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第306話 戦争


 ルーク達が魔王教団の幹部ネプチューンと戦っているまさにその時――ハーベスト帝国とルエリア王国の国境ではアマノ軍とハーベスト軍の連合が集まっていた。


 先頭にはアマノの陽王であるタイヨウとハーベスト帝国王子レイン……そしてルエリアの王子クレストが話し合いをしている。


 タイヨウは王子達にルエリア進軍の準備が出来ているのかの確認を取っていた。


「ハーベストそしてルエリアの王子よ。ここから先は進軍になる……覚悟は出来ているか?」


 その問いにハーベスト帝国の王子レインは応える。

 

 ルーク達ほどの年齢でありながら、その立ち居振る舞いは既に王子の風格を纏っていた。

 

「もちろんです。それよりもこの場に居るのが皇帝ではない事に深く謝罪をさせてください。魔王教団がまだ国内に居るかもしれない懸念から私が赴くことになってしまって……」

「それはいいさ。それに皇帝は万が一のための最後の砦になってもらえればいい」

「そんな……この作戦は成功しますよ。必ず」

「成功させるつもりで挑む……あくまで万が一の保険……あの人は俺の次に強いと思っている。いや、魔法や剣無しなら生物一だ」


 ハーベスト帝国の皇帝は亜人で人間とは違い高い身体能力を持っています。

 

 最終的にこの戦いに負けても皇帝が何とかしてくれるというタイヨウの期待が期待する程。


 そんな2人の会話にここまで付いてきたクレストは無言で黙って聞いています。あっさりと返事をするレインとは王子同士なのに顔も合わせない。


 いや、合わせる顔が彼にはなかった。

 

 それに気づいたタイヨウがクレストを気遣う。するとクレストはタイヨウの手を煩わせてしまった事にさらに落ち込んでしまう。


 それでも自分が話さないと始まらないのでその重い口を開いた。


「俺はもう……王子ではないので……進軍に否定も肯定もできません」


 ルーク達と最初に会った時の威厳はどこへ行ったのか、クレストは終始弱気でした。

 

「確か、魔法で操られてルーク達を襲ったんだったか?」

「……はい、それでも助けてくれたのでお礼を言いたかったのにその時にはもうどこかへ行ってしまった。ずっと王になるため、コソコソと国を周っていたのに……本当に一切の成果を上げられなかった」

「ルエリアのあの所業は第一王子メフィストがやったことで良いんだよな?」

「はい、記憶が少々混濁していますが、確かにあの人が私に薬を盛った。そこからの記憶は……」


 クレスト王子の話ではメフィストがルエリア王国を手中に収めたとハッキリ伝えました。

 

 元々メフィストは魔王教団に繋がっていて、ルエリアを自由にさせる代わりにある約束をしました。


 それは自分もこの世界を正しい世界に戻して、その世界のルエリアの王になるというもの。

 

 魔王教団の話を聞いて、この世界を統べるのが誰なのか判断した結果。


 このおかしくなってしまった世界のルエリアの国を売るためにこれまで活動していた。


「あの時……エステリア近くの沼地へ向かう際に俺はバレンタインの街へ行くように指示をされていました」

「でも行かなかったんだよな?」

「はい、嫌な予感とあの人の言う通りにしていたら国を取られてしまうと思ったから……」


 あの時、クレストがエステリア近郊の沼地へ来ていなかったら彼はどうなっていたのか。


 バレンタインはちょうどそのタイミングで魔王教団に襲われていました……。

 

 クレストはそれを想像するだけで不安で心が押しつぶされそうになる。


「まあ結局回避出来ても操られてしまったんですが」

「逆にバレンタインへ行っていたら死んでいたんじゃないかな。薬を飲んだことで操ることができると判断して生かされたと考えるべきだ」

「そう考えるとこれが俺の命が助かる唯一ってことですね……情けない話です」

「メフィストが最初から敵だったのなら詰みだっただろ。むしろ君は運がいい」


 クレストの立場から考えてもこの結果はあまり喜べるものではありません。しかしこれは彼が一番死ぬ可能性の無い最高の状況でもありました。

 

 クレストですら、もう手に負えないほどにルエリアは魔王教団の手に落ちてしまっています。


 その証拠にこの国境付近ではルエリア軍が迎え撃つために待ち伏せをしていました。

 

 ちょうど王たちが話していた最中の出来事。


「なんだアレ……一般市民じゃねーか」

「タイヨウ殿!おそらく俺とおなじ薬を飲まされたルエリア国民達です……」

「分かるのか?」

「意志を感じるんです……あの薬を飲むと俺のじゃない誰かの意識が入ってきて支配しようとしてくる。その時の嫌な感じが……」

「あやふやな予感だが……ガキの直感は馬鹿にできない。その感覚は覚えておいてくれ今後そういう連中を判断できる材料になる」

「は、はい……!!」

「さて、じゃあそろそろやるか……ルエリアへ進軍して王国を救ってやろうぜ!!」


 タイヨウが鼓舞するとそれに付いてきている兵士達が呼応する。

 

 タイヨウは最強の魔導騎士(エーテルナイト)でそんな圧倒的な存在が居るからこそ兵士たちもやる気に満ちている。この戦で負けることなんて考えられない。


 さらに魔法の腕だけならトップクラスのルーフェと剣の腕ならトップの紅蓮が居る。

 

 単体で見たらタイヨウに劣るものの、2人が協力し合えばタイヨウを倒すことすら夢では無い。


 この3人が揃っているだけでこの世界の最高戦力が3つも揃っている。

 

 ムーンもタイヨウに継ぐ実力の持ち主だが、ルーフェ達を相手に勝利を収めるのは難しい。


 タイヨウはこの時、この戦で負けるビジョンを予想出来なかった。

 

 力でねじ伏せることが容易な程、戦力に差があると分かっていたから。


 ……だからこそ予想できない――魔王教団の勝つための予想が……。


 タイヨウはそのビジョンが見えていないことに密かに不安を抱いていた。

 

 何か相手の狙いが分かればそんな不安も無くなるが、ムーンは最後まで尻尾を見せなかった。

 

 何よりムーンはタイヨウと同じ力を持っていながら彼よりも狡猾な女性だから。それをよく理解しているからこそ、慢心しないことを決めていた。

 

 その上で兵士たちへは余裕を見せる。


「よっしゃー。操られてる国民全員救うぜ……俺がいれば余裕だしな」


 その言葉に兵士たちは雄叫びを上げる。

 

 タイヨウがそんな不安を抱いているとは知らずに……。


 陽王に付いてくる兵士には弱音を見せない……後には引けない戦争が幕を開ける!!

 

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