第343話 メイビス
お城へ向かおうとしたら、ギルドのある場所でアカツキとの遭遇してしまう。
こいつはあの時のルーフェ師匠と対等に渡り合った実力者。
あの時はルーフェ師匠が大地の魔力を戻すために魔力の半分を使っていて満足に魔法を使えなかったせいで捕まえる事が出来ず、怪我まで負ってしまった。
足の怪我さえなければルーンを相手にしても逃げることくらいはできたはずなのに……。
いまさらそのことを嘆いてもしかない……。
それにルミナが裏切ったことで聖獣が敵になるという悪循環は続き、最悪な事が重なったことで苦戦を強いられていた。
多分本来のルーフェ師匠なら余裕を持って倒せていた相手かもしれない。
あの膨大な魔力を持ったルーフェ師匠が居た場合のみ安全に戦えるアカツキを私なんかが倒せるのかな……。
私はミツキ達の前に立ち、アカツキと対峙する。
ミツキもアカツキの存在に気づくと、驚いた様子で叫ぶ。
「あれは……アカツキ殿⁉見た目が随分変わったけど、あの魔力と顔はまさしくアカツキ殿……」
「ミツキはアカツキを知ってるんだね?」
「まあ……本当に幼い頃にライバル視してた人よ」
「……ライバル?」
「分かってるわよ……私なんかが適う相手じゃないってことくらい」
別にそういう事を言ってるわけじゃないんだけど……。
確かによく見てみると見た目は私達よりも大人びているけど、そこまで歳は離れているとは思えない。
もしかしたら歳は近いのかな。
そんなことを考えている中、アカツキはずっと私の事を睨みつけていた。
あの時はルーフェに戦ってもらったんだけど、今回はもう居ない。邪魔する者が居ないからかそれとも何か私に思う事でもあるのか。
まあどちらにしても戦わなきゃいけない相手だし、私は炎帝刀を取り出して構える。
相手はここに単身で乗り込んできたのか一人だけ、それに対して今ここにはミツキ率いる軍が集まっている。
私一人では敵わなくてもこの数ならきっと勝てるはずだ!!
しかも先ほどの炎の魔法で周りに居た魔王教団を薬から解放した。
本当は街全体を炎で覆いたかったんだけどアカツキに邪魔されて、もう少しでこの街全体を炎で覆えたのに……。
それさえ使えていれば魔王教団の戦力を9割は削る事が出来た。
まあそれもこのアカツキをここに居る仲間達で倒せば作戦を実行できる!!
「ミツキ!前にみたいに手伝って――」
「それはダメよ。ルーク=バレンタイン」
「え……?」
アカツキが私の言葉を遮ったその瞬間、指をパチンっと鳴らす。
するとその音に呼応うしてアカツキが連れてきた魔王教団の人達がワラワラと囲むように出てきた。
いつの間にか囲まれていたみたい……だけど一部私の炎を食らっていた人も居るのか火傷を負ってる。
だけど少し妙ね……。
「お前のでたらめな炎のおかげで戦力を削られてしまった」
「なんで私の炎を受けて、私達と敵対しているの!?」
「それはこいつらは薬の影響を受けていないからだ。見てみろ……お前も良く知る顔だろ?」
「え……あっ!?」
よく見てみるとそれは学校に編入してきた過激派の魔導騎士達だった。
やっぱり過激派は魔王教団と繋がっていたのね。
これじゃあ後から出てきた時をミツキ達に任せて、私一人でアカツキの相手をしなきゃいけないかも……。
というかアカツキはそれを望んでいる様子だ。
あんな人……私は知らないけど、売られた戦いは買うしかないみたい。
ミツキ達は迫りくる魔導騎士を相手にしてくれている。
「この雑魚共を倒せばアカツキ様がルークを倒して、後は好き放題にして良いんだよなぁ!?」
「サツキにやられた恨みをあの女で晴らさないと気が済まない……!!そこをどけ雑魚共が!!」
雑魚共とはおそらくミツキ達の事を言っているんだろう。
人を見下す態度は相変わらず変わっていないみたいだけど、そんな奴らにミツキが負けるとは思えない。
問題があるとすれば、ここにルーンもいるということ。
ずっと何か言いたそうにしていて、でも話すことが出来ず後ろで見守っていた。
ルーンも戦えるみたいだけど、この中の誰よりも弱いはず、ミツキ達に負担を強いる事になってしまうけど、ここは任せるしかないだろう。
まずは恐らくこの場で一番強くて私と戦いたがっている彼女を何とかしないと……。
「あなたね……!」
「ようやくこの時が来た……私も本来の魔法でお前を相手してあげるわ!!」
ルーフェとの戦いで本来の魔法を使っていなかったというの!?
ダメだ……気を落としては……あの人の意思を継ぐためにもここで終わるわけにはいかないんだから!!
まずは一撃……渾身の魔力を込めて……!!
「フェニックス――」
「……フレア」
「え!?」
私と同じ炎をアカツキは放つ。
2つの炎がぶつかり合う……。
そういえばさっきも同じことをしていた気がする。
ここまで私はあまり深く考えず彼女を見てきた。
赤い髪はこの世界ではそこまで特徴があるわけじゃない……どこにでもいる。
けれど、このアカツキの赤い髪だけは他とは違う特別なモノを感じていた。
私と同じ……いや、母上と同じ赤い髪……。
そして先ほどの魔法は確かに「不死鳥の炎」これはまさか……。
考えたくないある答えが私の脳裏に過る。
確か母上はお腹の中に1人の子を宿したまま亡くなったと聞かされていた。
てっきり一緒に死んでしまったと思っていたんだけど……まだ1人だけ本来の血を引く子が残っている……。
いや……だけどそれには1つ矛盾が生じる。
それはアカツキは私よりも年上ということ。
年齢はまだ分からないけど私よりは身体が作られているし、何より大人びた性格をしている。
とてもじゃないけど私の妹になるはずだった子とは思えない。
それに……剣だって持っている。
バレンタインは魔導士の家系だから剣は必要ない……だけどもし、使えるとしたら……。
その瞬間さらに嫌な考えが頭の中を巡る。
あの薬はたまに人の身体にも影響を及ぼす。
アカツキと戦ったあの山で私達の前に立ち塞がった女性は男性のような身体付きをしていた。
しかしそれはまるで外付けしたような異様な様子。
その影響を受けているのだとしたら……。
その時、迫りくる魔導騎士達から防御魔法で身を守っていたルーンが珍しく声を荒げた。
「お姉様……その方は……メイビス=バレンタイン!!ルークお姉様の妹です……!!」




