第320話 残酷な現実
ここでルーンが横槍を入れてくるとは思わなかった。
私の彼女への印象は大人しくて、周りに流されるような子、あまり自分の意見を言わないはず。
義母とアーミアに従い、私に嫌がらせをしていたことはあるが、自分から進んでそういうことをしようと思っている子じゃないのはわかっている。
むしろ2人になった時は申し訳なさそうな顔を常に向けられていた。
だから本当はそういうことをするような子ではないというイメージだ。
そんな弱気な子が魔王教団を倒しに行くのに協力したいと言う。
義理の姉としては妹の成長を喜ぶべき瞬間かもしれない……けれど、この子を信用していないのも事実。
妹だと言うのにこんなことを言うのは少し躊躇われるんだけど……。
「魔王教団から何か言われてない……?」
「や、やっぱり信用して貰えていない……よね……」
「ま、まあ……」
義理とはいえ姉妹の暗い話し合いに誰もが黙って聞いていた。
気を使ってくれているんだろう……いつもなら空気を良くしてくれるショナが黙って聞いている。
ここで彼女を連れていくのは愚作としか言えない。
ルーンが敵だったら後ろから刺される可能性があるし、連れて言ったら足でまといになることも考えなければいけない。
残念だけど、どれだけ強い意思を示したところで連れていく訳には行かないというのが私の見解だ。
しかしルーンは怯えた瞳で私から視線を外さない。
「わ、私が襲われて……し、死んでも構わないので連れて行って貰えませんか?街の人達の助けになりたい……」
「魔王教団の人間じゃなくても無駄に死ぬ人を増やしたくないんだけど……」
「あ、あの時……お姉……ルーク様の邪魔をしたりして、信用がないのは分かっています……それでもチャンスが欲しいんです!!」
チャンスと言われても……私はあまりルーンのことに興味が無い。
義理の妹で、あの義母の子供だから。
お母様のことを考えると元々彼女たちの事は気に入らなかった。なので関わりを断ち、魔法と剣を学んで強くなった。
これが仲のいい妹ならともかく……。
そんな自分でも酷いと感じるようなことを考えていると今まで黙っていたサツキが割って入ってくる。
「連れて行っていいんじゃないか?」
「サツキ!?どうして……」
「義理とはいえ妹だろ!これから仲良くなるかもしれないし」
「え……そんな理由?でもこれから行くところは……」
「それも踏まえて、せっかく出会ったのに仲が悪いままというのは悲しいだろ?」
「そ、そんな理由でみんなを危険に晒す訳には……」
「そういうのを乗り越えて愛情というものは強まるんだ。今は興味がなくても好きになるかもしれないだろ?」
意外にもフーリア以外の子達は連れていくことに反対していない様子だ。
信用していると言うよりは私のことを考えてのことだろうか。
連れて行って裏切られてもこの子ならどうとでもなる、ここで無意味に揉めるよりは連れて行ってすぐにでもルエリアへ向かうべきか。
「分かった。けど自分の命は自分でなんとかして」
「はい……!!薬を飲まされた影響で私も剣を使えるようになったので役に立てると思う……」
魔法と剣を両方使えるだけでもこの世界では強力な力になる。
役に立たないということはなさそうね。
私達はギルマスとフレイヤ、そしてルーンを連れて行く。
これで準備は整ったから後はこのままルエリアへ突入する!!
ギルドで入用になるモノを揃え、移動の準備も万端。
ここまでは概ね順調で上手く行っている……そんなことを考えていたまさにその時だった。
「と、あなた達はそんな無駄な事を考えていると思うのだけれど……」
ギルドを出ようとしたその時、背後から聞いたことのある女性の声が聞こえてくる。
その声を聞いた瞬間、 その場にいた全員が緊張した。
本能がその声に耳を傾けて、どんな言葉を紡ぐのが聞けと訴えているようだ。
恐る恐る背後を振り返るとそこには……ここにいるはずも無い人物……ムーンが居た!!
それを見たフーリアが疾風のごとく剣を振るう、聞くよりも頭で判断するよりも身体を先に動かした。
ムーンはフーリアの剣を回避しようとはせず、その攻撃を受け入れた。
しかし剣はムーンに貫通してまるで幻でも斬っているかのようにスッ……と流れて行った。
「幻覚!?」
「思念体だよ。私は今、ルエリアに居る」
「なっ……そんなことまで出来るの?」
「簡単な魔法よ。まあこの近くに私の魔力を置いて置く必要があるけど……」
「魔力……?」
「そんな話はいいのよ。もうルエリアへあなた達が来ても無駄ということを伝えておきたくてね」
そんなことを言うけど、本当は私達に来て欲しくないって考えもできる。
こんな言葉を信じることなく、私達は進むべきだろう。
「来るならいいけど、あー!じゃあ沼地のゴミを掃除しておいて貰えるかしら?」
「ゴ、ゴミ……?」
「ええ、一部逃げられてしまったけれど、ルーフェの死体はそこに置きっぱなしだからそれを――」
ルーフェの…………?
ムーンは何か言っているみたいだったんだけど、その先の言葉は私の耳に届かなかった。