第308話 師匠同士の想い
ルークの知らない所で師匠の座を賭けてダインスレイブとルーフェが対峙していた。
2人とも鬼気迫る表情で魔法を撃ち合う。
ダインスレイブの魔法は魔物を召喚するもの、一方のルーフェはルークの固有魔法以外の炎を模倣していた。
魔物達はルーフェの炎に焼かれ、ルーフェの炎は次々追加される魔物によってダインスレイブまで届かない。
戦いが硬直する中、ダインスレイブが口を開く、どうやらルーフェの後ろを気にしている様子だ。
「さすがだね……僕は君と戦いたいと思ってたいんだ……だからこそ、後ろのタイヨウやちょっと強そうな女の子達は手を出さないでほしいな……特に剣士最強の紅蓮くんは」
「大丈夫、君程度はボク一人で十分なんだから!」
ルーフェはダインスレイブと一対一で戦うつもりでした。
しかしそれをタイヨウは咎めます。
この戦いに勝つためにはルーフェと紅蓮という最強の2人をどう切るかにかかっている。
この2人が組めばムーンだって倒せるのだからこんな所で使いたくない。
だからこそここで魔王教団の幹部クラス程度を相手にさせるわけにはいかなかった。
タイヨウのそんな意思を聞いたルーフェはあからさまに面白くなさそうな表情を向けている。
ルーフェは乗りに乗ればそのパフォーマンスは常に高い水準を維持するような魔導士。
この模倣した炎もいずれ魔物を突き破りダインスレイブに届くだろう。
そんなルーフェの面白くなさそうな表情を見て、このまま戦わせるのはあまり良くない。
タイヨウがそんなことを考えて居た時だった。
「じゃあ俺が紅蓮と相手をしてやるよ!!」
ダインスレイブの背後から意気揚々とそんな言葉を放ったのはルークと同じ赤い髪の青年……。
ジーク……今はヘラクレスと名乗っている魔王教団の幹部の1人でした。
ここまで影に隠れていた2人が遂に姿を現す。
「禍々しい剣士だな……」
「お前が紅蓮か……会えて光栄だぜ、最強の剣士と呼ばれている男だろ?」
「自分から名乗っているわけじゃないけどな。それよりお前、本当に俺と戦うのか?」
紅蓮はその実力故に冷静ながらも奢っていました。
しかし当然、長い年月を生きているタイヨウがそんな隙を見逃す事なんてありません。
ルーフェと紅蓮を宥めて全員で戦う事を提案する。
そこへ他の魔王教団の人達と街の人達が徒党を組んで向かってきました。ほとんどが罪もない一般市民で薬によって操られています。
「タイヨウ様!向こうから敵兵が……!!」
「それは本当かミツキ!?やはり罠……おいルーフェ、紅蓮……相手の策に乗るな!!」
タイヨウのその一言を聞いて少し前までの2人であれば素直に聞いていたかもしれない。
しかしこの2人は既にタイヨウの下を離れて、ハーベストで自分たちの暮らしをしていた。
もうタイヨウの言う事を全て聞く理由が無い。
それにルーフェに至ってはここで引けない理由があった。
タイヨウを無視してルーフェはダインスレイブに問う。
「ダインスレイブ……あなたはルークを使って何をしようとしていたの?」
「それを教える必要があるのか?」
「少なくとも私はあの子の師匠としてどうして狙われているのか知る権利があるんじゃない?」
「そこまでルークの事を考えて居るのか?会って何年も経った関係じゃないんだろ?ちなみに俺は4年以上一緒に居た」
「…………ボクは半年程度……それでも、ボクにとっては可愛い一番弟子だ!!」
その言葉を聞いたダインスレイブは表情を固くして怒りの表情を見せる。
面白くなさそうな低い声でルーフェの問いに応える。
「……あの子は生贄ですよ」
「生贄……?」
「そう……この世界に魔法しか使えないとか、剣しか使えないとかつまらない概念を取っ払うために……魔導王様にルークを差し出せば、この世界は元に戻る」
「今のままでも美しいと思うのだけれど……?」
「美しい……?それは君が元からの魔導騎士だからこそ言える事じゃないか?」
ダインスレイブは魔導騎士の革新派が一般市民を虐げていることを強調する。
魔法と剣を使えなかった事で昔虐げられた過去がある。
元々ダインスレイブは犯罪者として投獄されていた。
「投獄……犯罪者ってことでしょ?」
「僕は……やっていない!!」
「え……どういうことかな?」
「あれは……小さな子供だった……」
ダインスレイブはルークに魔法や剣を教える前は魔法の教師としてルエリアで活動していた。
優秀な先生で勤勉で生徒達に愛されていた。
しかしその時、革新派の魔導騎士が1人の女生徒を誘った。それを断られた魔導騎士は怒って手に掛けた。
ダインスレイブはそれに憤慨して、神である魔導騎士に向かって行くがその力の差に敗北してしまう。
その後、全ての罪をなすり付けられてしまった。
「魔導騎士の言葉は絶対……タカが魔法と剣を両方とも使えるからという理由で虐げられるなんて間違っているだろ!!」
「そんな男がどうしてルークの教師になれたのさ……!!」
「クククッ……バレンタイン殿やその婦人は嫌がっていたが、もう既にあの頃からムーン様と少年の頃のメフィスト第一王子の魔の手が伸びていたのさ」
「あの子はそんな卑しい空間の中に居たのね……」
「卑しいってこの国の事ならその通りだね」
「違う!あなたみたいな弟子を利用することしか考えないクズにずっと教わっていたということだ!!」
「……」
既にルーフェの怒りは頂点に達していた。
過去に苦しい事があったのは理解できるが、だからと言って可愛い弟子をまるで自分の復讐道具にするなんて間違っている。
もし復讐したいなら自分の力やれ!!
ルーフェはそんなことを考えて居ました。
「元から強い者には分からない理由だったか」
「分かっていないのはそっちだ!!絶対にあの子の前に連れていって謝らせてやる!!」
「やれるものなら……やってみろ!!」
2人の様子見は終わり、ここからは本気の殺し合いに移って行く……。
弟子のルークはそんなことが起きていたことも知らず――。




