第284話 最古の聖獣
アステリズムの魔力が暴走し、爆発する寸前で私はタイヨウに言われた通り叫んだ。
と言っても体が動かないし大きな声をあげる体力もないので小さくだけど。
しかしそんな小さな声を聞き取った超巨大なカラスがまるでヒーローの如く颯爽と現れた。
神様でも降りてきたかのように暗くなっていた空の隙間から後光がカラスを照らしている。
カラスのサイズは空高くに舞っているというのに青空を覆うほど大きくて、空に山が浮いていると錯覚するレベルだ。
神秘的な光輪まで背中に乗せていて、本当に神様みたい。
そんな神と見間違えるほど美しいカラスは後ろの光輪が鏡のようにアステリズムを映す。
「ヤタノカガミ……私が魔力を正常に戻しましょう」
アステリズムの魔力自体は落ち着いて爆発しないように制御された。しかし、その異常な姿までは元に戻らない。
既にムーンの魔力と身体が同化していて切り離せないみたいだ。
「やはりムーンの魔物の魂が混ざった魔力を除去することしかできぬか」
「あ、あなたは一体……どうやってムーン様の魔力を!?」
「そんなことより、お前は自信の愚かな行動を悔い改めよ」
「……馬鹿ね……この程度で私が負けるはずがない!!」
「はぁ……お前もまたアヤツに唆された者。多くの人々を殺した……だからそのような醜い姿に変えられてしまうのだぞ」
「醜い?この私が?よく見て見なさいよ。確かにあなたは綺麗だけど、私ほどじゃ……」
アステリズムがそう呟いた瞬間、彼女の動きが止まる。
何かあったのだろうか……。彼女の目にはとある一点へ集中していた。
それは、カラス背中にある魔法で鏡のように成った光輪。
魔力で作られた鏡から自分の醜い姿を確認してしまったみたい。
目が飛び出しそうなほど大きく膨れ上がり、羽はもう飛べないだろうボロボロで足は鳥とはいえ細く、骨が所々むき出しになっていて、不気味さが際立っている。
いくら自分の姿は確認しにくいとはいえ意識してしまえば気づくはず。
「その鏡に映っているのは……」
「お前だ」
「嘘よ!何か細工をしたに違いないわ!!」
「嘘じゃない。じゃなければお前を鏡に映して魔力を制御できない。この鏡は映したものの魔力を確認、操作できる」
「そんな……嫌、どうして!!」
「ムーンの魔力の影響よ」
ムーンの魔力の影響でおかしくなったことに気づかなったアステリズムは正気を取り戻した。
おそらく認識や記憶もムーンに操作されていたんだろう。それなら先程の妙な言動にも辻褄が合う。
カラスが認識を正常に戻したことで、気づいてしまう。
映る自身の姿は美しいと思えるように書き換えられていたことに……。
「いやだいやだいやだいやだ!!」
「……」
「ちがうちがうちがうちがう……こんなの私じゃない!!」
「残念だが、違わない」
「黙れえええええええええええぇぇぇぇ!!!!!!……はぁはぁ……はぁ……!!」
アステリズムは泣きそうな声で叫ぶ。
「魔剣バアル!!!!!!!!」
突然、バアルの名前を呼ぶと空から黒雷がアステリズムの頭上に落ちてくる。
ただでさえ瀕死状態だったのに、カラスの魔力を当てられて意識を保てている。そんな状態で自分に雷を落とせば……。
「こんなのは私じゃないもん。あははははははは、これは夢。あの人が私を殺すわけないもの!!」
「……愚かなことをしたとはいえ、乱したのはムーンだ。罪は許されぬが、相応の苦しみを今まさに体感している。それを持って罰としよう」
「夢から覚めて……!!私は美し…………」
「そこから先は神が決めるであろう」
アステリズムは無慈悲にもショナが声をかける前に砂となって、晴れた空の中へ漂っていく。
この時ショナが何を考えていたのかは分からない。
だけど、彼女の表情には怒りと悲しみ……しかし、最後には凛々しい頼りがいのある目をその空へ向けていた。
復習を果たした……とはまた違うけど、ショナにとってはこれでよかったのかもしれない。
彼女の手を直接汚す事が無かったんだから。
私はその時のショナを見てそう思った。
「ショナ……」
「ムカつくけど、あいつは操られていた悲しい女。恨みはあるけど、ずっとそのままじゃダメだって分かってる」
「そう……」
「だから、その元凶である。魔王教団の教祖を倒したい!!」
「私も協力してあげるわ」
「フーリアはルークを守りたいだけでしょ」
「なっ!?違うわよっ!!!!」
違うと言われて傷つくのは私なんだけど……。
いや、今はそんなことより一番気になるものがずっと空を漂っている。
というかアステリズムが消えていった瞬間、空にはあのカラスが見えなかった。
いなくなったのではなく、サイズが小さくなり普通のカラスの大きさに変化している。
「さて、あなた達よくやってくれたわね」
「うわぁ!?助けてくれた鳥さん?さっきより小さいね?」
「姿は小さくなったが、怖くないのか?」
「怖い?こんなに可愛いカラスちゃんを怖いなんて思わないよぉ~!!」
ショナは完全に吹っ切れたのか、可愛らしいカラスに頬を当ててその感覚を楽しんでいる。
当のカラスはあまりいい気分ではないみたいだけど。
「お、おぉ……一応私はこの国の王より上だぞ?」
「私はそういうの気にするなってルークやみんなに言われてるの!」
「ル、ルーク様に!?……なら……許そう」
「やったぁ!!」
どうして助けてくれたのか気になったんだけど、この会話を聞く限り悪い人ではなさそうだ。
それなら今は……。
「魔力を戻したい……」
「わかるわ……初めてあんたと意見が合ったわ」
「はは……」
「向こうは楽しそうだけど、まさか聖獣アマノ様が助けに来てくれるなんてね」
聖獣アマノ……それが私達の危機を助けてくれたカラスの名前だった。
 




