第322話 ライバルの死
ダインスレイブはムーンに身体を乗っ取られたせいで無理矢理ルーフェとのタイマン勝負から除外されてしまう。
ルーフェ対ダインスレイブの時は、ルーフェが一枚上手だった。
後一歩でダインスレイブを倒し、無力化することができたのにそうはさせまいと妨害してくる。
追い詰めたのにまた振出しに戻ってしまいます。
邪魔をされて師匠同士の決着を付けられなかった挙句、1人でムーンを相手取る。
身体はダインスレイブのものなのに魔法や魔力はムーンのもの。
ムーンを相手にルーフェ一人ではどう足掻いても勝てないでしょう。
それを理解しているルーフェはどうにかして隙を作ろうとする。
紅蓮に合流できればまだチャンスはあるから……。
しかしムーンはルーフェにそんな隙を与えないために瞬時に魔法を展開する。
月の形を模した魔力の塊を放つ。
先ほどのダインの魔法とは比べ物にならない程、魔力の威力が上がっていた。
さらに使う魔法の種類も変わりルーフェは常に後手に回る。
「あれ?魔法の腕は君の方が上のはずだが……鈍ったかルーフェ」
「……どうもその魔法、模倣しているのに全然その魔法が使えないから驚いて……ね」
「模倣を試みていたせいか、私の月魔法は固有魔法なので、どうやら固有魔法のコピーは人間を辞めても1つが限界のようですね」
ルーフェの戦い方を熟知しているムーンは相手の有利な状況には持って行かない。
模倣魔法で自身の魔法を真似させず、唯一警戒するべき炎帝魔法のみに注意を払う。
ルーフェはムーンの事は知っていましたが、どんな魔法を使い、どんな戦い方をするのか知らなかった。
頭の中で思考を巡らせる。
(まさかこのボクに模倣できない魔法がまだあるなんて……)
ルーフェは珍しく弱気な事を考えていた。
「ゼウスと一体化した割に全ての魔法を使えるわけではないのね?」
「君のその月の魔法?本当によく分からない……」
「なるほどもしかしたら固有魔法は1つだけとは限らないのかもしれませんね。ひとつしか使えないと早計な判断は命取り……。しかし、模倣には”理解”も必要。私はまだ魔導騎士の奥手を使ったことが無いので、分かりませんが面白い内容ですね」
「分析なんて……余裕だね?ムカついてきたよボク」
ここでルーフェは一手を投じる。
「そんな余裕綽々な君にプレゼントだ!!」
「ん?」
ルーフェはムーンの魔法の概要を掴むために様子を見ていたが、それを辞めた。
自分の使える手札のみを使った戦術に切り替える。
「荒れろ新樹のウネリ!!」
「植物を操る魔法……それも規模は常識外れ……!!」
ルーフェの魔法は沼地の4分の1を覆う程の大規模なモノ。
これはユウリの魔法で植物の根を操って相手を叩き潰す強力な魔法。
ムーンはその攻撃を避けたり、剣で切り裂いたりすることで一切寄せ付けない。
魔体症で余分に多くの魔力を使うユウリの魔法に匹敵する威力なのにも関わらず、ムーンは簡単に裁いてしまう。
それに意気揚々と勝ち誇った声をあげる。
「こんなものか最強の魔導士!!」
「借りるよボクの愛弟子の魔法……炎帝ッ!!」
「二つ同時の模倣……!!くッ!?」
植物は炎を纏い、大きく燃え上がる。
植物を避ける際に一瞬だけ足が地面を離れた瞬間を狙った的確なタイミングでの炎はムーンを捉えた。
炎に包まれるムーンは身体に魔力を纏う事で炎に焼かれるのを防ぐ。
ムーンの魔力は量ならルーフェに勝てますが、質はルーフェに劣る。
1個ずつの魔法は初めて使うものでも完璧に扱える。
タカが魔力を周囲に纏うだけで炎の中でも生きられる。
簡単なようで並大抵の魔導士は不可能な芸当を簡単にやってのける。
大規模の魔法にルークの固有魔法と一度に大量の魔力を消費する。
その攻撃を簡単に防いだムーンは不敵な笑みを浮かべる。
しかしそこまではルーフェの予想通りだった。
用意していた本命をここでムーンへぶつける!!
「超絶空間凍結魔法……!!」
「植物に炎に……氷の魔法……⁉この状態でまだ魔法を使えるのか!?」
大規模な魔法を使っている状態で禁忌魔法も追加で使用する。
それにはさすがのムーンも焦りを覚えていた。
確かに本来であればルーフェはムーンに勝てない。
しかし、それは人であった時のルーフェに限る。
炎帝に焼かれた植物はその炎の治癒によって再生、魔力を注ぐことで炎は常に燃え続ける。
その中に閉じめるように氷の牢獄がムーンを覆う。
氷は炎にで溶けることなく、逆に癒しの力で時間がたつ毎に強固なものになっていく。
魔力で身体を覆う事で炎を凌ぐことができるが、それには限界があります。
有限の魔力が無くなればムーンはやがて焼かれて灰になる。
さらに氷の牢獄のせいで外へ避難もできない。
氷なのに中の炎では溶けず、竈状態。
それにはムーンも驚いていた。
「えぐいわね……まあいいわ。この身体はダインスレイブのモノ……私の本体はエステリアにあるの」
「思念体を使ってダインスレイブを……ならとっとと消えろよ!」
「口汚い小娘ね……もう少しムカつく話し方だったでしょ?それだけ余裕が無いってこと?」
「いいから……消えてくれないかな?」
「はいはい」
ムーンは目を閉じる。
ルーフェはその様子を見て荒々しい膨大な魔力が消えて行くのを確認した。
ダインスレイブにルークへ謝らせなければいけないので、殺さない程度に抑えてから氷の牢獄から解放する。
戦いが終わって安堵したルーフェは目を閉じてため息を付いた。
魔力を落ち着かせるために息を吐いて、閉じた目を開けた――その時!!
倒れていたはずのダインスレイブが自分の目の前まで距離を縮めていた。
一瞬の出来事に反応が遅れたルーフェは後ろに飛んで離れたものの、両目を剣で一の時に斬りつけられた。
「ああああああっ!!」
「騙されたなルーフェェェェェェェェエエエエ!!!!」
「ダイン……いや君はこんな結果で満足する奴じゃない……。まだ居たかムーン!!」
「あなた達の話を聞いていたからずっとこの身体に潜んでいれば魔法を解くと確信していたわ」
ルーフェは目をやられてしまって見えていないが、ムーンは治癒の魔法を使って炎に焼かれた身体を癒していた。
両目をやられたルーフェは治癒の魔法を自分に施そうとします。
しかしそれを阻止するようにムーンが迫ってくる。
目が見えなくなっても魔力を追う事は可能で攻撃してくるのは分かっていました。
しかしどんな攻撃が飛んでくるのかは分からない……そこでルーフェは防御ではなく、攻撃に転じる。
渾身の一撃を放つ。
「女神魔法!光輝けゼウス……!!」
ルーフェが魔法と剣を合わせた魔導騎士最強の一撃を放とうとしたその時――。
ゼウスの光で直視すれば目が潰れてしまうというのにムーンは目をギラギラと輝かせて、ルーフェの胴体を斬り割いた――。
「女神剣……炎帝付与ヒノカグツチ」
「なっ……⁉」
光は炎に焼かれ、そのままルーフェを捉える。
ルーフェの胴から半分に切り離されて、紅蓮達が戦っている戦場まで吹き飛ばされてしまった。
「残念ルーフェ!!私に光は通用しないわぁ!!」
見下すようなセリフを吐いて紅蓮の足元に転がるルーフェを見て満面の笑みを浮かべる。ムーンはエステリアの街へ戻るために踵を返す。
足元に落ちてきた自分のライバルであり、共に最強となった同士が無残な姿に……紅蓮はそれを理解のできないものを見るように目を大きく見開いた。
「ルーフェ……?!」
彼の中の冷たい氷のような炎が沸々と沸き上がる!!




