第278話 炎帝刀
私とミツキは2人同時に女神剣を放った。
自分の剣に自分の魔力を与える事でこの世界の住人では使えない最大の一撃を放つことができる。
魔導騎士は完全では無いモノの、女神剣という魔法と剣を合わせることができ、威力は相当なモノになる。
それを2人同時に放ったんだから、魔物化したアークトゥルスにはやられてもらわないと困るんだけど……。
炎の中に禍々しい角と大きな体が立っているのが見えた。
「こんなものか……!!」
「なっ……どうして……ちょっとアンタ真面目にやんなさいよ!!」
倒れるどころか全然効いていない……そして何故か倒せていない矛先は私に向いた。
こっちだって真面目に剣を振った。
威力で言ったら魔力総量の多い私の方が上で魔力をふんだんに注いだ一撃はミツキの剣よりも大きく、相当なモノだったはず。
むしろミツキの方が真面目にやらなかったんじゃないの!!
口には出さないモノの、態度に出ていたのかミツキは私を睨む。
「何か言いたげね?」
「……そっちだってちゃんとやったの?」
「はぁ!?全身全霊で女神剣を撃ったわよ!!」
「私だって……じゃあもう一度やるから……」
「命令しないで、私に合わせなさい」
「……」
この子は私に何か恨みでもあるのだろうか、フーリア達ならこんなことにはならないのに……。
当のフーリアは戦いに参加出来ない事を悔やんで剣を力強く握っている。
ショナ達は魔物化したアークトゥルスの後ろに居る。こいつを倒さないと手が空いているフーリアをショナ達の助けにいかせられない。
もう一度同時に女神剣を放つ。
今回は何が悪くてダメなのか判断するために2つの炎を注意深く観察する。
すると私の炎とミツキの炎がアークトゥルスにぶつかる寸前でぶつかり合っていた。
炎は混ざることなく、まるで今の私たちのように喧嘩を始めてお互いの威力を相殺してしまう。
2つの炎はアークトゥルスに当たりはするけど、寸前で威力を打ち消し合ったせいで勢いが全然足りない。
「くそ、まだアイツ生きてるじゃない!」
「どうやら私の炎とミツキの炎はぶつかり合って相殺してるみたいね」
「それじゃあアンタのせいじゃない!!」
「いいえ、ミツキの炎が私の邪魔をしてた。私の方が威力は上だもん」
「はぁ!?私の美しい炎がそんなことするわけ無いでしょ!アンタの血のような下品で真っ赤な炎が原因じゃないの!?」
「私の炎だって綺麗だよ!」
私達は戦闘中でありながら、ガミガミと言い合いをしていた。
頭の中ではこんなことをしても何にもならないと分かっているのに無性にムカついてしまった。
当然そんな隙だらけの私達を見逃すはずもなく、アークトゥルスは巨体を利用して体当たりしてくる。
言い合いをしていたせいで避けることが出来ずに正面からぶつかる。
「きゃああああっ!?」
「うぅ……!!」
見た目通り、ただの体当たりでも凄まじい威力を誇っている。
これ、何度も受け止める事は出来ない。
どうにかして私達の炎を収束させて協力し合うことで高威力の女神剣を叩きこむしかない。
でも私の炎とミツキの炎は相性が悪い。
どうするべきか悩んでいると突然……ずっと眠っていたクランが大声を上げる。
「ルーク様!転生したアナタはその程度か……!!」
「クラン……!?」
「オデの知るルーク様の剣はどんな炎であろうとモノにしてきた……味方の炎、敵の炎……炎はアンタの力だろ!!アンタの剣にはその力がある……剣を、思い出せッ!!」
剣を思い出す……?
私の炎帝剣はこの体とはサイズが合わないものになっていて、これもまた炎帝剣の姿であり、本物だ。
だけどたまにこれは私にピッタリの武器なのかと疑問に思うことがある。
……ここまでずっと使ってきて感じるのはサイズ感が合わないことで戦いの範囲がの縮小するし……。
大きすぎる剣は私の動きを制限して、技も大振りの隙だらけのものばかりになってしまう。
この剣は過去のルークの物だけど現在のルークのものじゃない。
思い出す……果たしてそうだろうか、思い出すんじゃ過去のものと変わらない。
私はルーク=バレンタインだ!!
炎帝剣は今の私の一部なのだからその姿を想像する。
視界が炎に包まれるとそこから精霊が顔を出す。
『ようやく、妾と契約する気になったか』
「アナタは……」
巫女服に神様が頭の上に載せている天輪を持つ赤い髪の女性の姿をした精霊が現れる。
まるで女神のような見た目をした精霊は綺麗な声で言い放つ。
『さぁ、手を取りなさい。妾の真の名は……』
その瞬間、炎は剣へ……いや刀へ集まっていき、収束する。
炎帝剣は形を変えてこの少女の体では太刀くらいのサイズだったのがみるみる縮み、私のサイズに合う程よい刀と成った。
「ちょっと!何してんのよ……どうやって武器の形状を変えて……まさかまだ契約済みじゃなかったの?あ、あの威力で…………?」
「ミツキ……もう1回やろう」
「はぁ?私達の炎はぶつかり合うだけでしょ?」
「お願い」
私は次で決められると確信していた。
だけどそれは私一人ではダメ……ミツキの炎も必要だろう。
私のその意志を理解してミツキは一度ため息を付いてから――
「……わかったわ。だけどもう魔力がないからこれで最後だから!」
と言ってくれた。
私はそれに対して自信をもって応える。
「大丈夫、これで終わるから」
この刀は現在の私が使うためのもの。今までは前の私が契約した剣を使っていたので真名も何も分からなかった。
ようやく刀と対話を望むことができて、その真の姿と名前を思い出す。
「焔よ……今はただ荒ぶれ!!炎帝刀アマテラス!!!!!!!」
 




