第286話 女神降臨
アマノの首都にはお城よりも広い神社があるという。
街の雰囲気は現代社会のコンクリートやレンガを使った頑丈な建物でビルのない都会と言った感じ。
異世界に似つかわしくない街並みだけど、さらに異世界にあって異彩を放っている神社……。
建物が並ぶ街中を進んで行くと急に自然豊かな道が見えてくる。
進んで行くと、どこかで見たことのある鳥居が見えて来て、ショナはそれを見て驚きの声を上げる。
「わぁ!あれ見たことあるよ!!」
「エステリア近郊の廃棄された湖の中に沈められていたよくわかんない構造物ね」
「遠くにも遺跡?でも人が出入りしているから建物かな?」
「なるほど……ルークはあの構造物が何なのか知っていたのね」
3人の無言の圧力が私へ向けられる。あの時は転生したことは隠していたかったので説明できないんだけど、少しくらい『話してよ』と視線を向けてくる。
いつもなら目を逸らすんだけど、先の戦いでフーリアにおぶってもらっている状態なので当然のことながら、今は身体が動かなくて首も動かないのでその視線を避ける事もできず、逃げ道がない。
異世界から転生してきたことがバレれば嫌われてしまうから隠していたというのは3人とも知っているんだけど、それでもいざ目の前にその隠していたものを見せられて怒っているようにも見える。
しかしそんな空気の中でショナの元気な声が響く。
「これからは隠し事しなければ許してあげる!」
「はい……」
ショナのそんな優しい言葉に涙が溢れてきそうになる。
そんな様子をただ黙って見守っていたミツキはユウリの背中から身を乗り出して、早く神社の中へ入るように勧める。
見たことのある建造物だけど、どこへ向かえば良いのかまでは分からない。
ミツキが来てくれたのは結果的に良かったと言える。
ただ、ユウリに背負ってもらっている割に偉そうだ。
それでも悪態を付きながらも案内してくれる。
その女神様が降臨したのは本殿の中みたいでそこへミツキは入るように促す。
当然フーリア達も何の躊躇いもなく入って行くんだけど……日本人としての感覚からか、入るのは罰当たりだと思ってしまう。
ここは異世界であり、今は緊急事態なのでミツキは何の躊躇もなく中へ入るように指示する。
フーリア達には本殿に入る事への罪悪感はなく、ズカズカと土足で入っていく。
靴を脱ぐように言われることは無く、そのままで良いみたい。
戦いになる可能性を考えた結果なんだろうけど……。
凄い罪悪感…………。
本殿の綺麗な畳を踏み荒らしながら少し進んだ先に眩い光が見えてくる。
そのまま突き進むとそこには巨大な魔法陣とそれを覆うタイヨウ達がいた。
「お?来たかルーク!って何だその恰好は」
「魔力を使い過ぎました」
「お前アイツの転生なんだろ?なら最初から膨大な魔力を持ってるはずだが?」
「……ルミナっていう狐の聖獣に少し取られたのと、女神剣を連発したので」
「あーうん、取られててそこまでできるのかよ……やっぱり規格外だなお前」
それでもアークトゥルスを倒しきることはできなかった。
ムーンが与えた力でそこまで強くなるんだから、ムーンの魔力は私を超えているということだろう。
というか女神が現れたという割にタイヨウも他の皆も平然とし過ぎじゃない!?
何も脅威だと思っていないような、むしろ安心しているようにも見える。
「あの女神が出たって……」
「ん、あー多分お前の思ってる奴じゃない」
「へ……?」
「ほら神様っていっぱい居るってお前言ってたじゃん。……あ、でもそれは前のお前から聞いたんだよな」
「……まあ知ってますけど」
「さすがだな。その女神の誰かなんだが、見てわかるなら、ぜひ会ってくれ」
どうやって呼び出したのか気になるけど、とりあえず言われるがまま、その女神を確認する。
サツキ達が囲っているので、まだ良く姿は見えない。
マツバとルーフェは女神の姿を見て唖然として口を開けてマヌケな顔をしていた。
そしてサツキは……何故かその女神を怒りを露わにして色々な事をマシンガンの如く連発している――ちなみにその内容は……。
「どうして俺が男に転生してんですか!!」
「あらサツキちゃん!立派になったね~!!」
「じゃなくて!!」
「ふふふ、私は愛の女神よ?あなたが一番愛を得られるのがその姿だと運命が示していたの。だから男の子に転生するのは必然だったのよ」
「どういうこ――」
「あ、その答えかもしれない人がちょうど来てくれたわ!!ルークさん~!」
「ルーク!?」
サツキは愛の目身が様と言い合いをしていて気付かなったみたい。
サツキと同じで異性に転生した者同士、その気持ちはとても分かる。
私もあの悪い女神と再会を果たしたのなら色々と問いただしてやるんだから!!
と言っても私は前世の記憶が薄いので性別の事はあまり気にならないんだけどね。
「ほ、ほんとに女神様がいるし、しかも知ってる……」
「あー!!ルークちゃん!!!!無事で良かったよぉ~」
愛の女神様は豊満な胸を私の顔に押し付けて抱きついてくる。
これは女の子に転生してしまった私でもちょっと恥ずかしいというか、変な気分になる。
だけど今はTPOをわきまえないといけない。
そ、それに変なことなんて考えていない……ただ一つ言えることがあって、女神様を前にすると知らない……いや忘れていた感覚を思い出す。
男性だった時の記憶が少しだけ鮮明に入ってくる。
「これは……」
私のそんな疑問を愛の女神様は遮る。
「さて、久しぶりの再会だけど、それどころじゃないの」
「え?」
「あの邪神が復活するかもしれないの……それを伝えたくて!!」
 




