第304話 聖獣のチカラ
フーリアとショナは一時的にモメていましたが、ようやくショナの言いたいことをフーリアに伝えた事で2人の想いは強く繋がった。
協力し合った2人の華麗な剣術がフロストに襲い掛かる。
雷と風属性の神速の剣が同時に襲って来くるがショナ1人ならフロストの足元にも及ばない。
しかしその雷の剣の後にはフーリアの嵐の剣が襲ってくる。
2人とも吹き飛ばされても何度でも食らいつく。
フロストはホワイト家というルエリア最強の剣士の家系で元当主。
アーミアの身体とはいえ、元当主は全盛期並みの力を取り戻していました。それでも何度も向かってくる相手に体力を徐々に奪われ続けます。
さらに身体をどれだけ動かしてもこの雪山の寒さのせいで思うように剣が握れない。
温かい服を着こんでいるわけでもないフロストにとってこの状況は苦しいものでした。
「クソ……ガキどもが……!!」
しかしそれはフーリアとショナも同じで、彼女達は震える手を無理やり強く力を込めている。
自分達のどちらかが手を抜いてしまえばもう片方が殺されるかもしれない。
彼女達の美しい友情が冷えてまともに握れない手に活力を与え続けます。たった一人で戦うフロストとは違って、温かい友情がそこにはありました。
これがフロストとの力の差を徐々に縮めていく。
「このまま畳みかければ勝てるよ!」
「ええっ!もうひと踏ん張りやるわよショナ!!」
一息つく間も与えずに2人は連撃を仕掛ける。
ビリビリビリ――!!
雷の音が氷の洞窟に響き渡り、雷撃がフロストを襲います。
ズサズサズサッ!!
剣から溢れる神速の風の刃が氷の洞窟を通り抜け、風という暴力がフロストを襲います。
2人は勢いを落とすことなく……やがて、雷と風は混ざり合い、今まで傷すら追わせられなかったフロストの身体に傷を付ける。
フロストは生きていた頃の最期は80を超えていました。
身体が衰えてからは全盛期程の力を発揮できないモノの、長く生きた経験から剣術や聖剣クラスのモノを手に入れてもすぐに差を縮められるものではない。
長年の経験と聖剣や魔剣を相手にしても臆さない強い意志がありました――しかし、それを感じさせないという事は……。
「まさか……私の神秘剣がお前達のたった二振りの剣に負けている……?」
世界最高クラスの神秘剣と最高クラスの剣士がたった二人の小娘相手に押され始める。
そのことに常に休まずに打ち合いをして体力の限界に近いフロストが怒り覚えさせる。
「ありえんッ!こんなことはあってはいけない……!!」
限界の体力は怒りによって一時的に駆け抜けて、突破する。
フロストは既に気が狂う程に憤慨していました……すると少々奇妙な事が起きます。
「アーミアあの魔法を使うぞ!!」
「……良いわよ。あの子に目にもの見せてやるんだからッ!!」
どういう原理か同じ身体で違う2人の声がアーミアの身体から放たれる。
その様子に懐疑的な目を向ける2人。
しかし次の瞬間、アーミアの身体が炎によって燃やされる。
いや……焔を纏った……!!
「あの魔法は……まさか!!」
「ルークの焔纏い……!?」
ルークしか扱えない特別な焔の魔法をアーミアは使った。
これは「不死鳥の炎」を応用したルークの魔法。
身体に焔を纏うという本来では不可能な事を可能にする。
治癒の炎だからこそ、身体に纏わせても身体にダメージを負わない。
むしろ怪我をしてもすぐに回復していく。
さらに敵を対象に取れば炎で燃やすこともできるという高難易度魔法。
ルークの知るアーミアでは到底使えるはずもない「炎帝」の魔法を使いこなしていた。
あらかじめルークからアーミアの事を聞いていたフーリアはその光景に違和感を覚えていました。
「どうしてアンタがその魔法を使えるのよ!!」
「うふふ、私もバレンタインだからよ」
「アンタは継母の子供でしょ!真のバレンタインの血を引いたルークのお母さんの血を引いていない!!」
「……じゃあどうして使えると思う?」
そんな答えの出るはずのない問いかけに黙っている二人。
これまでの話から、考えてもバレンタインの血を引いていないアーミアには不可能な芸当に見えてしまう。
しかし、固有魔法はその血筋が使えるもので世界には10の固有魔法が存在する。
たった10の血にしか流れていない魔法……それは古い魔法であればあるほど枝別れてしている。
つまりアーミアは遠いバレンタインの血を引いている子供だった。
だけどその血があまりに薄すぎるせいで今までルークのレベルの魔法を使えなかった。
それではどうして、今のアーミアがルークと同じ魔法を使えるようになったのか。
それは至極簡単な事だった。
「ルミナ様に尻尾を借りたのよ」
聖獣の力……ルークに憑りついていた妖狐の手助けのおかげだった。