第321話 ムーンの語り
数時間前、まだルーク達が雪山でネプチューンと対峙していた時、エステリア近郊の沼地ではルーフェとダインスレイブが戦っていました。
聖剣ゼウスで不意打ちを決めてダインスレイブを倒したと思ったら、間にムーンが入って来たことで勝負はルーフェの勝利で終わる事はありません。
第二ラウンドへ突入したことでルーフェは追いつめられていた。
当然、そんな素振りを相手に見せない。
2体1という不利な状況でルーフェは苦戦を強いられている。
「に、2体1なんて卑怯じゃないかな?」
「あのルーフェが弱音を吐くの?それでも最強の魔導士なのかしら?」
ムーンは苦しい表情でボロボロになったルーフェを見て嘲笑う。
しかしダインスレイブはこの状況を喜んではいませんでした。ルークの師匠同士の戦いに割って入ってきた事に怒りを覚えていた。
彼にも少なからずこの戦いに対してプライドのようなものを持っていました。
邪魔をされて手を借り、ルーフェを追い詰めた所で何も嬉しくない。それどころか1対1で戦っていたら間違えなく負けていた。
不満を感じ取ったムーンはダインスレイブに問う。
「不満かダイン」
「あ、いえ……」
「仕方のないやつだ。私の力を貸してやるから二人で戦うと良い」
「力なんて……」
「今のあなたではルーフェに勝てないでしょう?」
「……くっ!!」
それはダインスレイブも気づいていました。
だとしてもルーフェと1対1で戦いたい……その思いが彼にはありました。
弟子を想う気持ちはこんな突然現れた小娘に負けるはずがない。
ダインスレイブはその気持ちの強さで負けている能力を補おうとしていた。ルークに教えた事に魔法は想いの強さが肝心だと伝えていたから。
それを成してこそ、ルークの師匠であると認めたかった。
しかしムーンは無慈悲にもダインスレイブの考えを否定する。
「あなたのプライドなんかより、勝たなければいけないんだ。力を受け取るか私と共に戦うか選びなさい」
「ち、力を少しだけ分けてください」
「はいはい♪」
ムーンは満足した返答を貰って、ダインスレイブに手を翳す。
光の粒のようなものがムーンからダインスレイブへ流れていく……。
そこへルーフェは待ってあげないと言わんばかりに攻撃を仕掛けた。目の前には厄介な人間が2人も並んでいる。
逆にここで仕留めれば全ての片を付けられる。
「ちょうどいいね。これで全てを終わらせる!!女神剣ゼウスブレイド炎帝バージョン!!!!」
ルークの魔法「炎帝」で強化された身体能力で剣を振るう。
だけど少し遅かった、力の受け渡しは完了していました。ルーフェの聖剣ゼウスよりも強い光をダインスレイブが放つ。
ルーフェは近づいてその光を直接見てしまい、目が眩んでしまった。
その時のダインスレイブの表情は余裕が出来たものではなく、とてつもない焦りを見せています。
それはムーンが力を渡してくれたと思っていたら、それがただの受け渡しではなかったので予想外の展開が彼の中にも起こっていました。
「さて……とっとと終わらせようかルーフェ」
「くっ……目が……こんな戦い方で満足なのかいダインスレイブ!!」
「ダインではない」
「は……?」
「ダインの身体は私が一時的に借りたのよ」
「この感じ……まさか君はムーン!!」
ダインスレイブが焦っていたのは力の受け渡しでは無くて、身体を乗っ取らていると気づいたからでした。
人の魂を人に移すことのできるムーンはこんな事まで出来てしまう。
魔法をダインスレイブの実力のまま使えて、剣も扱える。
さらにはムーンの魔法も使えるというある意味で力を貸してくれているのかもしれない。
「どんな魔法だよ……全く……」
「魂に干渉する固有魔法、聖獣の力を一部使えるのよ」
「魂を使ってダインスレイブを操っている……?いやいや、それは力を貸してあげるとは違うでしょ……」
「ふっ……目が見えていない間にすぐに終わらせて上げるわ。固有魔法月帝」
「何だその魔法!!」
「あなたの調べは付いています。あなたの得意魔法は模倣。一度見た魔法なら固有魔法以外全て模倣できる」
「……知ってたか」
ルーフェの魔法「模倣」を使う事で彼女は古今東西全ての魔法を使えると言われるようになっていました。
本当は見た魔法を覚える事が出来る。
確かに全ての魔法を使えるポテンシャルは持っていますが、学んだわけではない。
そこでムーンはある疑問を投げかける。
「ルークの固有魔法炎帝をどうやって模倣したのかは気になるんだけどね」
「あはは、君に教えるような事かな?」
「教えてよ。私、あの魔法欲しいのよね。でも模倣はあなたほどではないけど私にも使える……炎帝は対象外だったはず」
「魔導騎士の最終手段」
「剣と魔力と同化する禁忌……?まさか……!!」
ルーフェもまた禁忌に触れてしまった。
ムーンとの決戦が待ち構えていて、それを倒す最期の戦いの覚悟を持っています。
人を辞めてまでこの戦いに賭けたわけ……それは偏にルークという一番弟子のためだった。
この力を使うと人を辞める事になる。
ルーフェの髪の毛は白い光変わり、背中には天使のような羽が生えていた。
「……そこまでする価値があると?」
「この50年間、ようやくできた最高の一番弟子だよ?お年寄りならそりゃあ可愛がるでしょ」
「弟子であり孫とでも思ってるの?そんな10代前半みたいな見た目で」
「若作りしているだけで、中身はおばあちゃんなんだ……言わせないでおくれよ!!」
短い期間でもようやく自分の魔法を教えるに足る人物が現れたこと、そして自分を慕ってくれている。
さらには自分の好みの女の子だった。
そんな邪な理由はありますが、ルーフェはルークの事を大切に想っていました。
それこそ嫌いな剣と同化することもいとわない程に……。
「聖剣ゼウス……それはとある世界では神の名に付けられてします」
「何の話だい?」
「異世界の神に近い存在になったというわけよ。固有魔法は他のモノでは使えないという理屈は当てはまらなくなる……故に禁忌」
ルーフェはゼウスの名前については何がモチーフになっていたのか知りません。
元々剣に興味が無く、抜いたもの20年ぶりでした。
そのため、ムーンの話を空想のように聞いています。
その様子を見てムーンは呆れてしまった。
「分からないか」
「どうもいいから、とっとと勝負を決めようよ」
「それも……そうね」
2人の最後の戦いが始まった!!




