第337話 認める力
ルークが姿を消してから1時間以上が経過した頃、ようやくルエリアの城壁を突破したフーリア達はエステリアの街へ流れ込んでいく。
街の中はさらに敵が多く、街の家々の陰に隠れていた一般人が形相を変えて襲い掛かってくる。
もはや人とは思えないほど狂暴化していて、仲には魔物のように唸りながらフーリア達に襲い掛かる者も居ました。
その光景を見ていたサツキはサジタリオンの死を惜しむ暇も無く、手助けに向かって戦闘する。
魔導騎士であるサツキなら魔導騎士化した一般市民相手でも比較的簡単に倒すことが出来た。
だからこそ余裕を持って魔導騎士化した人達を見てある事に気づく。
「もしかしてこれ、魔物の魂を人に憑依させてるんじゃ……」
「そんなことまでできるの……?」
「さぁ……でもムーンならやりそうかも」
「結構陰湿だもんね。あの女」
これまでムーンに嫌がらせばかり受けていたフーリア達はムーンならこれくらいはやるという確信を持っていました。
今まででも最悪な作戦を何度も見てきましたが、これもさらにフーリア達に不快な気持ちを植え付ける。
しかし彼女達はそれに億すことなく、エステリアの街を駆け巡る。
はやくルークを助けなければいけない。
そんな想いが彼女達を突き動かした――その時でした。
ギラーンッと空に浮かぶ太陽の光が突然強くなる。
エステリアの街に太陽の魔力が降り注ぎます。
「これはタイヨウ様の魔法!!」
「え……ルークはまだ助けられてないよ!?」
「おそらく、今展開しなければいけない理由が出来たのかもしれない」
「ど、どどどどどどうしよう!?確かタイムリミットがあったよね!?」
「タイヨウ様は偉大な魔導士でもある……一日二日、この膨大な魔力を維持することは可能だけど、もし誰かと戦っているのなら……あまり長い時間持たないかもな。ルークを助ける必要がある!!」
たった数時間で世界の命運が決まる。
長いようで短いタイムリミットが迫る……。
まずフーリア達はギルドの方まで急いで向かう。
ここにもルークが居ないか家の中を散策しますが、当然そこに居るはずもありません。
ちなみに今、ダインスレイブとの戦いを終えて沼地から出たばかりでした。
そんな未だに合流できない状況が続く中、ギルドには今まで以上の強敵が現れます。
それはギルドのA級冒険者や学校の生徒……彼らがフーリア達の前に立ち塞がる。
「あの人は……沼地で一緒に戦った人ね」
「……ここは私達アマノハーベスト連合に任せて、あなた達はルークを助けに行きなさい!」
「ミツキ……俺が言うのも変かもしれないがいいのか?」
「こんな状況だし……それに色々と申し訳ないとは思ってるのよ」
ミツキはルークにきつい口調で対峙していましたが、それは彼女の本心ではなかった。
ただ、自分よりも優秀な炎の魔法使いでサツキが気になっている女の子だからこそ、敵対心が湧いて素直になれない。
しかしミツキ自信はルークを既に認めていた。
隣で自分の炎を覆う程の炎魔法を使い、同時に発動した女神魔法で大きな怪物を倒す事が出来た。
あの瞬間から……ミツキは感動さえ覚えていました。
これほどの炎を使える魔導士がタイヨウ様、以外にいるのかと。
ミツキはあの頃からルークを認めて、頼りにしていた。
素直になれなかったのはサツキの事があったから。
「でもそれは諦める。だからサツキ……ルークの下に行ってあげて」
「わ、分かった。ミツキも死ぬんじゃないぞ!」
「うんっ!!」
ミツキは身体に炎を纏う。
ルークと同じ魔法は使えないけど、それでも彼女に似た魔法を使う事でサツキのその言葉に応えた。
そのやる気を見たサツキは振り返ることなく、次にルークが居そうな場所――学校へ向かう。
ギルドから学校までは遠くない、走ればすぐに着きますが、そこでフーリアはあまり面白くなかったのか悪態を付く。
「言っておくけど、ルークは渡さないから」
「……フーリアにも認めてもらえるように頑張るよ」
「ちょっと!!ぶち殺すわよ!?」
移動中に早くも殺し合いが発展しそうになりましたが、何とかフーリアは耐えました。
フーリアは冗談半分でこの戦いが終わったら……その後でサツキを始末しようと恐ろしい事を考えています。
移動はルーク抜きでのいつもの5人、もう付いて来てくれている味方の兵士たちは居ない。
いつものメンバーで学校に向かう。
その道中、ユウリは空を見上げて、降り注ぐ魔力を称賛する。
「それにしても凄い魔力……暑い」
「タイヨウ様の魔法だっけ?確かに……凄いね」
「……だけど自然と不愉快じゃない……」
「汗かくほど暑いのに汗が出ないから、とっても不思議な魔法っ!」
汗を掻かない暑い不思議な気候の中、フーリア達は強化魔法を受けたように強化されています。
タイヨウの魔法の効力でルークの炎を高める以外にも全体強化も持っていました。
この力があればギルドに置いてきた兵士達も負けることは無い。
そんな確信を持っていたその時、学校の前を塞ぐように一人の男が立っていました。
「ここから先へは通さないぞホワイト」
「アンタはバレンタインの……ジー……」
フーリアがその名前を呼ぼうとしたその時、男はフーリアを炎の魔法で焼き尽くす。
突然の事に反応出来なかったフーリアは炎に焼かれる。
「俺のその名で呼ぶな……今の俺はヘラクレス。ここから先はもう通れないと思えガキ共」
タイヨウの魔法で暑くなった気候とは正反対の冷酷な視線がサツキ達を捉えるのだった。




