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第330話 ムーンの接触


 ダインスイレブとの日々は彼を想い、目を閉じるだけで楽しい日々が蘇ってくる。


 転生した時、誰も私の味方してくれる人は居なくて、部屋に閉じこもっていた。


 せっかくの異世界と期待に胸を躍らせて、大切な親友が出来たのに引き離されて……。


 私以外、誰も居ない部屋にはたまにメイドのアナが出入りするか私をいじめる義母と義姉が訪ねて来るくらい。


 いつも通りそれが続いていくと思っていた、でもとある普通の日だと思っていた時、あまり開かれない重い扉が開いた。


 その日から私の世界は魔法と剣という二色の色に染まった。


 少ないかもしれないけど、私にとっては華やかで美しいモノ……。


 それを自分のモノにするため、がむしゃらに学んだ。


 魔法と剣を扱える珍しい体質で他とは違う能力を持っていたから、最悪追い出されたときに1人で生きていけるようにという想いもあった。


 だけど一番は私に知恵を教えてくれたダインスレイブに応えたかった。


 私がここまで実力を伸ばせたのは、引きこもって魔法や剣しか習って来なかったから、そしてダインスレイブが居たからだ。


 ダインスイレブは私の事を分かってくれている――そう思っていたのに私の考えは間違っていたのかな……。


 苦しくて、胸が張り裂けそうになりながら私はダインスレイブのお腹を炎帝刀で突き差していた……。


「ガハッ!?」

 

 全力でやらないと勝てない相手で負けてしまうと世界が魔王教団に支配されてしまう。


 だから全力を出してダインスレイブに応えたかった。


 自分が強くなったこと、裏切られた悲しみ、ルーフェを殺された憎しみ。それでも私の事を気にかけてくれたダインスイレブを本気で殺すことが出来なかった甘さ。


 しかし今、私はダインスレイブのお腹を突き刺している。


 ダインスレイブの魔法と私の魔法がぶつかった時に押し切れると思った。


 それ以上の攻撃を加えてしまうと殺してしまう。


 そんな不安があったから最後の攻撃をギリギリで避けるつもりだった、本当は剣で突き刺すまでするつもりがなかったのに……。


 最後の攻撃をダインスレイブは緩めてしまい、私が辞める前にその勢いのまま……。

 

「どうして……まさかわざと…………!!」

「だって君の勝ちだし、うぐっ……それに私ももうそんなに長くない」

「ど、どういうこと……?」

「おっと……剣を抜かないでくれ、最後に話しておきたいことがある」


 剣はお腹を突き刺している状態。これを抜いたら一瞬で血が溢れて意識を失うかもしれない。


 それでも剣が刺さっている限り即死は免れる……。


 このままでは死んでしまうから治癒魔法を使うと言ってもダインスレイブは治癒を拒絶する。


 治癒魔法を魔力で阻害することで、私の癒しを受けてくれない……。

 

 そんな中、ダインスレイブは息も絶え絶えに話を続けた。

 

「悲しかったんだよこれでも……私以外の師匠を持ったことが」

「だからルーフェ師匠を殺したんですか?」

「私は……殺してないけどね。ムーンに身体を乗っ取られて気づいたら彼女の亡骸が私の足元に転がっていた」


 ダインスレイブは私の後ろの方を指差す。


 そこには安らかに眠っているルーフェが横たわっていた。


「師匠!?」

「一応綺麗に置いておいた。本当は嫌いだけど、君にこれ以上嫌われたくなかったからね」

「どうして……こんなことを……」

「世界を元に戻したかった」

「え……」

「私が魔法も剣も使える普通の人間だったら、人々やルエリア王を恨むこともなかった」


 ――


 時はルークが生まれた頃の話。


 ダインスレイブは言われもない罪で捕まり、牢獄の中で孤独の苦しみを味わっていた。


「なんで私が……なんで私が……なんで私が……」


 大人しく優しいその顔は殴られたり蹴られたりして赤く膨れ上がっていました。


 誰も治療してくれることなく牢獄の中に入れられて、ボソボソとそんな恨み言を並べることしかできません。


 このまま死刑になって殺される。


 ダインスレイブはそんな事を考えながら日々絶望に打ちひしがれていました。


「絶対に許さない……」


 しかし、まだ彼の心には野心が残っていました。


 諦めていた。もう楽になりたい。だけどこんな牢獄の中で過ごすなんて嫌だ。


 そんな感情の中に生まれた憎悪は日が増す毎に大きくなっていきました。


 そんな暗闇の洞窟に一筋の優しい月のような光が差し込み、違和感を覚えた次の瞬間――どこからともなくムーンが現れたのです。


「君は冤罪で捕まったのでしょう?助けてあげましょう」

「誰だ?」

「おやおや?お優しい教師だと聞いていましたが、般若のような怖い顔に高圧的な態度……ふふ、素敵」

「お前……魔導騎士(エーテルナイト)だな?」

「分かるんですか」

「私が殺したい者達を見間違えるわけが無い!!」

「そうですか?せっかくあなたの喜ぶ話を持ってきたんですが――あなたに冤罪を吹っかけた愚か者は……殺しましたよ」

「は……?」

「レオの名を与えてあげたのに図に乗った愚か者でした」

「なんの話しをしている……?」

「……というわけで、仲間を補充するためにあなたを勧誘しに来たんです」


 ダインスレイブは急にそんなことを言われて頭がパニック状態になっていました。


 それもそのはずです。目の前には大っ嫌いな魔導騎士(エーテルナイト)、しかしその人は自分を陥れた者を殺し、自分を仲間に引き入れたいという。


 さらに条件として冤罪を晴らしてくれると言ってくれました。


 魅力的なお話ですが、ダインスレイブには引っかかる事が2点ありました。


「私は4年この牢獄にいる。今更冤罪だと言われても世間は納得するのか?」

「証拠が無いので納得しない方は居ますね。しかし、私は魔導騎士(エーテルナイト)なのでその一切を黙らせられる。それにこの国のおバカな王子とは繋がっていまして、まあなんとかなるでしょう」

「……」

「で、まだ何か気になることが?」

「……どうして私を?」

「欲しかったのですよ。そろそろ誕生すると思われる子供の教育が出来る者を」

 

 それがダインスレイブがルークの師匠に選ばれたきっかけでした。

 

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