第312話 謎の魔導騎士
サツキに頼まれて私は戦闘中でありながら魔力と炎帝刀を収めた。
炎帝刀は納刀しても問題はないけど、魔力を解除する事なんて基本的にはしない。
魔導士だからすぐに魔法を使うために魔力を溜める栓を予め抜いておくのが当たり前だし、眠っていても微量の魔力を放出している。
魔力の器に栓をすると抜くのに時間が掛かって数秒間魔法を使えなくなるので眠っている間でも流れている。
魔力に栓をするのはデメリットだらけではなく、魔力探知が得意な人から逃げられる利点はある……けど、命が惜しい魔導士はまず魔力を常に放出した状態にする。
つまり栓をできるとしても魔導士は魔力に栓をすることは基本的にない、生身の身体を晒しているようなもの。
できれば剣だけでも残しておきたかったんだけど、サツキの頼みなら仕方ない。
彼には何か考えがあるだろうし、いざという時は守ってくれると信じている。
だから目を閉じて生まれて初めて魔力に栓をする。
完全に魔力を抑えるとこの異常な寒い気候が私に襲い掛かる。
異常な寒さが普通の生身の人間の身体に触れるとあまりの冷たさに悲鳴を上げたくなる。
小学生の頃プールに入る前に冷たいシャワーを浴びるけど、それの数十倍冷たい……このままの状態が続くとおそらく身体が動かなくなる。
さらに足を動かしておかないと靴と氷の床がくっついてしまいそうだ。
「うぅ……」
「大丈夫か?」
「あ、頭と足が異常に寒い……」
「あれ……俺達は全身寒いんだがな……ちゃんと魔力は解いてるのか?」
「解いたよ!!」
「お、おぉ……すまない」
珍しかったのか私が怒鳴った事でサツキは驚いてしまう。
確かに胴体も寒くないわけじゃない……だけど、頭と足が異常に冷たい……。
その時私はあることを思い出す。
そう、この国宝の巫女服だ。
この服を着ている部分だけ寒さを抑えられている。
「その服のおかげってわけだな」
「そうみたい……奴隷の子は私達よりはるかに薄着だったし、よく耐えてるね」
「あの子を気にしていたのか……?」
「まあ……敵とはいえ可哀そうじゃない。あんなこと言われてて……」
洞窟のどこかに隠れているのか姿は見えないけど、あの子は誰よりもボロボロな服でさらに裸足でこの異常な寒さの中、こんな所までやってきた。
正直それが一番、気になっていたんだけど、魔力を切って寒さを直に感じて改めてその異常な事態に驚いた。
あのハマルって子を探す前にまずは……あの水の化身と成ったネプチューンを何とかしないといけない……。
そのはずだったんだけど……。
あれ……?
そういえば攻撃が止んでいる事に気づく。
ネプチューンは先程から一言も言葉を発さない。
どうしたのか気になってネプチューンを見てみると……。
「なっ!?」
先ほどまでネプチューンが居た所には人型の氷の塊が突っ立っていた。
よく見てみると水化したネプチューンにそっくり……というか多分本人だ。
微かにまだ魔力を感じるから生きているみたいだけど凍り付けになって動けない様子。
「やはり……この異常な寒さに耐えられなかったか」
「どういうこと……?」
「さ、さっきから……今までとは比べ物にならない程……うぅ、寒くなってるんだが……」
「いきなり何……?まさか何か起きているの?」
「いや……おそらくこの寒さがこの雪山の真骨頂という事じゃないかな?」
ネプチューンという私と同等の魔力量を持ち、私よりも魔法を使うのが上手い彼女は魔力を身体に纏う事で寒さで凍ることを防いでいた。
膨大な魔力があればそれくらい可能なんだけど、それには上限がある。
人の身で出来る限界値を超えればいくら魔力を纏っても無駄……ということ。
何故か私が魔力と炎帝刀を解除したことで極限まで冷えたみたい。
ということはまさか……私の魔力と刀の温度で多少なりにこの空間を温めていたという事……?
もしかして今までも私が魔力を解いていればネプチューンは成す術が無かったんじゃないか。
突然自分が足を引っ張っていた事実を知って困惑してしまう。
……とはいえ、あまり納得できないけど、魔王教団の幹部を倒すことができた。
後はユウリとマツバが戦っている謎の魔王教団の1人を倒すだけ……。
体力には余裕があるので2人の様子を窺おうとしたまさにその時だった。
「ルーク危ない!!」
後ろからフーリアの叫び声が聞こえたかと思うと隣りに居たサツキが私の上に覆いかぶさる。
サツキと私の上には膨大な炎の塊が通り抜けていく……。
その炎に包まれた塊は人だった!!
「あぶね……さっきの炎にマツバが焼かれていた!!」
どうやら炎に包まれていたのはマツバだったようで氷と化したネプチューンにぶつかった。
氷は砕けて溶けると水になってマツバに纏っていた炎が消化される。
「ぐあっ!?」
息はあるみたい……。
ホッとしているのも束の間。
マツバをこんなにした奴は一体誰なのか、飛んできた先にはあの謎の魔王教団が立っていた。
しかしそれだけじゃない……ユウリが……!!
謎の魔王教団はユウリの血だらけの頭を鷲掴みにして、私達に見せしめるように前に突き出す。
当然そんな光景を見て、じっとしていられるはずもなく、マツバの容態を見ているサツキを置いて私、フーリア、ショナの3人で一斉にその謎の人へ斬りかかる。
ネプチューンが居るからどうなるか分からないけど、復活しようが関係ない!!
魔力はまだ使えないから、即座に使える炎帝刀を抜く。
ユウリを……友達を助けないと!!
そんな勢いで向かって行ったものの、その魔王教団は魔力を解放する。
あまりの魔力の圧力に私達は耐えられなくなり、吹き飛ばされてしまった。
「何この今まで感じた事のない圧倒的な魔力……!!」
「お前は誰だ!!ユウリを離せッ!!」
そんな怒りの言葉を叫んだのはショナだった。
この子は怒らせると怖い……大事な親友であるユウリが傷つけられて先ほどまでの疲労なんて忘れるほどに怒っていた。
そしてその謎の魔王教団は顔を隠している布を取る。
するとそこには見た事のある顔があった……。
赤い髪に鋭い瞳……前会った時とは雰囲気が少し変わっているけど、間違えない。
ジャスミンの街の近くの森で戦った相手……私の炎で不気味な研究所ごと燃やしたはずだった。
「レオ……!!」