第279話 焔の固有魔法
剣の真名を叫ぶと今までとは比べ物にならない程の炎が剣から溢れ出る。
噴水のような勢いで炎が溢れてくるので剣を両手で握らないと吹き飛んでしまいそうになる。
咄嗟に魔法を使って刀の炎をコントロールする。
魔力と剣の炎が混ざり合う事で強制的に女神剣へと昇華する。
「その剣が真名を教えてもらった炎帝剣……?」
「炎帝刀アマテラスだよ」
「どっちでもいいわよ……それよりもう私の魔力ほとんど無いんだからこれで最後……絶対決めてよね!!」
ミツキは魔導騎士だけど魔力量をあまり多く所有していない。
そのため強力な女神剣は1日に打てる回数が少ない。
これで3回目、ミツキの魔力を考えるとこれで最後だ。
このアークトゥルスを倒して聖獣を守り抜く!!
「女神剣アメノウズメ鳳凰!!」
「女神剣アマテラス鏡焔!!」
ミツキの綺麗な黄金色の炎は小さな斬撃をまるで踊っているかのように放つもので普通なら細切れになりながら炎で焼き尽くされる。
ただ魔物化したアークトゥルスは致命傷を避けながらもちょっとずつ削れている。
先ほどまで私達の攻撃を正面から受け止めていたアークトゥルスは炎から逃げるように駆ける。
「あいつ急に攻撃を避けて……!!」
「任せて!」
「どうするのよ……ただでさえ私とアンタの炎は打ち消し合うのに!!」
炎帝刀アマテラスから放たれる白い炎は斬撃となりて、アメノウズメが放った炎を纏い始める。
中央に巨大な白い炎の斬撃とその周辺に炎で黄金の無数の斬撃が集まってきて、アークトゥルスを狙う。
どれだけ動こうとも避けようとも炎は私がコントロールしているのでいずれ当たる。
「くっ……何なんだこの炎は!!」
「恩人であるエキナさんのためにもアナタにはここで退場してもらいます……!!」
そして逃げ惑い続けて疲れたアークトゥルスはついに炎を正面から受ける。
今度は打ち消し合うことなく、炎はそのままの威力でアークトゥルスを捉えた。
しかし――。
「まだ……ムーン様の魔力がある限り……!!」
まだしぶとく、炎の中で抗っている。
「噓でしょ……まだ耐えているの?もう魔力が……」
このまま燃やすことができればムーンの魔力も尽きるだろうけど、それまでミツキが持つとは思えない。
そこへ魔力が切れそうで目にクマができる程衰弱しているミツキが声を掛けてくる。
「はぁ……はぁ……アンタはあの魔法を使えないの?」
「あの魔法って?」
「私の転生先であるこの身体は炎の魔導騎士で私達の血筋は全員使える禁忌魔法」
「固有魔法ね……私は使えないわ」
「本当に使えないの?」
「え……?」
「あなた本当は使えるんじゃない?私は感じるんだけど」
今、私の魔力とミツキの魔力は合わさって合体している状態。
その魔力を通じて何かを感じているという。
私が知らない固有魔法を使うなんてそんなことできるわけ……。
そう思った次の瞬間、私はある違和感に気づく。
それはリリィータートルに遭遇する前のこと、私は「白百合の盾」を見ただけで使えた。
リリィータートルを吸収して「白百合の盾」は強度が増して、細かな魔法の能力を知ることができた。
それによりクオリティが上昇して実戦レベルで使える程になった。
でもその前からでもどんな攻撃でも受け止められる「白百合の盾」は使えていた。
見ただけで知っただけで……まさか……。
「魔法の概要は?」
「え?」
「その固有魔法はどんな魔法なの!?」
「ふふ……聞いて驚きなさい……この魔法は、爆裂魔法で炎を元に大爆発を起こすの」
「え……」
「炎が強力であればあるほどその威力は凄まじく、私達は制御できずにその爆発に巻き込まれるわ!」
「……」
使い道のない魔法と言っていたのはこういう事か。
炎に爆破属性を付与、強力な炎ほど大きな爆発を引き起こす。
それ故に近い距離に居たりすると巻き添えを食らう。
剣士が多いミツキの家系だと剣距離でしか発動できないから爆発に巻き込まれるので使えないというわけね。
なんて不憫な魔法なのか……爆裂魔法……。
「それやるね」
「自分て言っておいて難だけど、あの炎を爆発させたら街が一個消えるわよ!?」
「大丈夫、信じて」
「いぃ……分かったわよ。死んだら恨むからね」
「私はあなたが死んでもなんとも思わないけどね」
「はぁ?私はアンタと一緒に死ぬのが嫌なだけよ!!」
同じ炎を共有していてもやっぱり仲良くなることは無理そうだ。
目を閉じて自分の炎へ意識を向ける。
炎を爆裂魔法に変える魔法をイメージする。
「白百合の盾」を使った時の事を思い出し、魔力を注ぐ!!
「爆発付与!!」
魔法の名前を知らないので適当にそんな名前を叫んだその時、炎の斬撃は光り輝いて勢いよく爆発した。
ミツキの複数の斬撃は全て爆発して白い炎は巨大な爆発を引き起こした。
「ちょちょちょ……これどうするのよぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!?」
その瞬間に炎をコントロールして爆発の炎をそれ以上漏れないようにアークトゥルスへ集めた。
頭を押さえて伏せていたミツキは爆発音がして、もう駄目だと思ったんだろう。
しかし音がしただけで何も無くて、頭を上げると爆発が凝縮してアークトゥルスのみを爆破しているのに気づく。
「アンタ……やってることえぐいわよ……」
「これで被害は無いでしょ?」
「まあ肉片すら砕け散るでしょうね……」
魔力も体力もほとんど使い切ってしまい、地面に尻餅をつく。
ミツキは四つん這いになりながら肩で息をしていた。
「もう……むりぃ……」
「お疲れ……これでさすがにアークトゥルスも生きては……」
生きてはいない……。
そのはずだったのに、アークトゥルスの居た所から魔力を感じる。
私とミツキは魔力を感じて焦る。
もう私達は立つ力すらないのに、ドロドロに身体が溶けたアークトゥルスが醜い姿になっていた。
しかしそのまま私達の方へ近づいてくる。
「あがががあがががががが!!」
意味不明な事を叫びながらノソノソと近づいて来てとっても不気味……しかも身体は大きいから踏まれたら間違えなく……死ぬ……そんな時だった――
熊の聖獣が私達の前に立つ。
「ムーン……最悪な魔法を教えたな……」
クランはドロドロに溶けたアークトゥルスに触れる。
すると手は焼けて、ジュゥゥッと痛々しい音が響く。
「クラン何を!!」
「認める」
「え?」
「ルーク様を認めてこの力を託す……これはオデが死んでもあなたに受け継がれるから!!」
その瞬間、クランは魔法を使って自身の身体を燃やし始めた。
そして……。
「これがさっきアンタが使った固有魔法インフェルノだああああああああああ!!」
クランはそう叫びながら湖の中へアークトゥルスを抱えたまま飛び込んだ。
 




