第309話 光の聖剣
ルーフェとダインスレイブの戦いは意外にもダインスレイブが優勢でした。
魔法の腕ならともかく、召喚魔法で魔物を呼ばれて剣術を使う事でルーフェに休ませる隙を与えません。
さらに問題だったのがルーフェの使う魔法とダインスレイブの相性の悪さ……。
ルーフェは古今東西全ての魔法を使えますが固有魔法、そして召喚系の魔法は苦手でした。
契約が必要な魔法をルーフェは嫌っている。
しかしそんな不利な状況下でもルーフェの表情には余裕がありました。
負けるつもりは一切なく、むしろチャンスを伺っています。
そうとは知らず、ダインスレイブは世界最強の魔導士を追い詰めている事に奢り始める。
「この程度かルーフェ、接近戦が苦手なら剣を抜けばいいだろ?」
「……ボクは魔導士だよ?剣なんて野蛮なものは使わないのさ」
「魔導騎士の強みを活かせないとは……それでもあの子の師匠か?」
「その程度の女をずっと倒せていないじゃないか。剣を使わない魔導騎士を一瞬で倒せないなんて……せっかくその力を無理やり自分の身体に入れたのにね」
「……」
ルーフェは追い詰められている状況の中でも普段の口調を一切崩すことはない。
いつも通りの挑発で相手を揺さぶる。
しかしダインスレイブはその程度の挑発ではまったく揺さぶられることなく、冷静に剣を打ち込んでいく。
ルーフェにとってはそれはあまりよくなかった。
怒りで我を忘れてくれる方が動きは読みやすく、今のこの不利な状況を少しでもよくなっていたかもしれない。
ほんの一瞬の隙……それさえあれば今のルーフェにも一発逆転の一手があった。
本当は奥の手があるのですが、なるべくそれをルーフェは使いたくない。
そしてダインスレイブはずっと攻撃を受け止めているだけのルーフェに違和感を覚えた。
「何かを狙っているようだが……その程度の罠にかかるほど私は愚かではないぞ?」
「おや?口調が少し変わったかな?お薬の影響かな?」
「ふん、この世界の一般人はこれに頼らないと魔法と剣を両立できない。おかしいとは思わないか?」
「おかしい……?」
「この世界ができた当初は両方とも扱えた……今が異常なんだ。それにこのままだと私達は神達に見捨てられる」
誰よりも薬の影響を受けているダインスレイブは二人の人格と既に混ざりあっている。
魔法と剣を人格の切り替えで使い分けていた時とは違い、二つの人格が混ざったダインスレイブの状態で扱えるようになった。
しかしそれでも彼は納得していませんでした。
「自然の摂理らしいけどね?」
「神が世界を作って1000年で別の世界へ行ってしまう奴か……。だがそれも力があれば…………!!」
「それだけの力を手に入れてどうしてまだそれ以上を望むんだい?その力が欲しかったんだろう?」
「ああ……僕を陥れた奴らと同じ力をあの時に持っていれば……。結局今では遅すぎるんだ……だから私みたい同じ苦しみを味わう人が生まれるのは納得できないの!!」
「話し方がおかしくなっているよ?混乱しているのかそれとも安定していないのか……やっぱり不安定じゃないか」
それでもここまで自分を曲げることなく突き進んできたダインスレイブはもう止まることが出来ない。
可愛い弟子だろうが、なんでも利用して必ず過去の自分が間違っていなかったと証明したい。
ルーフェはその様子を見て、呆れていた。
そんな表情を見て言葉を交わすことなく、ダインスレイブは何かを察した。
『こいつは、僕のことを何も理解できない……この程度の者があの子の師匠であっていいはずがない!!だってあの子は……僕にとって本当は…………』
ダインスレイブは剣に炎を纏わせる。
魔法で強化した剣をルーフェに向かって振り下ろす。
ルーフェは防御魔法で攻撃を防ぐ。魔法の分厚い層で身体を覆う事で炎の衝撃を受け止める。
数ミリも削れることのない完璧な防壁で強力な剣も防いでしまう。
「その剣、ルークちゃんのモノと似てるね。真似てるのかい?」
「お前には関係無い!!」
ダインスレイブは魔法の障壁を壊すために連続で打ち込んでいく。
冷静で綺麗な剣筋に見えるが、ルーフェの目には明らかに怒りで我を忘れているように見えていました。
そんな戦い方をしているダインスレイブにルーフェは違和感に気づく、ダインスレイブの連撃を受け止めながら、その違和感を確信するまで耐える。
そして遂に現れた隙をルーフェは見逃さなかった。
『ここで使うべき魔法はダインスレイブはさらに混乱する魔法……!!あれをするしかない!!!!』
「そこだ……!!炎帝魔法!!」
「炎帝魔法!?ルークの……どうしてお前が!!」
ルーフェはその言葉に返答をせず、そのまま炎帝の魔法で強化した身体で……遂に剣を抜いた。
眼も開けていられない程の光の剣握り、横薙ぎに振り払う。
剣のことを悪く行っていたルーフェが突然そんなものを取りだして、ダインスレイブは取り乱す。
怒りで我を忘れていていたダインスレイブは攻撃を中断する……が、時すでに遅かった。
炎帝という強力な強化魔法は攻撃の際に破壊を付与する。
強化された腕から振られる剣にもそれは付与されていて、ダインスレイブも防御魔法を展開したが防げなかった。
「うぐっ!?」
一撃で意識を失う程の強烈な女神剣が放たれる。
「殺しはしないよ。あの子の前に持っていて謝らせるまではね」
「くっ……」
ルーフェは今までに見せたことの無い怒りの目をダインスレイブへ向けています。
常に冷静に行動していたルーフェだが、一番怒りで我を忘れそうだったのは彼女だった。
それでも耐えて自分の奥の手を隠していたルーフェが一枚上手――。
「剣……使うのか……!!」
「使わないとは言っていない。嫌いなのは確かだけど、この聖剣ゼウスがボクを選んだ」
「そんな隠し球があったとは……」
「ということで、とりあえず寝ててね。はあああああっ!!……神々の世界を照らす後光を前にひれ伏せ……炎帝付与ゼウスブレード!!」
まだ意識を失っていなかったダインスレイブを確実に気絶させるために光の剣を放つ――。