第261話 一番の弟子へ
アマノと魔王教団が戦闘をしている場に遭遇してしまった。
私達はすぐに馬車を下りて戦闘態勢に入る。
当然敵は魔王教団であり、私達はアマノ軍に協力する。
魔王教団も日を追うごとに強くなっていて少しだけ苦戦した。私の魔法があれば薬で人格を変えられた子達を回復ができるんだけど。
薬を多く摂取してその分強くなった人を治すことはできなかった。
治せる人と治せない人を比べるのに時間がかかり、その間も超強いルーフェが相手を止めてくれていた。
彼女が居なければここだけの内乱で敵味方関係なく多くの人が亡くなっていただろう。
ルーフェが魔法で止めている相手に治癒の炎を使う事で一部の人は助かった。
けれど薬を影響を強く受けていたり、自分から魔法教団に協力している人達は救えなかった。
後者に関してはともかく、前者を救えない事に自分の力の無さを嘆く。
リゼルのように薬の影響で息絶えた人達を弔う。
「私ではまだまだ力不足……」
「そんなことはないよ!ほら最後にこの少女も頼むよ」
それはか弱い少女に見えるが、表情や荒ぶる魔力が膨張して今にも爆発しそうだ。
しかし、美少女なんだよね……。
「……いかにもルーフェ先生の好きなタイプの子ですね」
「だから助けてよ」
無茶な事を簡単に言ってくれる。
ルーフェも血統が必要な魔法は使えないので今の所この薬の症状から人を助けるられるのは私だけ。
最後の1人か……私よりも小さくて、あどけない少女だけど、助けられるかな。
そんな不安を覚えつつ、私は魔法で少女の身体を包む。
治癒の炎に焼かれた少女の身体は燃えることは無く、傷や症状を治す。
少女の身体は小さくて、薬の影響も沢山受けているみたい。
あまり負担は掛けられないから残りの聖獣を探してこの魔法の制度を上げるしかない。
ここはひとまず、この子を拘束してその時まで待ってもらうしかないかな。
そんなことを考えて治癒の炎を止めようとした時だった。
ルーフェは下ろそうとした私の手を取る。
「まあまあ諦めずにやってみようよ」
「でも……」
「君は何というか諦めが早いよね」
「え……」
「仲間とか友達とかそんな人達の事になると諦めずに頑張ろうとするのにそれ以外は無理そうなら即諦める」
「それは……さすがに優先するものと言いますかこの子だって一時的に閉じ込めておけばいずれ確実に助か……」
「そのいずれが来るまでにこの美しき少女はどんな姿になるのか、ボクは簡単に想像できるんだけど、君はどうなんだい」
「……」
そんなことを言われても無理なものは無理。
現に何度もこの治癒の炎は壁にぶつかり救えなかった人は数え切れない。
だけどそれは聖獣を取り入れることで魔法の制度が上がり、だんだん完成していく。
それを待てばいいのに……。
「ボクの弟子がそんなんじゃダメだ」
しかしルーフェは私のその考えを真っ向から否定する。
こんなのはアレだ。パワハラに近い理不尽、皆だっておかしいと言ってくれるはず。
だと思ったんだけど、みんな私のことを心配そうな目で見ていた。
一部傷ついた人を運んでいるけどこのルーフェの言葉に異を唱える人はいなかった。
するとルーフェは珍しく口調を荒げる。
「醜く欲ばれよルーク」
「え……」
「全部、全部上手く行くように欲張ってみせるんだ。これは無理あれはダメと切り捨てて結果良ければ全て良し?ナンセンスだよ!!」
「……」
「馬車で話を聞いて確信したけど、中身は結構大人でしょ?大人になると自分で可能性を潰してしまうことが多くなる。だけどボクの一番弟子になった以上はそんな弱音は許さない。全力でやり切ってみろ!!」
身勝手なことを……私が一番弟子になったとか知らないし少なくとも認めていない。
こんなちんちくりんな小さな少女の見た目をした40代の身勝手な人なんて……。
治癒の炎を受けて少しだけ自我を取り戻した少女が苦しげな表情を向けてくる。
胸を抑えて、小さな手を差し伸べる。
「お願い……お姉ちゃん……助け……て」
「――ッ!!」
そんな掠れるような小さな声を聞いてしまえば無理とは言えないじゃない!!
失敗する恐怖は誰よりも知っている。
辛いし挫折した時は食事すら出来ないくらい落ち込むようなタイプでしかもこれは失敗すれば少女が死ぬ。
こんな少女が……。
それは私が大っ嫌いな理不尽だ。
くそ……そこまで言うならやってやる!!
これ以上の治癒はこの少女の体に負担が掛かるだろう。
その確認を取ろうとしたんだけど、その必要が無い事を少女の強い瞳を見てそう思った。
「全力で使うから、多分熱いかもしれないけど……耐えてもらうからね」
「うん」
「責任は全てボクが取る。例えバラバラになっても治すからやれ!!」
最低限の確認を取って私は治癒の炎の出力を上げる。
コントロールが難しい魔法で軽い治癒をしながら攻撃に転用することは出来るんだけど、強力な治癒を与える時は魔力消費が激しく、下手をすると体を焼いてしまう。
生死の境界線上に立っているも同然、力加減を失敗して身体も残らない程の灰にしてしまう。
魔法のコントロールを意識して、魔力を大量に消費する。
今まで自分にはできないと思っていた難解な作業をこなす。
しかしここで少女の体が炎によって一部焼かれてしまう。
「うあぁぁぁぁっ」
「ちょ……大丈夫?」
「やめ……ないで」
手を離さそうとした時、苦しみ悶える少女がか細い声でそんなことを言い出す。
私の炎は自慢の逸品だ。
熱さ、火力、破壊力共に高レベルなもの。
それをまともに受けて私のことを心配するなんてこの少女はどれだけ強いんだ。
くそ……これで無理だったらルーフェのことを恨んでやる!!
再び魔法のコントロールをして、次は間違えないように調整する。
時間にして2分も経っていない。だけど私にとってとてつもなく長い時間だった。
その時、魔法の核心を捉えた……それと同時に炎は金色に輝き出す。
次の瞬間、少女の中から薬の副作用は完全に消えた。




