第325話 太陽の怒り
ハーベスト帝国のダリアの街からギルドマスターキキョウの運転でジャスミンの街に数十分で着いた。
一瞬だけ怒りや悲しい気持ちを忘れてしまいそうになる程、彼女の運転は荒々しくて、何度も吐きそうになる。
身体は休めと言っているけど……早くタイヨウ達に会って話を聞きたいという想いが強く、休む暇を取らない。
休むことなく一直線で花園の支部まで急いだ。
ジャスミンの街では戦争で疲弊した連合軍が集まっていた。
見た感じ、惨敗……まだ街の医療機関には重症の兵士が沢山いるとか。
しかし、二国連合軍でここまでやられてしまうなんて……ムーンから話を聞いたけど、他に何かあったのかな。
戦いの様子はルーフェのしか知らないからね。
タイヨウ達がここまで追い詰められるなんて……。
私達がジャスミンの街に着いたことを知り、いち早く紅蓮が駆けつけてくれた。
ギルド花園の中で再会した彼は酷く落ち込んでいる。
その表情は曇っていて、ムーンのあの話が本当だと確信させるものだった。
紅蓮が申し訳なさそうな表情で私に近づいて来て口を開ける。
しかし私は首を横に振って制した。
理由はその話はもう知っているから、それに離したくないだろうし……。
私はルーフェの話をムーンから聞いたことを紅蓮に伝えた。
すると紅蓮は悔しそうに唇を嚙む。
彼がどういう想いなのか、想像も付かないけど……悔しい気持ちは分かる。
ここまでがムーンの予想通りでこうなるようにわざわざ思念体を飛ばして私達に話をしたんだ。
だけどそんな性格の悪いムーンの策略略になんか乗ってやるものか!!
「ムーンを倒しに行きましょう……!!」
「正気か……?ルーフェが敵わなかったんだぞ……お、俺が他の奴と戦っていなければ……!!」
確かヘラクレスと戦っていたんだっけ。
魔王教団幹部の1人……そして私の叔父に当たる人。
そんな相手に紅蓮はどうして苦戦したのか……それは至極単純な話。
相手がジーク=バレンタインだから……。
私はおそらくバレンタインの血筋じゃない。もしかしたらジークが正当な血筋だったのかもね。
だけどどこからともなく現れた私がジークが扱えなかった「不死鳥の炎」をマスターしたことで状況が変わってしまった。
バレンタインの当主になれないと悟ったジークは魔王教団に入り、ヘラクレスと名乗るようになった。
「不死鳥の炎」を使いこなせていないけど、彼もまたバレンタインだ。
炎への耐性は他の人間や炎に強い魔物よりも高いかもしれない。
紅蓮の剣は炎属性だからまともに攻撃してもダメージが通らないんだろう。
ヘラクレスがバレンタインだと伝えると紅蓮は悔しそうに床を蹴る。
「そういうことか……!!あれは俺とルーフェを2人で戦わせないための時間稼ぎ、ムーン単体なら俺とルーフェが組めば倒せたから!!」
私達の前に現れたムーンはこちらの嫌がる作戦を取る。
少なくともこちらが有利になる状況は作らないはず。
最初から狙いはルーフェだったわけだ。
「師匠の仇は討ちます……!!」
「しかし、俺とルーフェが手を組んで倒せるって相手だぞ?もうアイツは……」
「ここに居ます」
「え……?」
「ルーフェ師匠の意思を継ぐ私が紅蓮さんの隣に立ってムーンと戦います!!」
ルーフェが最後までムーンの魔法を教えようとしてくれていたのは、きっとこのためだ。
私がムーンを倒せるように紅蓮に伝えようとしてくれた。
身体が真っ二つになっても意識を保つほどの強い意志。
その瞬間を見たわけじゃないけど、想像するだけで悔しくて怒りが込み上げてくる。
これをムーンにぶつけて倒す……それが師匠への弔いだ。
そこへ大きなお腹を揺らして私を押しのけるようにユウリが肌を寄せてくる。
「と、この子は1人でルーフェさんの代わりになろうとしていますが……。それは無理なのでこのスイレンと……」
「このサツキ、マツバの5人も合わせてルーフェさんの代わりをしますよ」
まるで示し合わせたかのように話に入ってくるユウリとサツキ。
こうなることが分かっていたみたい……なんだか私はずっとこの子達の面倒を見てきたはずなのに……。
いつの間にか私も皆に面倒を見てもらっていたのかもしれない。
そんな私達の強い意志を聞いた紅蓮は意外にもあまり乗り気でないように見えた。
「そ、そうか……しかし……」
「え……まさか自分一人でやるとか言いませんよね?」
「そうじゃなくて、ルーフェの代わりなんて思ってない」
「あっ……」
「アイツの代わりじゃなくてアイツの意思が俺と共に戦ってくれるんだろ?」
「……はい!!」
「それならいい……よし、これから作戦会議だ!!」
いつもはクールな紅蓮のそんな言葉に目頭が熱くなるのを感じた。
彼もまたルーフェを想っていた1人。私とは違う感情だろうけど、その想いは似ているんだ。
そんな私達の意思が1つになろうとしていた時だった。
ギルドの中に物凄い形相と魔力を放つ般若のような人間が入ってくる。
「その事なんだが、俺にも考えがある」
「タイヨウ様……!!」
ここの誰よりも怒りを露わにしていたのは私や紅蓮ではなく、この世界で最強と呼ばれている男……タイヨウだった。




