第277話 炎の助っ人
アークトゥルスはネックレスに宿る不気味な魔力と混ざり合ってその身体の形状を変えていく。
ブクブクと大きく身体の体積が膨れ上がっていき、魔物のような姿になってしまった。
牛をベースにした禍々しい歪な魔物。
「ちょっと大きくない?」
「聖獣……いやそれよりは流石に小さいけど、それでも他の魔物を寄せ付けない程大きい」
「聖獣ならぬ悪獣ね」
「そんな事より、これどうすんのよ!」
倒さないと後ろに居る聖獣にも危害が及ぶ。
聖獣は未だに動こうとせず、むしろ湖の中潜って眠り始めてしまった。
本当に何を考えてるのよ……。
強さゆえに油断か、それとも私を試したいのか、その真相は分からないけれど、このまま聖獣を渡すわけにはいかない。
炎を剣に纏わせて、フーリアと共に悪獣アークトゥルスに向かって行く。
2人で剣を交差させながら交互に攻撃を加えるが、身体に傷を付ける事すら敵わない。
「これは……」
「ムーン様の魔力……これがある限り俺は死なない!!」
「その見た目で意思があるの?声も元のままだし、気持ち悪っ……」
「黙れっ!!」
牛の化け物になったアークトゥルスは鋭くとがった角を使って悪口を言うフーリアに突進していく。
持っていた剣はどこへ行ったのか、もしかしたら魔力と一緒にアークトゥルスの身体に取り込まれたのかも。
だとしたらもしかしてあの角……。
「フーリア!角に触れないで!!」
「言われなくてもこんな気色悪い角に触りたくないわ!」
フーリアの言い方は相変わらずだけど、言いたいことは分かる。
なんというか生物から生えているとは思えない禍々しさを感じて触れたらそこから腐敗するような嫌な感じだ。
さらにグネグネと曲って、黒や茶色や緑色など暗い色をふんだんに散りばめられていて不気味。
しかしその曲がっている角を剣で受け止めるのがなかなか面倒くさいみたい。変な所に引っかかると剣を取り上げられてしまいそうになりフーリアは歯を食いしばる。
見た感じあれは怒っている。
フーリアは角を使った体当たりを剣で押さえているんだけど、やりづらそうだ。
「こいつの角……剣に入れる力が入りにくい!!」
「変な形だからね。少し離れて風を起こせる?」
「どうするの?」
「女神剣の炎とフーリアの風を合わせて一気に突破する!!」
「なるほど、共同作業ね」
「きょ……ちょっと違うけど、間違ってないか」
そういう言い回しはこの場に適していない気がするんだけど、そういう知識を持っていないのかもね。
フーリアは家を取り戻すために勉強や剣術の鍛錬を怠らなかった。故にこういう言い回しの使い方を知らないんだろう。
おかしなところで使わないように後で説明してあげよう……決して他の子にその言葉を使って欲しくないというわけではない!!!!!!
私とフーリアは今出せる全力でアークトゥルスへ同時に攻撃を仕掛けた。
大きな体になってくれたお陰大技でも外れることはなく直撃する。
魔力で再生するとはいえ、あのネックレスに入っていた魔力を使い切れば倒せるはず。
魔力を溜めていた媒体は小さなネックレスであり、そこまで大量の魔力を所持していないだろう。
そう思っていたんだけど、アークトゥルスはピンピンしていた。
「どうして……2人の同時攻撃なのに!!」
「白い髪の小娘の風、それはただの風の剣の力のみ。女神剣でなければ我が体に傷は付けられんぞ」
余裕があるのか丁寧に倒し方を教えてくれるが、こいつを倒すには魔導騎士の力が必要なわけか。
炎の女神剣なら何とか作れるけど、私は風の魔法があまり得意じゃない。
そもそも2人の力を合わせて女神剣を作れるなんて聞いたことがない。実質こいつに傷を与えられるのは私だけになってしまった。
だけど私1人の炎だけではあまり効いていない。
「貴様の力もなかなかのものだが、俺を砕くことは出来ない!!」
私だけでは力不足……。
でもこいつを倒せるのは私の力だけ、他に魔導騎士はいない。
打つ手がない……。
そんなことを考えていた時だった……背後から熱い何かが近づいてくるのを感じる。
「だらしないわね!」
背後から不愉快な声が聞こえると、その声の主はアークトゥルスに向かって炎の斬撃を加えていた。
傷はすぐに癒えたものの、凄まじいパワー……この剣の炎に私は嫌な見覚えがある。
「ミツキ……どうしてここに?」
「……何その嫌そうな感じ。はぁ……サツキに頼まれたの、ルークを助けて欲しいって」
「サツキが……?」
「全く、この程度でサツキの隣に立つなんて100年早いよ」
隣に立つつもりは無いけど、有難い助っ人が来てくれた。
だけどこいつを倒すには女神剣が必要……魔力量の少ないミツキで何回撃てるのか。
「ミツキ、女神剣は?」
「使えるわよ。当たり前」
「同時に発動してあいつを斬る。協力して!」
「あなたの命令は聞きたくないけど、サツキに助けてやれって言われたから仕方ないわね」
「ありがとう!」
「……ふんっ、だっ!!」
私のお礼の言葉なんて要らないとそっぽを向くミツキ。
それでも女神剣の準備はしてくれた。
「踊れ踊れアメノウズメ。炎を纏いて――」
ミツキは魔法の詠唱を始める。
女神剣は魔法を剣に付与することで発現する魔導騎士の奥の手。
2つの力を同時に使うので集中力を二倍消費するし、何より一度に膨大な魔力を消費する。
そう何発も撃てるものじゃない。
私は1発撃ってしまったけどまだ魔力に余裕はある。
目を閉じて剣に魔力を集中させる。
「神をも魅了する炎舞!!女神剣アメノウズメ!!!!」
「破壊の炎よ……敵を灰燼と化せ!!炎帝女神剣!!!!」
ミツキは連続の炎の斬撃を放ち、私は一発の膨大に膨れ上がった炎の斬撃をアークトゥルスに浴びせる!!
 




