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第331話 最後の修行


「君に近づくために魔物を放ったのはその復讐を果すため……」


 ダインスレイブの話だとムーンにとってバレンタインの血筋は邪魔だったらしい。


 何でも勇者ルークの血も混ざっているから、純血のバレンタインには細心の注意を払っていた。


 実際、ルークを先祖に持つ人達は名声を手にしていた。


 ハーベストの王だったり、花園の支部のギルドマスターだったり、世界はまだまだ広いからまだ行った事も無い場所に過去のルークが住んでいた場所があり、そこでも名を轟かせているという。


 そこでは一体どうなっているのか分からないけど、私よりも世界の事を知っているムーンが警戒しているのならそれなりの名声を持っているはず。


 この魔導王復活の計画の邪魔になる事を危惧していた。

 

 かといって私を殺すことはできない、魔導王復活に必要みたいだし……どうやら私はムーンに相当嫌われていたみたい。

 

 そしてそれは恐らくダインスレイブも……。

 

「そこまで恨んでいたんですね」

「最初は貴族である君にも猛烈な殺意を持っていたんだよ。これでもね」

「……そうだったんですね」

「でも元々教員だったこともあり、子供に気づかれずに強がったり、我慢したり……得意だったから」

 

 私は自分で言うのもおこがましいけどダインスレイブには愛されていると思っていた。


 魔法を教わっている時の優しい声、私の事を第一に考えてくれている……そんなことを幼い頃に考えていた。


 だからダインスレイブにそんなことを聞かされて内心は困惑している。


 それでも以外と私は冷静に彼の話を聞いていた。


 矛盾しているけど、もうダインスレイブは助からない……だからせめて、皆のために知っている情報を聞き出す!!


 もうこれしかこの人の死を無駄にしない方法が思いつかなかった。

 

 決して彼の事を許したわけじゃない……ただ、話を聞きたいだけ……!!


 そう自分に言い聞かせて、私はあえて冷たく問いかける。


「それで?」

「……本来なら君をムーンに引き渡して、生贄にすれば良かったんだけど……あの時のゴーレムを召喚して、バレンタインから疑いの目を私に向けさせた」

「え……?」

「そうすることで君から距離を取りたかったのかもしれない。一緒に居るとムーンに渡してしまうから……」

「で、でもあなたは世界を元に戻すためと言ってルーフェ師匠を……!!」

「信じてもらえないと思うけどルーフェに関しては殺すつもりは無かった。ただ分からせたかった。私の方が君の師匠にふさわしいとね」


 ムーンの話だとダインスレイブの身体を使ってルーフェを倒したんだっけ。


 嘘と断定するには早計かもしれないけど、結局は私の事を生贄にしようとした。フーリアにも手を出したのは事実だ。


 赦せないはずなのに、それでも彼の心の中では少しだけ私と過ごした日々が残っていた。


 私に魔法と剣を教えている間に教員としての記憶を思い出していき、教える事の楽しさを思い出す。


 それが中途半端に私を裏切り、そして魔王教団をも裏切る結果になってしまった。

 

「中途半端に君を裏切り、君を生徒として愛してしまったのが敗因かな。憎しみに囚われて甘い言葉に流された」

「……」

「その人間の最期がこの様だ……」


 この人にも悲しい過去があって、それをムーンに刺激された事でこんな恐慌に走ってしまった。


 本来は心優しい人なんだと今更ながら私も思い出した。


 ダインスレイブへの怒りは徐々に収まっていくのを感じる。けれど、全部が全部無くなるわけじゃない。


 しかしそんなことを言っている時間も無いダインスレイブは最期の力を振り絞る。

 

「さ、最後に……ムーンは君の魔法炎帝を一部だけ使えるようになっていた」

「え……⁉」

「ルーフェの模倣魔法と同じものだろう。原理は分からないけど魔導騎士(エーテルナイト)の最終手段を使わなくても模倣してしまった」

「最終手段……」


 魔導騎士(エーテルナイト)の最終手段というモノを少し前まで私は知らなかった。


 剣と身体を融合させることで本来は相性の悪い魔力を合わさりできる。


 女神剣や女神魔法と言った剣と魔法を組み合わせた奥義があるんだけど、それを超える最終手段。


「結局のところ魔導騎士(エーテルナイト)でも魔法と剣を完璧に調和させることはできない。だけど最終手段はそれを可能にする。変わりに使用者は人でなくなる。この世界の者ならざる力を得るからね」

「それを師匠は使わなかったんですか……?」

「うん、私には出来なかった。だから最後にそれを伝授する。もしかしたら君にならできるかもしれないからね」


 ダインスレイブのその言葉を聞いて怒りと悲しみが一気に込み上げてくる。

 

 大粒の涙を拭いながら、お腹に刀が刺さっているダインスレイブに怒鳴った。

 

「それなら早く協力してほしかったです……!!」

「君が私より弱ければ殺すつもりだった。そうしないと最悪な結果になっていたからね。だけど君は私を超えた。だから……託したい」


 あの優しい師匠からとは思えない程、無責任なお願いだ。


 だけど彼は幼い頃の私を救ってくれていた。


 本来は嫌だったであろう貴族の子供への教育を我慢してやってくれていたどころか、義母や義姉を抑えてくれていたりもしてくれる。


 そんな必要のない愛情まで向けてくれた。


 一方的に……だからせめて、それだけは返そう……。


「分かりました……教えてください……ダインスレイブ師匠(せんせい)

「ふふ……嬉しいねぇ~…………」


 ダインスレイブは最期に幸せそうな笑顔を浮かべて、私に魔導騎士(エーテルナイト)の最終手段、それの使い方を教えてくれた。

 

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