第269話 ぶつかる炎
あまり強そうな聖獣じゃなかった事を少し残念に感じながらもこれで6体目に会う事が出来た。
これで力を貰えればまた新しい魔法が使えるようになる。
固有魔法はたまに使える人と会うけどその回数は少ない。それだけレアな魔法なのでどれだけ弱そうな子でも期待してしまう。
しかし聖獣は私を見下ろしているだけで特に何も話そうとしない。
何か言ってくれないのかな、とりあえず声を掛けてみる。
「あの……」
「……」
あれ、最初はルーク様~って呼んでくれたのにいきなり無視された……。
というか熊の聖獣が私の事を見ているようで見ていないような……私の事を疑っているのだろうか。
私の中を覗くようなその視線はいくら弱そうな聖獣でもちょっと不安に感じてしまう。
襲われて食べられるのかと不安になっていると聖獣は一言呟く。
「オマエはまだあの人じゃない」
「え……?そりゃあ、まあ転生して人が違うので……」
「そういう事じゃない。確かにあなたはルーク様だ。なのにその身体に宿る剣を扱えていないんだ」
「剣……?炎帝剣の事?」
「炎帝剣?まだその真の名前を思い出せていないのかオマエ」
炎帝剣の本当の名前……?これは炎帝剣じゃないの?
私の中にある炎の剣に意識を向けて、宿っている精霊に問いかけても何も応答がない。
剣には精霊が宿っているので一体化している私は話すことができる。
ただ炎帝剣の精霊は最初に契約したきりで対話という対話はほとんどしていない。
精霊の姿すらも私は見たことが無い。
まさかまだ真名を教えてくれていなかったなんて……そういえば祠で勇者ルークの剣の名前が潰れていてよく見えなかった。
この剣の名前がそれなのだろうか。
「え……でもそれと何の関係が……」
「まだ力は貸せねぇ、炎帝の力をちゃんと引き出せない奴にこの魔法は使えねえんだ」
「私限定の固有魔法ということ……?」
「……いや、ちょうどその魔法を使えるのがオマエのすぐ側に居るが」
固有魔法を使える身近な人物……そんなのは予想できなかった。
炎帝と言っているあたり炎の魔法なんだろうけど、私以外に炎使い居たっけ……?ユウリかサツキ、それともマツバ……?
頭の中でも思いつく人を浮かべて行くがそれに行きつく前にその答えを聖獣が教えてくれる。
大きな手を前に出して差したその人物は……ミツキだった。
「お前はあの方の……使えるはずだ」
「固有魔法……?もしかしてあの使えない魔法の事?」
「お主が使いこなせていないだけだが、そうだなぁ。今からそれ見せてやってくれねえか?」
「なんで……私はこんな小娘のために頑張らないといけないのよ」
「え……じゃあオデはまた寝る……」
「待って、それだと私がタイヨウ様に怒られるんだけど!」
ミツキは考えを巡らせた後でタイヨウに怒られることを危惧したのか、聖獣の願いに応じてくれた。
しかし――。
「その代わり勝負よ!!アンタがサツキの側に相応しいか見て上げるわっ!!」
戦いという形でなら見せてくれるということらしい。
使えない固有魔法って言うけど、どんなのだろう。
今まで強力なモノしか見てこなかったので想像できない。
とはいえ、戦わないとこの聖獣は私に力を貸してくれないという事なので仕方ない。
ここはミツキの胸を借りるとしよう。
それにしてもミツキは私の事を何とも嫌そうな感じで睨んでいた。
どうしてここまで嫌われているのか謎だけど、やるからには全力で戦う!
そうしないと聖獣は応えてくれない気がするから、こっちだって魔王教団を倒したいんだ。
女の子相手でも手加減はしない!!
湖のすぐ側で剣を使った戦いをするようにと聖獣に指示を受ける。
するとミツキは急に問いかけてくる。
「ねぇアンタ」
「なんですか?」
「1つ賭けをしない?」
「賭け?どうして急に……これって聖獣に力を示す試験みたいなものでしょ?」
「それはアンタのね。それに巻き込まれる私の身にもなってよ」
「……賭けの内容によります」
「戦いが終わってから丸一日、サツキとデートする権利を賭けてよ!!」
「はい?」
また突拍子もないことを言い出すんだから。
そういうのはちゃんと本人に許可を取ってやらないと嫌われると思うけどなぁ。
人の気持ちも考えず突っ走るのはまだまだ子供ね。
しかしそれでいて彼女の瞳は真っ直ぐでひたむきな姿勢が見て取れる。
それだけ本気であり一緒に居たいという事なのかな……。
どうしてよりによってサツキ……。
って……よりによってって何よ!!
私は頭の中の雑音を払うために頭を振って気を紛らわす。
い、今は戦いの集中しなきゃ。賭けの成立に関してはサツキが決めることなので私は関与しない。
どうなったって別に……。
「ちなみに当然あなたが勝ったらサツキを譲るわ」
「……………興味無いけど……わかった」
断ろうとしたんだけど、なんだか思っていることと逆のことを言ってしまった。
きっとこれはあれね……仲間を取られたくないって言う私の考えが引き起こしてしまった不運。
サツキには申し訳ないことをしてしまったけど、後で謝ればいい。
頭を動かさずにサツキの様子を伺うとちょっと焦っている様子。
やっちゃったぁ……。
表情を変えないように意識しながらそんなことを考えているとついに戦いが始まる。
相手はこの国でも実力者のミツキ、本気でやらないと……本当にマジなんだから!




