まで自覚できずにこれが与えられたものだと理解できなかった。
だけど模倣に優れたルーフェでも不可能な固有魔法を模倣できる私を見て、そう確信したという。
そうなると気になる事が魔導王と呼ばれ、魔法の神である女神の敵勢力となる私にどうしてそんな力を与えたのかだけど……。
今はこの力を使ってこのアカツキを倒すのが優先だ!!
炎を纏いて身体能力を強化。そのままアカツキの方へ近づいていく。
そして地面に落ちている月魔法を拾い、右手で強く握る。
ブーメランを握っている感覚に近いかな……でもそれよりずっと凶悪なモノ。
先ほどまで魔力を使って操っていたのをやめて、私自身でそれを振るう事を考えた。
この魔法は操るのにも魔力を沢山使ってしまうんだけど、これなら維持するだけでいい。
炎魔法は私にとって得意分野で魔力の消費も最低限コントロールできる。
そのまま月魔法を手で握り、強化された身体能力で魔法の壁を打ち破る!!
この月の固有魔法を模倣できて良かったとこれだけは神様に感謝しないとね。
「くっ……魔導士のくせに戦士のような戦いをして……!!」
「これが私の戦闘スタイル……ルーフェ師匠の魔法を見る観察眼……。そしてダインスレイブ師匠から教わった剣術!!」
「魔法勝負だというのに、そんなものに頼るなんて見損なったわ!!」
「剣は抜いてない……それに結局これが一番しっくりくるの!!」
「ちっ……このぉ!!調子の乗るなよバレンタインの面汚しのくせに!!」
「それはそっちもでしょうが!!」
私達は魔法をぶつけ合いながらも言葉もぶつけた。
アカツキの気持ちも分からないわけじゃない。
あの子からすれば私は間に入って来た他人……しかもその他人のせいで住む場所を奪われて、魔王教団に入らざるを得なかった。
あの薬を投与されて剣を扱えるようになり、おそらく魔力も彼女の年齢に相応しくないほど膨大なものだ。
肉体は大人でも魔力を溜めておくための器は年相応のはず……。
それに無理やり魔力を注がれ続けている。
使っても使っても溢れる魔力……溢れても掬い、また注ぐ。
常に魔力を身体に供給し続ける事で今の私の魔力の倍を実現している。
だけどそれは自殺行為でもある。
常に身体の限界を超える魔力を体内に宿し、消費しているけどおそらく本人は苦しいはず。
アカツキは表情に出していないけど、とても辛そうでこっちが悲しい気持ちになってくる。
だからせめてこれで終わらせて上げたい。
この子が誰の子だろうと……邪魔をするなら倒す!!
そんな供給され続ける魔力を凄まじい勢いで消費しているアカツキは遂に魔法の障壁を長く維持できなくなる。
魔法と魔法の間にできた隙を見逃さずにそこへ地面に落ちている月魔法を操り、アカツキを斬りつけた!!
魔力を切る月魔法で供給され続ける魔力の流れを断ち切り、一気に魔力差を埋めた。
これでアカツキの魔力は9歳児同様……ここまで来たら勝てる!!
そう確信して爆炎を纏った拳をアカツキにぶつけようとしたその時だった。
ドンッ!!
「うぐっ⁉」
気づいたら私はギルドの扉の方まで吹き飛ばされていた。
何が起きたのか訳が分からず混乱しているとアカツキは先程の苦しい表情が消えて、むしろ清々しい顔をしていた。
「ありがとう義姉上……。無駄に供給される魔力を絶ってくれて……おかげで今、凄く調子がいいの!!」
魔力差を埋めるためにやったことがアカツキの調子を取り戻す結果になってしまう。
アカツキとの戦いは最終段階へ突入する。