第341話 抵抗
強力な雷を受けて、動けなくなったヘラクレスは地面に倒れていた。
意識はまだあるが、身体を動かせようと、無理やり力を込めます。
しかし雷の痺れは常にヘラクレスの身体の中を巡っているため、ショナが離れない限り動けるようにはならないでしょう。
肌は頑丈になりましたが、中身が人間と同等のもので雷に耐えうることはできませんでした。
痺れているのにも関わらず口だけは何とか動かす。
「お、お前ら……!!如きに……俺が…………⁉」
「はぁ……はぁ……悪いけど、ルークのためにも先に進まないといけないの。殺さないで置いてあげるからそこで眠っていて」
「うぐぐっ………………はっ!?」
悔しそうに歯ぎしりの音を立てるヘラクレスでしたが、次の瞬間――何か良からぬ気配を感じ取りました。
先ほどまでルークの仲間に対しての殺意はどこかへ消えて、恐怖に震える。
まるで怒りの感情を超える何かに脅かされているように……。
するとヘラクレスの身体は黒い光に包まれてしまう。
この場に居る誰もヘラクレスを殺そうという意思を持っていない。つまりこの黒い光は第三者のモノで、ヘラクレスの力を吸い取っています。
「なんだかよく分からないけれど……もしかして消えるの?」
「くうっ……待ってくださいムーン様!!俺はまだ戦える!!力をもっと俺に力を…………」
「……どうやらその声は届いていないみたいね。それか無視されているみたいね……むしろ力を吸い取られているように見えるわよ」
「くそ……後少しでアイツを殺して、俺がバレンタインを継ぐ正統な当主になれたのに……!!」
「まだそんなことを……。私のホワイト家も無くなった。もうそんな家柄に力なんて無いわよ」
「お前は欲しくないのか、圧倒的な権力と何者も退けるパワーを……!!」
それはフーリアが誰よりも欲した物で、いつか手に入れるため、ここまでルークと冒険してきました。
しかし、フーリアにはそんな力よりももっと自分に必要なモノを手に入れています。
それに既に気づいているからこそ、ヘラクレスの哀れな姿を見て悲しむ。
憐れみはルークを敵として認識し、敵対することでこんな結果になったこと。
何より最後の最後までそのルークに恨みの炎を燃やしていた様子を見て、何とも言えない気持ちになっていた。
普段なら怒りを露わにするところをフーリアは優しく応えた。
「無いわ。ここに居る仲間とルークが居れば……権力とか圧倒的な何者も寄せ付けない力よりもこっちの方が良いって気づいたの」
「お、お前がそんなことを言うなんて……。あれだけ苦しめて、ひねくれ者にしてやったのに……クククッ」
「何を言おうとも変わらないわよ」
「それなら行けばいい……だが、絶対にムーン様には勝てぬ……あの方には邪獣ルミナ様が付いているのだからなァ!!」
そう高らかに笑いながらヘラクレスの身体は消滅してしまった。
フーリア達は今までの事、そしてヘラクレスが言っていたことを思い出し、力をムーンに奪われたと想定する。
ヘラクレスのあの力がムーンに渡っていたら、相当厄介な相手になるだろう。
しかしそれでもショナの雷は相手の硬さに関係なく内部から破壊できる。
「あの力を使われてもショナと皆が居れば大丈夫ね」
「……何というかフーリアって最初の時と全然違うよね」
「な、なによ急に……」
「もう権力とか力に固執していないのは分かってたけど、私達の事まで大切な仲間だと思って一緒に居たいなんて言うとは思わなかったから」
「は?何?じゃあもう二度と言わないわよ。私らしくないんならねっ!!」
「それは後でルークにも聞かせてやって欲しいけどなぁ。これからどうする?」
「どういう事?」
これから学校の内部に突撃しようとしていたフーリアですが、先ほどのヘラクレスとの会話をショナは思い出して立ち止まる。
”ルークはどこにいる”
まるでルークの居場所を知らない言い方から、おそらくここにルークが居ない事を察する。
「じゃあどうすんのよ」
「そもそも、なんだかおかしくない?ムーンの居る場所にタイヨウ様が向かったのにまるでここには居ないみたい」
「……中に入ったんじゃないの?」
「それなら戦闘に入ってるはず、あの人の魔力は剣士でも分かるほど濃くて膨大だもん」
「じゃあ一体どこにいるってのよ」
「確かタイヨウ様の魔法はあの方を中心に発動する強化魔法。そしてこのルエリアを覆っている」
「中央……?はっ!!まさかルエリア王城⁉」
フーリアがその名前を叫んだその瞬間――ルエリア王城から耳を覆う程の爆発音が響き渡る。
そこからはタイヨウのような真っ赤な魔力と白い輝きを纏う魔力がぶつかり合っていました。




