第305話 世界で唯一の剣
「焔纏い」それはルークだけのオリジナル魔法であり、それを歴史上ルーク以外に扱えた者は居なかった。
だけど唯一ルーク以外にその魔法を体験した者が居ます。
ルークと同じ身体を共有することでその魔法を使った唯一の存在。
そう、聖獣ルミナだった。
「ルミナの力を借りたの?」
「正解、聞いた話だとあなた達はルミナ様の力を借りてリゼルや他の魔王教の人達を倒して来たんでしょ?次はあなた達が狩られる番よ!」
「……あんの子狐め!!」
フーリアは最初からルミナの事を信用していませんでした。
と言ってもこういう形で裏切られるとは想像しておらず、ただルークを取る敵だと認識していました。
ルミナの裏切りは既に白日の下に晒され、ルークはそれを知ってしまう。
ルミナに対しての怒りはそのままにフーリアは喜んでいる。
怒りと喜びの感情を同時に抱いているフーリア、その理由は至極単純なモノだった。
「これであの子狐をぶっ倒してもルークは文句を言えないわね!」
そんなフーリアの隠す気も無い欲望を近くて聞いていたショナは顔を引きつっています。
「ルミナと戦うの?できれば話し合いで解決したいんだけど……」
「ダメよ!少なくとも痛い目に会わせてどっちが上か思い知らせるんだから」
「恨みが凄い!!」
「当然よ。ずっとルークの身体の中にいて羨ま……卑劣な事をしてたんだから!!」
「……」
フーリアはそこまで溜めていた嫉妬をルミナにぶつけられることを喜んでいました。
しかしそれはこの場を切り抜けて聖獣を手に入れないと困難になる。
これがルークの魔法だとしても、その練度は彼女に劣る。
それでもこの魔法は剣士と相性がとてつもなく良い。身体能力は上がり、身体は常に熱い状態いで寒さによる弊害を受け付けない。
動きと氷の剣に焔の属性が付与された事でこれまで以上に苦戦を強いられることになります。
純粋なパワーが上がり、フロストの重くなった一撃を雷の剣で受け止めたショナは小さく呟く。
「さすがにルークの魔法は強いね」
「そうかしら……この程度なら余裕だけど?」
「強がらないでよ……何かいい手は無いかな?」
常にルークの事を見続けていたフーリアなら何か良い突破方法が見つかるかもしれない。
そんなことを考えて質問を投げかけたショナ。
フーリアは少し悩む。
あの魔法は確かにルークのモノと同じだ。
身体に焔を纏う事で爆発力と焔の追加攻撃がプラスされる。しかもその炎は自分の魔法、剣、身体に触れても邪魔しない。
それどころか焔を常に纏っていれば治癒されるおまけ付き。
「まあ……インチキ魔法だけど、可能性はあるわね」
「おっ!さすがルークの事ばかり見てるだけあるね!あ……そ、それでどんな手?」
「……まあいいわ」
フーリアは耳打ちで相手に効かれないようにショナに作戦を伝える。
それを聞いたショナは半信半疑な瞳をフーリアへ向けた。
「それで上手く行くの?」
博打に近い一手を聞かされて躊躇してしまうが、打つ手のない状況下なら仕方がない。
ショナは覚悟を決めてその作戦に乗った。
剣に雷を纏わせて、アーミアの視線をショナに向けさせる。
「ふふ、アンタでは勝てないわよ!」
「どうだろうね……今まで本気じゃなかったし」
「ほう……それではその本気を見せてくれるのか?」
「本気も本気……たった一瞬の全力をこれに込めるから!」
ショナはこの一撃で決めるために全意識を剣に向けた。
まだ真の名前も知らない自分の剣を彼女は信じ、そして自分のこれまでの事を思い出す。
最初にルーク達と共に戦った記憶、アステリズムとの激闘……そして辛い過去。
それら全てを雷の剣に込める。
「轟け……雷鳴剣!!」
ショナが吠えるとアーミア達が落ちてきた氷の洞窟の天井から雷が落ちてくる。
それはショナに降り注いで身体に電流を流す。
まだ雷鳴剣であるショナの限界、それを今解き放つ――身体に電流を流す事で人間の身体にあるリミッターを無理やり外した。
この全力の一撃に全てを賭ける!!
それを見たフロストも目を細めて剣に力を込める。
「神秘剣……」
アーミアはそれに対抗するために、剣に氷と風の属性。そして追加で焔の強化魔法が加えられる。
そして2人の剣がぶつかる!!!!
最初は拮抗した勝負だったが、徐々にショナが押され始める。最初の一撃から数秒単位で筋力が低下していく。
ショナにとっての諸刃の剣であり、これでもし倒しきれなければ反動で動けない所を狙われて殺される。
そんなギリギリの覚悟を持った攻撃でもアーミアには届かなかった。
しかしそれはたった一人の場合。
ショナの後ろで神秘剣ツクヨミに全神経を注いで膨大な風の塊をその周囲に纏う。
氷の洞窟には嵐でも起きているのかと錯覚してしまう程の風が吹き荒れる。それはルーク達にも影響を与えていた。
だけど今はそんなことは考えず、この目の前の強敵を倒す。
それだけを見据えてツクヨミをショナの背後から振り下ろす!!
「馬鹿な……ッ!そんなことをすれば雷の女は死ぬぞ!!」
「それはどうでしょうね……!!」
フーリアが剣を振り下ろすまさに一瞬の隙、常人では反応することも動くこともできないような間でリミッターを外した状態のショナは動いた。
身体を雷に近い性質へ一瞬だけ変化させる。
するとショナの身体は雷のようにねじ曲がり、その場から離れる。
「何ッ!?」
即座にフーリアの剣がアーミアの剣に触れるとそれに纏っていた焔が風によって散らされる。
さらに雷はアーミアの神秘剣を内部から攻撃しており、氷に雷のようなヒビが入っていた。
炎は風に散らされ、氷は雷に砕かれた事で風と風のぶつけ合いになる。
「神秘剣……!まさか貴様らの狙いは……!!」
「神秘剣は……私が持ってる奴だけで十分なのよ!!」
「逆にお前の奴が折れるぞ!このクソガキがぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
「折れろおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
2人の怒号が氷の洞窟の中に響き渡る。
その様子をずっと眺めていた聖獣は不敵な笑みを浮かべていた。
『ほぅ……これは……』
パリンッ……。
神秘剣が割れる音が氷の洞窟の中に響き渡った――




