第340話 勝利の剣
ユウリは魔法を使ってヘラクレスを吹き飛ばすと豪語しますが、ユウリ自信が溜められる魔力では不可能でしょう。
大地の魔力をルーフェに近いレベルで扱う事も出来ますが、この街の魔力はヘラクレスの影響か淀んでいるので使えない。
しかし無い魔力を引き出す手段……ユウリはそれを持っていました。身体と寿命を消費することで本来は扱えない魔力を一時的に使う。
ただしこれほどの相手を一撃で吹き飛ばすにはユウリのこれからの未来を魔力に変換しなくてはいけません。
それをショナはやめるように叫びます――しかし今にも押しつぶされそうな親友を前にユウリは聞いてくれるはずもありません。
自分が命を使う事で皆を救う事が出来て、このヘラクレスを倒すことができるのなら喜んでそれが出来てしまう。
それほどまでに仲間が……いいえ、ショナを助ける事が出来るのなら本望だと考えているのでした。
ショナはダインスレイブと同じ、権力者によって苦しめられた経験があり、それを知っていたユウリは他人事だと思えず、彼女の事を気にかけて想っていた。
同じような力を持った人に脅かされたショナを気にかけてここまで付いてきた事でショナは昔の元気を取り戻す。
最初に会った時の彼女の暗い顔を思い出し、もうそんなショナを苦しめたくないという想いが命を捨てる覚悟を持たせる。
「超絶創造魔法……ウラノ――」
ユウリの目が光輝き、自分の全てを魔力に変換する……その瞬間……。
「だめえええええええええええぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええ!!」
ユウリが全ての寿命を使おうとした時、ショナの雷の如き叫び声がこのルエリア王国に轟き渡る。
するとショナの身体は雷を纏い、剣が白い輝きを放ち始めました。
ショナの頭の中に剣の精霊が語り掛ける。
(ショナよ。その強い想いを俺は待って居た……やはり資質があるな)
どからともなくそんな一言を告げるとショナの雷の剣が形を変えて、龍のような刀身に成る。
ショナは漲るその力を感じていますが、それよりもユウリに魔法を使わせたくない。そんな強い想いが彼女を無我夢中にさせます。
「真に轟け!!嚇雷剣ライリュウ!!!!」
遂にショナの持つ剣の真の名前を叫ぶとヘラクレスの巨体が雷によって撃たれる。
目覚めた嚇雷剣でもショナ1人では抑える事ができません。
しかし他にもヘラクレスを抑えているのは神秘剣と水神刀を持つ2人、マツバも魔導騎士として、そしてユウリを想う気持ちを魔力に込める。
その想いの力が本来の実力以上の力を発揮する。
「うぐっ馬鹿な⁉この俺様が押されている……⁉」
ドガガガガーンッ
赤い雷が絶え間なくヘラクレスを襲い、3人の剣が押さえつけてきます。抵抗できず、鋼の肌を雷が貫通……。
ヘラクレスの身体を貫く雷は穴をあける事は出来ませんが、流れた雷は鋼の鎧に纏わりつき、離れない。
そして雷は鎧の中を巡り、身体の組織を破壊していく。
いくら肌が鋼の鎧を纏おうとも生物の身体であることに変わりはありません。
傷はつかなくとも、内部から徐々に破壊されていく感覚をヘラクレスは感じ、恐怖していた。
このままでは死ぬ――。
鎧は確かに頑丈ですが、内側は人と同じ。
内蔵を鍛えられる生物が居ないようにいくら異質な生物に変化しようともそこは変わりませんでした。
そのため、常に雷の攻撃を受け続けると動けなくなる。
「この……小娘が!!とっとと諦めろォ!!」
「やだ!!私ががんばらないとユウリが死んじゃうから……あの子が居なくなるのが一番、嫌だあああああああああああっ!!!!」
ショナは涙を流しながら剣を手から血が出るまで強く握りしめていました。
それを見ていたユウリは瞳に涙を浮かべる。
「ショナ……」
ショナの予想していなかった言葉にユウリの視界が滲む。
自分が居なくてもルーク達が居ればショナは寂しくない。そう思っていたからこそ、この命を投げ打ってでも同じ権力者が起こした彼女への罪を背負おうとした。
しかしそれをショナに否定された気がした。
(私もショナの大切な仲間なんだ……)
そんなことを頭の中で響かせるとユウリの身体も自然と熱く高ぶる。
今戦っているのは自分以外の4人。
ユウリは魔体症を理由に戦闘に参加出来ていませんでしたが、そんな現状に不安を覚えた。
これだけ自分のことを大切に想ってくれている親友にだけ戦わせる。
それはプライドが許さなかった。
そうしている間にもヘラクレスは次の一手を打つ。
「こうなったら……!!女神剣――」
「げっ……ここでそれ!?」
雷は確かにヘラクレスを徐々に弱らせています。
しかしまだ足りない。
まだもう少し雷に当てていないとヘラクレスを倒すことが出来ません。
それをわかっていたから時間を稼いでいたのにここでヘラクレスは最終奥義を切る。
この状態でそんなものを喰らえばショナだけじゃなくて、攻撃を受け止めているサツキ達……全員が死ぬ。
分かっていてももう時間がなかった。
「俺はアイツを殺す……!!ここでお前らごときに終わらされてたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!!女神剣ヘラグ――」
ヘラクレスが女神剣を発動しようとしたその時でした。
ドゴォーンッ!!
「ウガァツ⁉」
学校よりも大きなヘラクレスの身体にそれに匹敵する程の巨大な建造物がぶつかる。
なんと学校の体育館がなんの前触れもなく、ヘラクレスの方へ飛んできました。
詠唱を中断されたヘラクレスの攻撃は不発。
それを見たショナは後ろを振り返り、少女の安否を気に掛ける。
「まさかこれ……!!」
「うっ……は、早くソイツを倒してショナ!!じゃないと私、全寿命を使うことになるわよ!?」
「なっ……ってじゃあまだ使ってないんだね!!」
「ええ!!……だから……はやく……!!」
「それなら応えないとね……力を貸して嚇雷剣……雷神の一撃!!」
ショナは叫ぶ。
それはもうルエリア中に響き渡るような雷の轟音ごとく……。
大切な友を殺させないために、今出せる全身全霊を持って、目の前の男を倒す。
そのあまりの雷の一撃にヘラクレスの身体は痺れて、麻酔を受けたようにぐったりと地面に落ちる。
意識もあるし、生きているけど、身体が動かなくなってしまった。
学校を守る門番はその巨体ごと地面に蹲る。
ヘラクレスはルークと戦う事も無く、破れたのだったその友の想いの力によって。