第336話 サジタリオンとの決着
サジタリオンは魔導騎士の最終手段を使い、サツキ達と最後の戦いに全てを賭ける。
剣と魔力の宿る身体を融合させることで剣と魔法は本来の力を発揮する禁忌。
魔導騎士といえど完璧に使いこなせているわけではなく、剣の精霊と魔力は相性が悪いので同時に使うと本当の力を発揮できない。
しかしそれを可能にする禁忌……剣には精霊が宿っていて、それと同化するので人とは違う存在になってしまう。
サジタリオンは上半身が人間、下半身が馬のあり得ない存在に変わる。
その異様な姿を見たサツキは眉を寄せて、苦痛の声を上げる。
「そこまでしますか……そんな恐ろしい姿になってまで……」
「恐ろしい……か。一応神聖な姿らしいけどね異世界では」
「サジタリウス……人間の体と馬の身体を合わせ持った神獣。確か使う武器は……弓!!」
「……さすが転生者サツキくん、その通りだ!!」
サジタリオンは魔法で弓を作り出し、魔法の弓矢を射る。
元々弓を使う事が無かったサジタリオンでは弓の制度が低く、最初は攻撃を外していた。
しかし徐々に弓の制度が上がって行き――さらに馬の如く疾風の速度で戦場を駆け巡る。
その弓の練度は射る度に上がって行き、威力も馬の速度を上げるとそれに呼応するように高まる。
サツキとマツバは人間では到底再現できない圧倒的な速度を前に成す術がない。
水の牢獄で閉じ込めようとしても躱され、大地を操る魔法で地面を揺らし、動きを鈍くしようとしても地盤が少し緩んだ程度では速度を落とさない。
元々馬術に優れていたサジタリオンにとって、多少不安定な地形での戦いでもあまり関係ない。
「くっ……これじゃあ防戦一方だ!!」
「どうしたサツキくん!その程度であんな啖呵を切ったのかい?」
「俺もそれさえ使えば……」
「……使うのかい?良いと思うけど、人じゃなくなるよ?ルークの事が好きならそれを諦める事になるんじゃないかな?」
サツキはサジタリオンと同じ姿になったことを想像する。
仮にサジタリオンと同じとして、こんな姿になってしまったらルークは自分から離れてしまうんじゃないか。
いや、友達としてそんな薄情な子じゃない事は分かっている。
でもおそらく同じ人間としてはもう見てもらえないだろう。
(あの子が異種族好きの変わり者ならそれもありかもしれないが……)
「って俺は何を考えているんだ!!」
「……相変わらず分かりやすいねサツキくん」
頭を掻きながら勝手に自問しているサツキを呆れた目でサジタリオンは見つめていました。
サツキを殺すつもりで戦っていますが、彼も世界の滅びを知らなければ良識のある人格者でした。
年齢以上の人生経験を積んだルークを騙せた一番の理由はサジタリオン自信、平和を望んでいる人間だったから。
倒さなければいけない相手と分かっていても、それが幼い少女だから少しだけ躊躇いもありました。
そんな心優しいサジタリオンだからこそ目の前の無邪気に頭を掻いて悩む生徒を見て、情が湧く。
だがそれと同時に……もうその気持ちをサジタリオンは心の奥底へ引っ込めてしまう。
「やらないならここで倒すよ。神弓……」
「やばい!サツキ全力で迎え撃て!!」
「分かってるよ!!」
サジタリオンの魔法の弓のサイズがサツキと同じ位の大きさにまで広がり、弓矢もそれと同じように巨大化する。
魔力と剣の力を合わせた最強の技が放たれる。
「これが魔導騎士が使う女神シリーズを超える力……神弓サジタリオン!!」
巨大な光の矢がサツキとマツバを襲います。
2人もまた女神剣を発動させる。
魔法と剣を合わせた人の身で使える最強の技。
しかし女神剣と神弓にはある違いがあります。
それは女神剣が魔法と剣の合わせ技なのに対して、神弓は魔法と剣の融合技。
完全に魔法と剣が混ざった技になっていて、これまでの魔法と剣が喧嘩し合ってしまう現象が無くなる。
結果、女神剣では歯が立たず、二人の同時攻撃は光の矢によっていとも簡単に跳ね返されてしまう。
光の矢に包まれて、二人はその姿を覆われてしまう。
「ごめんねサツキくん、でもこうするしかなかった」
サジタリオンは悲しみと後悔に打ちひしがれながらも前を向くことを決めていた。
それがこんな結果でも……。
しかし彼の戦いはまだ終わっていません。
アクアリオが倒されたことでまだルークの仲間が残っています。それを倒さない限りこの世界の未来は無いでしょう。
ルーク以外には情けを掛けていますが心を鬼にしてフーリア達の前に立ち塞がる。
グサッ――
サジタリオンはフーリア達に襲いかかる直前で血を吐いて、身体がよろめいてしまう。
「うぐ……何……どうしてまだ……生きて、サツキくん……!!」
「直前でマツバの魔法で土の中に隠れました」
「避けられていた……?」
「すみませんサジタリオン様……ルークとその大切な仲間を傷つけることはいくら先生でも許せない……それに本当は気づいていたんじゃないですか?俺達が攻撃を避けていたこと」
「……」
「もう少しまともな方法なら手伝えたのに……」
「僕には……他に方法は無い……と思っている」
「あると思います……少なくとも俺は……」
「可能性なんかに賭けられなかった……だってもし失敗すれば僕の大切な教え子たちが死んでしまうかもしれないんだ……」
「サジタリオン様……!!」
「もちろん君のその一人だ……。だからどうか、その方法とやらを見つけて……ルークちゃんと共に生きなさい。最後の先生からの宿題……です」
サジタリオンは力無くその場に倒れた。
サツキはその光景を見てあることに気が付いた……本当は自分の剣を避けられたんじゃないかと。
マツバの力で攻撃を避けている事に気づいていたけど、見逃してくれたのではないか……と。
今度はその亡骸を見てサツキが苦痛と悲しみの声を上げました。
戦場の中、響き渡るサツキの声は戦火の音とともにかき消される――。




