第316話 出し抜かれた焔
魔王教団2人目の幹部を討伐した。
氷の洞窟はあれほど頑丈だったのに私達4人の合わせ技で大穴を開けてしまい、やりすぎてしまった事に気づく。
ここに聖獣が住んでいるのなら少し申し訳ない気持ちもあるけど、力を見せてみろっというのだから、これくらいやっても文句は言わせない。
ネプチューンはあれで魔王教団の幹部で2番目に強いとか……彼女よりも強い幹部と1番弱い幹部が残っている。
タイヨウ達は恐らく今戦っている中に居るかもしれない。
ネプチューンより強くてもタイヨウが居れば何とかなりそうだ。
案外うまく全ての片を付けているかもしれないね。
「お、お前ら……あのネプチューンを……!!」
もう聞きたくない声が後ろから聞こえてくる。
フーリアはしぶとく生きているアーミアをまるでゴミでも見るような目で睨みつける。
「げっまだ生きてたのアンタ」
なんとまだアーミアは戦う意志を持っているようで、気絶から目を覚ましてすぐに剣を構えようとする。
しかし、その手に神秘剣は無い。フーリアが折ったから。
「黙れッ!!神秘剣は折られたが、もう一振りそこにある……それを奪って私は……!!」
神秘剣はこの世に二振り存在した。
その一つをフーリアが壊してしまった。それでも魔導騎士の力に目覚めたアーミアなら魔法を行使できる。
あまり痛めつけるのは好きじゃないけど、この子には色々と面倒をかけられた。
少しくらいは分からせてやってもいいかもしれない。
そんな自分でも驚くほど血の気の荒い事を考えて居ると氷の洞窟がゴゴゴゴッと地震が起きる。
私達の攻撃で氷の洞窟にダメージを与えてしまったせいか。
直後、氷の天井砕けて無数の氷の塊が降ってくる!!
それに気を取られていると、アーミアの背後に大きな影が現れる。
不気味に揺れるその影はアーミアが振り返った瞬間――彼女を飲み込んだ。
アレは地震じゃなくて何か得体のしれない化け物が目覚める前兆だったみたい。
氷の塊も気づいたら消えていた。
「うぷっ……まあいいかぁ~」
そんな化け物はなんだか気の抜けるような声で何やら呟いている。
意外にも可愛らしい少年のような声で少しだけ気が緩んでしまう。
この気配は私達がよく知っている聖獣と同じものだ。
「まさかあなたは聖獣……?」
「その前に……吾輩の身体を壊さないでくれ」
そういうと先ほどの大きな穴は突然塞がれてしまう。
大地の魔力で氷を作って瞬時に埋めた。
この聖獣が出てきた瞬間、この辺りの温度がさらに低くなる。
どうやらこの異常な寒さの原因はこの子らしい。
封印されていたと言っていたけど、この溢れ出る力をずっと放置していれば世界が氷に包まれてしまう。
おそらく過去の私はそれを危惧して封印したんだろう。
ちなみに聖獣の見た目は小さな狸だった。
アーミアを飲み込んだ後に普通の狸サイズに縮んでしまった。
妙な感じだ……だけど自然と怖くない。
「久しぶりルーク」
「……あなたが最後の聖獣?」
「はい、試すような真似をして申し訳ありませんでした」
意外にも聖獣はまともだった。
力を見せろとか言っていたからクランみたいに強情な子だと思っていたんだけど、見た目は結構温厚みたい。
「一応聞いておくわ。力になってくれるの?」
「ちょ、フーリアこういうのは頼み方とか……」
「前の熊の聖獣の時みたいになるかもしれないし、とっとと知りたいじゃない」
「そうだけど……」
フーリアのそんな態度を見て聖獣は機嫌を悪くすると思っていた。
しかし、終始穏やかな表情を隠すことなく、むしろフーリアのことをじっと見つめている。
睨んでいるような感じない。優しい視線だ。
フーリアは優しい視線だろうが、睨まれようが関係ない。彼女にとって鬱陶しい視線は全て共通していた。
自然と睨み返してしまい、聖獣はフーリアから視線を外す。
「力か、一応今のルーク様には渡しておいていいでしょう」
「ほんと!?」
「えぇ……後、魔法を渡すついでにどうして私が封印されていたのかなど、話しておきます」
聖獣は自分が最後の砦になることを危惧していて、自ら封印されたこと。
確かに膨大な魔力ゆえにこの雪山を作ってしまったけど、この世界を氷漬けにするほどの力は無い。
それでも氷を司る聖獣なので、この当たり一面だけは異常な気候になっているということ。
そして1番肝心なのが、封印されていた理由。
「出来ればルーク様には出てこないように言われていましたが……」
「そうなの?でもずっと1人で心細いだろうし、ここがムーンに見つかれば時間の問題なんじゃ……」
「本来、この雪山の幻影を逃れることはできません。どんな強者であっても妖術をどうにか出来る力は人間にはありませんから」
「え……」
ということは完全に無駄骨だった……?
魔王教団の幹部を倒したし、魔法も貰えるらしいから悪いことだらけじゃないけど……。
それに私達を街へ返したらまた封印されると言っている。
そこまでするのはハマルの魔法があったからだ。
そのハマルはあまりの寒さに凍えて眠っていた。
放置していたら死んでしまう……。
「てっきり、吾輩の力が必要になったものだと思っていましたが……匿うためなら無意味です」
「そ、そうみたいね。でも固有魔法はありがとうね!これで万が一の時は戦えるから!!」
「その魔法はあまり多用しないように。実力を見て渡しましたが、まだ少し足りない」
「わ、分かった……いざと言う時のために取っておくよ。それより本当に来ないの?」
聖獣をまた一人にするのは申し訳ない。
そんな気持ちでいっぱいだった。
魔導王復活を阻止するために1人だけ封印されるなんて可哀想だ。
しかしその時だった――突然聖獣の身体が赤く光り始める。
「うぐっ……これはさっき食った小娘の……この魔力!まさか妖狐!!!!」
いきなり聖獣はお腹を抱えて倒れだした。
私は近づいてどうにか治せないか魔法で癒してみたんだけど、効果はなかった。
アーミアがお腹の中で暴れているという。
やがて聖獣の力は身体の内側の何かに吸収されてしまう。
聖獣とアーミアを吐き出すことなく、突如姿を消してしまった……まるでどこかへワープしたみたいに……。




