第310話 魔導騎士の禁忌
ルーフェとダインスレイブの戦いが決着した頃、ルークとサツキは雪山に侵入して来たネプチューンと対峙していた。
ネプチューンは水を中心とした魔法と剣を使う。
海がそこにあるような不思議な刀身の魔剣を手に持ち、水の魔法でその刀身を鞭のように伸ばす攻撃を行ってくる。
水魔法を使って剣の短いリーチを伸ばしているんだろう。
しかし斬撃なので水の鞭とは違って当たったらただでは済まない。
そして今までの敵とは明らかに動きが違う。
水で伸びた剣の刀身をギリギリ避けたと思ったら、頬を掠めている。
剣に掠って頬から血が滴り落ちた……本の少しだけ触れただけのはず。
少し触れるだけでも気づかない内に血を流す程の切れ味。
さらに他の場所は明らかに違うこの異常に寒い空間だと落ちた血が一瞬で凍ってしまう。
私の身体は常に高温だから血も例外じゃない。なのに一瞬で凍ってしまうなんて……。
もっとおかしいのはそんな空間で戦っているのに相手の水は凍り付くことが無いということ。
魔法なので魔力を多く使って凍らないようにしていると思うんだけど……。
余分に魔力を使うから長期戦はあまり望まないはず、それなのにネプチューンは余裕の表情を見せつける。
「魔力量には自信があるの」
「ルークと互角くらいか……?長期戦は不利だな」
「何を言っているのかしら」
「え……?」
「短期決戦もそっちが不利よ」
ネプチューンが不敵な笑みを浮かべると魔剣ネプチューンをその場で振り下ろした。
リーチはあっても剣の幅なんてたかが知れている。それでも当たる可能性を危惧して大袈裟に避ける。
その判断は正しかった……一瞬だけ水は横に広がり、まるで巨大な津波が私の隣を抜けて行った。
そんな大量の水はその一瞬でほとんど消えてしまった、魔力を温存するためにすぐに巨大な津波をひっこめたみたい。
氷の地面と天井が先ほどの津波で真っ二つに割れてしまう。
大袈裟にでも避けなければ私はどうなっていたのか……考えるだけで背筋が凍る。
「安心して、右腕右足を切断する程度に収めるつもりだったから」
「安心出来るわけない……大体、そんなことしたら出血で死ぬんじゃ……」
「多分死なないんじゃない?」
「私がそこまで頑丈に見えますか?」
「違う違う体の一部を失うほどのダメージを負えば意識が飛ぶんじゃないかな?そうなれば魔法を使えなくなるから、あなたの身体の温度は普通の人と同じになる」
「……ま、まさか」
「あなたの高温の血でも滴り落ちたら瞬間に凍るんだから、切断した後から凍って止血するんじゃない?それなら気にせず切断できるわよね」
そんなことを考えながらあの攻撃を仕掛けてきたってことか、やっぱり魔法教団の考える事は常軌を逸している。
私の手足を切断しようとしながらも笑顔を絶やさない所を見ると冗談抜きでそれを実行しようとしていた。
割り切って殺す判断をされたら簡単に実行されそうね。
いや、既に殺意はサツキに対して向けられている。
私以外はどうでもいいという考えなんだろう。
威力や水の量がネプチューンの方が圧倒的に上なんだけど、何とか打ち合いできているのは同じ属性だから。
水神刀ワダツミが自分よりも威力の高い同じ属性の攻撃を吸収している。
ネプチューンは先程まで私に対してのヘイトをバリバリに向けていたのに、その対象がいつの間にかサツキに変わっていた。
おそらく殺しても問題ない相手であり、魔王教団幹部の中でも相当な実力者だからサツキに苦戦しているのが許せないんだろう。
冷静な感じを崩していないもののムキになってサツキに対して剣を振り下ろしているのが良い証拠。
ここに勝負を決める隙があるのは確かだ!!
「まさかこの私の水を一部だけでも吸収するなんてね……気に食わない……わっ!!」
「くっ……なんて馬鹿力だ……!!」
「女性に対してそういう言い方は良くないわ!教育がなっていないようねっ!!」
ネプチューンは水の剣を魔法で伸ばして遠くから鞭のように打ち込んでくる。
サツキは剣を使って弾いている最中で動けない、そこへネプチューンの津波が襲い掛かる。
咄嗟に炎の魔法で支援する。
水は炎に触れて蒸発……その後、薄い氷の膜が宙を舞って消えた。
一瞬で水蒸気が凍ったせいだろう。
大量の水を一瞬で蒸発させたことでネプチューンは驚いていた。
「なるほどあのマレフィックが負けたのは偶然じゃなかったみたいね」
私達もまたあの時よりも強くなっている。
このまま戦い続けていれば勝機はあるはず。
だけど一番の不安はあのアーミアだ……気になってフーリアたちの所を見たら、戦いが終わっていた。
あの様子からして勝ったんだろうけど、頑張りすぎたせいで少し休んでいる。
少しでも身体が動かせるようになれば4対1でネプチューンを相手にすることが出来るからやっぱり時間を稼ぐ方がいい。
そうなればこの戦いはこっちのものだ。
しかしそんなことを考えていた時だった……ネプチューンは不敵に笑う。まるでまだ隠し玉でもあるかのように……。
「あらら、フロストさんやられちゃったのね」
「アテが外れたか?」
「ん~、ガキに元当主が負けるとは思わないでしょう……まったく、あの子を失わないようにと付いてきたのに……」
あの子……って多分アーミアの事だろう。
アーミアを手に入れるために何かしていたはず、多分あの時のネックレスがそうだろう。
どうやってあんなネックレスを手にしたかは知らないけれど、手間を掛けた者をミスミス犠牲にはしない。
「さすがに神秘剣とあの謎の雷の剣が追加はきついので……来る前に最終手段を使いますか」
「最終手段だと!?」
「本当はしたくないんですが……まあどちらかを戦闘不能、あるいは人質に取ればこの状況も一変するわよね?」
「来るぞルーク!!」
「これは魔導騎士にのみ許された禁忌……!!私は魔法と剣と同化する!!」
禁忌と言っているあたりこれが最終手段なのは間違えなさそうだ。
何が来ても私とサツキなら乗り越えられる!!




