第334話 サジタリオンの決意
アリスを取り返すためにフーリアは神秘剣を振るう。
フーリアでも一度は気を許した彼女が、その意志に関係なく使われている事に怒りを覚えています。
そんな光景をサジタリオンと戦いながらサツキは眺めていました。
サジタリオンを相手に決して余裕があるはずもありませんが、意外なフーリアの行動に目を奪われています。
「おいサツキ!何をよそ見してやがる!!そっち行ったぞ!!!!」
「おっと⁉」
サジタリオンは馬に乗りながら器用に剣を振るう。
剣は馬の邪魔をせず、馬もまた剣の邪魔をしない完璧な馬術と剣術を組み合わせた戦闘スタイル。
それに油断していたサツキは狙われしまい、間一髪の所でマツバに助けられた。
「何してるんだ!相手はサジタリオン先生……いや、サジタリオンなんだぞ!!」
「すまん、あのフーリアがルーク以外にも慈悲を与えようとするなんて思わなくて……俺も頑張れば……」
「頭どうなってやがる!ルークとイチャイチャしたいとしてもこの戦いに勝てなければ終わりだからな!!」
「なっ……⁉べ、別にそんなこと言ってねーよ!!それに……」
サツキはサジタリオンの足元に手を翳す。
完全に油断しきっていたわけでもなく、ちゃんとサジタリオンを相手にするという事で攻撃を仕掛けていた。
地面に魔法陣を仕掛けていて、魔力を解放することで魔法が発動する。
足元にサツキの魔法が現れた事に気づいたサジタリオンは驚きながら、馬を乗り捨てて回避する。
水の牢獄の中に閉じ込めるシンプルな魔法だけど、いちいち魔法陣を仕掛けて魔力も一度に相当消費してまで使うサツキらしからぬ戦い方。
そのせいで膨大な魔力を一度に使ってしまったが、サジタリオンの馬を奪う事が出来た。
「くっ……君が魔法を巧みに使うとはね。習っていたのは剣術じゃなかったのかい?」
「ルークの戦い方を見て俺もこれくらいはやらないとと思っただけです。まあでも剣術の方が自信があるので、魔力をほぼ使い切りましたけどね」
「あの子がそんな影響を与えるとはね……予想外だった」
水の中に閉じ込められた馬はやがて動かなくなる。
サツキの一切容赦のない魔法にサジタリオンは初めて警戒した。
いつかは自分を超える存在になると思っていたサツキがこうも早く近づいて来ている。
戦い方を教えた師匠として嬉しくもあると同時に憎悪の感情を見せる。
「強くなったのは良い。けれどあの子の影響というのはよくない」
「……聞きそびれていましたが、どうしてルークを狙うんですか?」
「僕じゃなくてムーン様と魔導王様が狙ってるんだけどね?僕はどちらかというと彼女には死んでもらわなければ困ると考えていた」
「今までそんな風には見えませんでしたが……」
「直接何かをされたわけじゃないけど……彼女の事を敵視していた。まあこれでも僕は大人だからね」
「演技が上手いと?」
「うん」
だからこそ今までサツキ達を騙すことが出来た。
完璧な演技で敵意を完全に消し去り、師匠や先生としての姿を崩さない。
サジタリオンはその事をサツキに伝える。
しかしサツキはその言葉を聞いて、疑問を抱いた。
「本当に全部が演技なんですか?」
「そうだよ」
「嘘をつく時にそれを信じ込ませるには真実を織り交ぜたブラフを使うと有効と言うことは知っていますか?」
「……」
「少しくらいはあったんじゃないですか。サジタリオン先生の真実が……!!」
サジタリオンはサツキのそんな言葉に口ごもる。
言い返せないその言葉に否定することができない。
これでもルーク以外の5人には普通に接してきたつもりだった。
ルークに関しては思ってもいないことを口にしていたので誰よりも優しく映っていたかもしれない。
こんな優しい人……他に居ないだろうと。
「どうして裏切ったりなんて……」
「こうするしか世界が助かる方法が無いんだよ」
「世界……魔導王が復活する方が余程危険なはずです!!」
「魔導王様はむしろこの世界に必要なんだよ」
今まで敵としての認識しか持っていなかった魔導王ですが、サジタリオンのその言葉を聞いて揺らいでしまう。
これからその理由を聞くサツキですが、もしその理由でサジタリオンの行いを否定出来ず、賛同してしまったら……。
自分はルークの敵になってしまうかもしれない。
そんな不安が彼の脳裏に過ぎる。
それでもここで何も聞かずにサジタリオンを斬り伏せる事はマツバは許せなかった。
これはサツキが乗り越えなければいけない道……それなら……。
「教えてくださいサジタリオン先生」
「ちょ……!マツバ!」
「戦う理由は人それぞれだろ?悩むなよ男だろ」
「い、一応前世は女の子だって言ってたけどな……」
「今は違うだろ?お前もルークもいい加減のこの世界の人間で俺達の仲間だと理解してくれよ」
「お、俺は別に……」
「転生してるからって心の距離が空いているのは気づいてるし、ルークにだけは心を完全に開ききっているのも分かってる」
「それは……」
「これでも俺はこの世界のサツキの幼馴染の親友だと思ってるんだがな」
それはサツキ自身も想っていました。
しかし心の距離が無いのかと聞かれれば、有った。
どこかこの世界の出来事が夢のようで、前世を知らない人との関わりはまるで夢で出会った人のように掠れて見えていた。
前の世界を知る者同士が出会うとサツキの物語が進む……そんなことを考えていましたが、マツバ達の存在の大きさやサジタリオンの事をその程度の存在とも想っていませんでした。
頭の中で分かっているのに奇妙な矛盾を抱く。
サツキもまたルークのようにこの世界に馴染んできている。
信じるものはルークだけじゃない。隣にいる親友の言葉も信じる。
そして今まで助けてくれたサジタリオンの事も信じたい。
サツキは迷いを捨ててサジタリオンの話に耳を傾ける。
サジタリオンはサツキとマツバを味方に付けるための話をします。




